【閑話】暗躍する者
とある場所にて──
「で、首尾よくやれたのかしら?」
「はい。摂政であるアベル様の名前でレザーでの臨時徴収はつつがなく完了致しました。流石に街全体での徴収はできませんでしたが、国に納める共同倉庫の商品と近隣の店や民家から加工前の素材や金品を徴収致しました」
「それで良いわ。あの無能な領主はどうなった?」
「クククッ、我が主人もお人が悪い。偽の依頼をさせて有名な冒険者を街から遠ざける作戦は成功。依頼料も一度は払いましたが、そのネタと美人局のネタ二つを使い脅迫して、より多くの金品をせしめるとは………本当に無能な領主でよかったですよ」
クスクスッと笑い声が響き渡った。
「資金はいくらあっても足りることはないわ。それより次の手を打ちましょう」
次の作戦の話となって笑い声が消えた。
「それで、次の手とは?」
声のトーンを落として会話が続いた。
「現状、騎士団の名誉は地に落ちています。今度は少し良いことをしましょう」
???
声の主人の言葉に首を傾げた。
「今、敵国から秘密裏に攻撃を受けているわ。責任は全てアベル王太子殿下に取ってもらうけど、我々の行動にも今しばらく時間が掛かるわ。少し時間稼ぎも兼ねて、嫌がらせをしようと思っているの」
「と、おっしゃいますと?」
「現状、騎士団が王太子殿下の命令を優先して、通常の業務ができていないでしょう?だから、私が指示する場所の盗賊を討伐しなさい。あなたの部隊名を出してね」
「それは構いませんが・・・」
どういう意図が?地図を広げて場所を指した。
「取り合えず、ここと、ここと、この三か所を順番に潰しなさい。ああ、商人が襲われてから助ける形でね」
「なるほど、民達の支持を得る為ですな」
「それだけではないわ。私の名前を出すのを許します。私の名の下の行動しなさい」
!?
「それは危険では?王太子と敵対することになりますよ!?」
ここまで影で動いてきたのが水の泡になりかねない!
「もうそろそろ向こうも気づきそうなのよね。それに協力者の邪魔をするのだもの。王太子よりヤツの協力者が我々を調べるでしょう。もう戦争は始まっているのよ?」
「しかし、まだ我々の方が戦力不足ですが?」
クスクスッとまた笑い声が響いた。
「この作戦には3つの意図があるのよ。王太子が捨ててる民の支持を得ること。さらに軍資金の確保。そして王太子の協力者の嫌がらせね」
「すみません、主人よ。二つは理解しましたが軍資金の確保とは?」
「ふふふっ、さっき言ったでしょう?商人が襲われてから助ける様にと。商人は救うけど、盗賊に奪われた物を返す理由がないわ。盗賊が勝手に使ったと言えばどうとでもなるもの」
嘲笑う様に言った。
「クククッ、流石は我が主人。その思考はとても好ましい!生涯忠誠を誓うにあたい致しますが!」
「ええ、お願いね。私も貴方は数少くない『信用』している人物だもの。私と似た思考を持っているからわかりやすいわ」
「ありがとうございます。我が生涯の主人、ライラ・アヴァロン第一王女殿下!」
「ええ、頼んだわよ。騎士団長のスネーク」
「お任せ下さい。完璧に完遂いたします。元騎士団長は左遷されて辺境の街に追放ですからな。我々にさしずできる者などそうはいませんので」
「スネーク、一つ忠告しておくわ。今度の盗賊は隣国の息が掛かった者よ。油断はしない様に。それに、まだまだ王太子の命令が優先されるため、騎士団長になった貴方でも多くの騎士団は動かせないことを忘れないで」
「はっ!肝に銘じます!最後に一つだけお聞きしても?」
「ええ、良いわよ。なにかしら?」
「敵国の攻撃とは、街道を行き来する商人を狙っていることですが、どんな意図があるのですか?」
ライラはまた地図を見せながら言った。
「盗賊が出現して商人の動きが鈍くなれば物流が止まるということ。危険を犯してでも移動して商品を運ぼうとするとその分、危険手当で値段が上がるわ。傭兵や冒険者を雇う経費の分ね。商品が届かなければ品薄になってまた値段が上がる。隣国は盗賊を使って経済戦争を仕掛けてきているの。それに気づいている貴族や平民が少ないことが問題なのよ」
「なるほど。ようやく私にも全容が見えてきました。しかしそれに気付くライラ様も流石ですな!」
「ふふふ、煽ててもなにも出ないわよ。こちらは敵の戦力を削りつつ、民衆を味方につけて政権交代を狙って行くわよ」
スネークは、はっ!と敬礼をして出て行くのであった。