話し合い3
シオンは遺跡と聞いて首を傾げた。
「正確には遺跡に隠されている『何か』をだが」
「そこまでは知らされてないのね」
ブライアンは頷いた。
「知っての通り、このアヴァロン王国ができてまだ100年も経っていない。我が国の祖先を辿れば海を挟んだネクロス王国から移民として6割、陸地ではオオラン帝国から4割ほど移り住んで今の国となった訳だが……」
ここは歴史の授業でも皆が知っていることだ。
「ネクロス王国がアヴァロン王国を狙っているのは皆が知る事実よね」
「そうだ。元々は自国の民なのだから植民地としてこの国が欲しいと前々から言っているのだ」
はぁ~とため息を吐いた。
「話を戻そう。故に、元々この地にいた先住民が残した遺跡が各地に残っている。一部の遺跡には我々より高度な技術で作られたと思われる『遺物』が多く見つかっている。王太子殿下が探しているのは。その遺物の何かだろう」
「多分、ネクロス王国から来た使節団が、点在する遺跡のどれかに王太子が欲しい遺物があると唆した可能性があるわね」
しかし、自国の民を顧みず何を探しているのやら。
皆が重い空気に沈黙した時、ドアをノックする音が聞こえた。
「失礼するよ」
中に入ってきたのは金髪の金の目をしたイケメンの男性だった。
「殿下!なぜここに?」
「すまないねブライアン、ここでの会話は聞かせてもらったよ。私も挨拶しておかないと悪いと思ってね」
殿下は目の前に立つと挨拶した。
「初めまして、第二王子であるジーク・アヴァロンだ。よろしく」
シオン達も慌てて頭を下げて挨拶した。
「ああ、良いよ。昨日の活躍は聞いているから。それよりこれからのことを話そう」
ブライアンさんとジーク王子はすでに話し合っていたようで、その内容を教えてくれた。
「私も王位継承権を破棄したとはいえ王族の一員には違いないんだ。だから独自で情報を集めていたんだ」
「それはジーク王子も命を狙われていたの?」
ジークは少し困った顔で言った。
「そだね。王族は大なり小なり命を狙われる運命ではあるけれど、身内から狙われるのは辛いね」
「だからジーク王子は王位継承権を破棄して辺境へ逃げたんだね」
レイはシオンの肘で突いて、小声でもう少し遠慮してと言った。
「あはは、良いよ。まさにその通りだからね。元々、王位には興味無かったし、兄上が継ぐと思ってたから。それに、本当に怖かったのは妹の方だよ………」
妹????
「どういうこと?」
「うまく周囲には隠しているが妹も兄上同様に、王位を狙っているんだ。私が王宮を逃げ出したのは妹の本性を偶然知って怖くなったからなんだ」
ここにきて妹が登場!?
「マジか~王太子殿下だけでも面倒なのに妹ちゃんまで参戦とは………」
「シオン、言葉使い!」
苦笑いしながら話した。
「シオン嬢は面白いね。でも、内面の恐ろしさは妹のライラの方が怖いと思う。表向きはニコニコと味方を増やして、裏では色々と後ろめたいことも平然とやる性格のようだから」
「なるほど。それでジーク王子は何か考えでもあるの?」
「恐らく王宮内ではすでに兄上と妹の政争が始まっているだろう。問題なのは他国の力を借りていることだ」
「さっき話してたネクロス王国のことだね」
「そう、兄上にはネクロス王国が付いている。なら妹のライラはどうすると思う?」
実権を握っている王太子に、さらに隣国まで付いているとなると分が悪いよね。
私ならどうするか………?
「あっ、オオラン帝国!?」
ジークは微笑んで頷いた。
「そうだ。妹のライラはオオラン帝国の王子の誰かと婚姻を結び、女王になるつもりだ。オオラン帝国も王配を出したともなればアヴァロン王国の政治に食い込めるからメリットは大きいよ」
「でもそれって………」
「うん、代理戦争のようになっているんだ。すでにアヴァロン王国は末期の状態で風前の灯のようなものなんだよ」
アヴァロン王国が無くなる。
「一つ聞くけど、他国が統治したとして、今の生活が維持できると思う?」
「ストレートに聞くね。でも、どうなるかはわからない。オオラン帝国は市民に1級、2級、3級とランク付けしていて、階級の低い市民は奴隷のような扱いを受けているし、ネクロス王国にとって、アヴァロン王国の民は自国を裏切った市民の末裔と思われているから、どんな扱いになるかわからない。無論、我々王家が統治しても今回なことが起きるしね」
「ちょっと待って。ジーク王子はどうしたいの?このまま今の王家が統治できれば良いんじゃないの?」
「いや、正直、今の王家は終わらせた方がいいと思っているよ。すでに父親の代から狂い始めていたしね」
!?
「ちょっとジーク王子!それは!?」
エリザが驚いた声を上げた。
「でも、どうするつもり?他国の統治も良くなる訳じゃないとしたら………」
「すでにグランフォード公爵と話は付けてあるんだ。まだ構想の段階ではあるけど、アヴァロン王国の代表的な大きな街を独立させる。そして議会制を作り、騎士団も均等に配備する。各街がお互いを監視し、間違った方へ向かわないようにして、お互いの得意分野を伸ばして切磋琢磨していく。本来の職人の国として生まれ変わらせるつもりだ」
ジークの言葉にシオンを初め、部屋の中の人々は息を呑んだ。
「本気?いくらグランフォード公爵の助けがあるとはいえ、実権を握る王太子殿下とその協力者であるネクロス王国に、人民の人気の高いライラ王女とその裏にいるオオラン帝国の二人と二国を相手に勝てると思っているの?」
シオンの言葉にジークの雰囲気が変わった。




