王宮内の話
エリザの方を見ると少し震えているのがわかった。
「シオン、取り合えず連れて行こうよ。流石に可哀想だ」
「そだね。エリザさんでしたっけ?一緒に来る?私、貴族に対する喋り方できないけど、大目に見てね」
「ええ、それでよろしくってよ!よろしくお願い致しますわ」
ようやく置いてかれないとわかると、エリザは嬉しそうに喜んだ。
「そうだ。歩きながらでいいから教えてくれないか?今の王宮はどうなっているんだい?最近の増税など理由を詳しく教えて欲しいんだ」
レイは真面目に今の政治情勢を聞き出そうとした。
「そのくらい、いくらでも教えますわ。今の王宮がどうなっているのか」
エリザから平民では知ることのできない重要な情報が聞くことができた。
現国王が倒れてから第一王子アベル様が政務を引き継がれてからおかしくなった事。アベル王太子は摂政になってから騎士団を招集し、何かを探しているらしい。詳しくは騎士団上層部のみ伝えられておりエリザ自身もなにを探しているのか知らないようだ。
「そのせいで、街道の警備や魔物退治など、騎士団本来の業務ができていないの。盗賊なども出没するようになって治安が悪化しているのですわ」
「上に立つ人間が変わっただけで国は変わるのね~」
シオンは呑気に言った。
「貴重な情報ありがとう。その王太子殿下が探しているものって、すぐに見つかりそうなものなのかな?それが見つかれば騎士団も元の業務に戻れるし、増税も元に戻るのかな?」
「ごめんなさい。それはわからないわ。正直、なにを考えているのかわからない方だったから」
「エリザと王子の付き合いは長いの?」
シオンの言葉にエリザは少し考える仕草をして答えた。
「そうね。幼い頃から婚約者としての付き合いよ。でもある日から彼は変わってしまったわ」
「ある日から?」
「彼のお姉さんが亡くなってからよ。今の王家は少し複雑なの」
シオンはレイの方を見た。
「はいはい、そんな目で見ないでよ。僕が知っている情報で良ければ説明するよ。違っていたら指摘して欲しい」
まず、現国王には同世代の王妃がいた。18歳の時に婚姻し、20歳の時に王女が生まれる。それから25歳まで子供が出来なく、世継ぎを心配した家臣達から側室を入れることになる。しかしその側室も子供が出来なく、何人も側室を迎えていき、30歳の時にようやく王子が誕生した。同じ側室から翌年双子の王子と王女も産まれてようやく家臣達は安堵した。
ここで1つ問題が起きた。
最初に生まれた第一王女が優秀過ぎたのだ。勉学、戦闘、魔術、どれを取っても天才的な実力を誇った。そこで王妃から生まれた第一王女を【女王】にしようとする派閥と、側室から生まれた王子を【国王】にしようととする派閥で王宮内が割れたのだった。
そこから王宮内は血で血を洗う泥沼の政争に突入した。何人もの側室が毒殺され、王妃や王子を生んだ側室も命の危険にさらされた。
子供達も危険だったが、意外にも子供達自身は良好な関係を築いていた。無論、護衛が付いており、表向きは交流をしていたのだ。
王子達が幼く、第一王女が可愛がっていたというのが正しかった。
そんな中、何年か過ぎ、遂に王妃が毒殺された。
国王は王子と双子の兄妹を生んだ側室を王妃へと格上げした。これには周囲も驚きと戸惑いを隠せなかった。
国王と元王妃は幼い頃からの婚約者で、愛は無かったがお互いを尊重し合っていたからだ。
しかし子供を多く生んだ側室を国王はいつの間にか愛するようになっており、王妃が毒殺されても悲しむ素振りはほとんど無かったという。
そして、少し時間が経ち、第一王女が15歳、第一王子が5歳の時に、第一王女が突然病死したと発表があった。真実はわからないが、噂では毒殺か暗殺されたのではと言われたが証拠が無かった。
こうして、王妃陣営は旗頭をなくし瓦解して側室の勝利で政争は終結し、今に至る。
レイの話を最後まできいたエリザは驚いた。
「これは驚きましたわ。よく平民がそんな裏話まで知っていましたわね………」
「まぁ、色々とツテがあってね」
「そういえばエリザは婚約者でまだ結婚してなかったの?」
「年齢的にそろそろだったのですが、国王様が倒れられて話が頓挫しておりました。それに王太子殿下に意中の女性が現れたことで……その色々と面倒な事になっておりまして………」
エリザはまだ聞きたいことがあったが、目の前の森の入口で衝撃的な光景が広がっていたため聞くことができなかった。