攻勢準備
攻勢計画を受理した第八七機甲大隊は、攻勢開始地点へ移動を開始するが、道中敵の攻撃に会い、移動が妨害されてしまう。
脱走兵の騒動が起こってから、一週間がたった。相変わらず、我が軍は、各戦線で陣地防衛を実施しており、各戦線の兵士たちの士気は下がりつつあった。
「おい、敵の砲火なんだか、昨日より激しくなってないか?」
塹壕に隠れている兵士が、近くにいる兵士に声をかける。
「ああ、確かに・・・敵が本気を出してきているようだ」と応じた兵士は苦い顔をしている。砲撃の振動が塹壕全体に響き渡り、土埃が舞い上がる。兵士たちは疲労と不安の中で何とか持ちこたえていた。
「こんな状況がいつまで続くんだ・・・」と誰かが嘆く声があちらこちらで聞こえる・・・。
絶え間なく続く砲火の中、兵士たちは互いに励まし合いながら何とか持ちこたえていた。その中でも、希望と恐怖の間で揺れ動く彼らの心は一瞬一瞬が勝負だった。
その時、無線機から指揮官の声が響いた。
「各自、守備態勢を維持せよ。援軍が来るまで辛抱しろ」
「援軍か・・・」
一人の兵士がつぶやく。
「本当に来るのか?」
「信じるしかないさ」と応じた兵士が、塹壕の縁から空を見上げた。
戦況が悪化する中、ウェストリア少佐とアルベルト大尉は司令部で新たな戦術を練っていた。
「このまま守っているだけでは押しつぶされる。敵の動きを見極め、反撃のタイミングを見つける必要がある。」とウェストリアが言うと、アルベルトも力強く頷いた。
緊迫する状況の中、伝令兵が息を切らして駆け込んできた。
「ウェストリア少佐、緊急です!司令部から新たな攻勢計画が届きました。」
ウェストリア少佐は、驚いた様子で伝令兵から送られてきた攻勢計画の内容に目を通し始める。
「これは、本当に司令部から送られてきたものなの?」
伝令兵に信じられない表情で問いかける。
「そうです少佐。間違いありません。」
「内容は…五百キロ離れた地点に移動し、翌朝までに第五四歩兵師団と連携して港湾都市ガイルを占領せよ、とある。道中の敵部隊は他部隊に任せる、か。」
計画書を再度確認しながら、ウェストリアは心の中で葛藤した。
「この計画は、この戦線の兵士を見捨てる行為と同等ではないのか?司令部は本当にこれが正しいと考えているのだろうか・・・。」
アルベルト大尉がその表情を見て、声をかけた。
「少佐、この計画には相当なリスクが伴いますが、成功すれば戦局を大きく変えることができます。」
ウェストリアは深く息を吸い込み、決断した。
「よし、伝令兵、司令部に返信を送れ。この計画を受け入れる。しかし、我々には準備と時間が必要だ。」
伝令兵が敬礼して退室すると、ウェストリアは計画書を握りしめたまま、窓の外を見つめた。
「この戦線の兵士を見捨てるような行為だとしたら・・・本当にこの命令が正しいのか?この戦線はどうなる?放棄するのかそれとも、他部隊が応援に来てくれるのか?」
アルベルト大尉はその疑問を共有し、静かに声をかけた。
「少佐、ご懸念されている気持ちは小官にもあります。ですが、この攻勢が成功すれば西部戦線の戦況を大きく変わる可能性があります。」
ウェストリアは深くうなずき、「全中隊に通達し、準備を急がせるんだ。これが我々の突破口となる。」と決意を固めた。
司令部内は一気に活気を取り戻し、兵士たちは次々と動き出した。五百キロの移動と翌朝の決戦に向けて、全力で準備を進めた。
移動準備ができたのは、同日の十八時頃だった。
車内の緊張感は高まりつつあったが、彼らはそれぞれの任務に集中し、自らの役割を全うする覚悟を持っていた。
「少佐、全車両の準備が整いました」と無線で報告が入ると、ウェストリアは深く息を吸い、全体に向けて指示を出した。
「よし、全車、移動開始だ。」
移動開始の指示が出ると、全中隊は一斉にエンジンをかけ、五百キロ先の目的地に向けて出発した。アルベルト大尉は二号車の中で、仲間たちと共にその瞬間を迎えた。
移動中、彼らの戦車が戦線を通過する際、塹壕にいる兵士たちから冷たい目で見られるのが感じられた。その視線には、不信感と失望が入り混じっていた。
「見ろよ、俺たちを見捨てるつもりか?」と、兵士の一人がつぶやいたのが耳に入った。
ウェストリアはその言葉が胸に刺さる思いで聞きながら、前を見据えていた。「戦友たちの期待を裏切るわけにはいかない・・・。」そう心の中でつぶやきながら、前へ進む決意を再確認した。
「少佐、俺たちの決意を信じましょう。必ず成功させて、戦況を打開しましょう。」とアルベルトが無線を通じてウェストリアに伝えた。
ウェストリアは一瞬の沈黙の後、「そうだな、大尉。我々の使命を果たすために、全力を尽くそう」と返答した。
ウェストリア率いる第八七機甲大隊は、攻勢開始地点へ向かっていた。
「各中隊に通達。警戒を怠るな。」
ウェストリアは、無線で各中隊に命令を飛ばしていると、空から突然エンジン音が近づいてきた。
「敵の攻撃機だ!」と、無線から声が上がる。ウェストリアは一瞬顔をしかめたが、すぐに指示を出した。
「全車、敵の空襲から避難せよ!近くのボカージュに戦車を隠す。」
隊列は急いで動き始め、木々や茂みに戦車を隠し始めた。空からの爆撃はますます激しさを増していた。「全員、戦車から降りて身を隠せ!」とウェストリアは続けざまに命令を飛ばした。
「急いで!対空戦車は各個に応戦!」
アルベルト大尉が無線を通じて報告した。
「少佐、このままでは被害が甚大です。夜間移動に切り替えるべきです。」
ウェストリアは一瞬考えた後、「そうだな、大尉。全車、夜間移動に切り替える。速やかに行動しろ。」と命令した。
夕闇が迫る中、兵士たちはボカージュの陰に身を潜め、次の移動を待つ時間がじっとりと流れた。「こんな状況が続くなんて、まるで悪夢だ。」と誰かがつぶやく。
誰かがつぶやいた言葉を聞いて、ウェストリアは、地団太を踏む。
「くそ、完全に予定が狂った。これじゃあ攻勢に間に合わない、西部戦線はついに制空権すらも敵に奪われたのか?」
ウェストリアはその焦りを胸に抱きながら、夜の闇の中で次の指示を考えていた。
兵士たちは静寂の中で息を潜め、攻勢開始地点の方向から聞こえる爆撃音に緊張を募らせていた。
私は、各中隊に指示を出すため無線機を取り出した。
「各中隊、損害を報告せよ。」
無線からアルベルト大尉の返答があった。
「少佐、こちら第一中隊。軽微な損害が発生していますが、全員無事です。」
続いて、ウェストリアは第二中隊に呼びかけた。
「ボルマン大尉、損害報告を。」
ボルマン大尉が返答した。
「こちら第二中隊、無事ですが、少し燃料が不足しています」
最後に、ウェストリアは第三中隊に連絡した。
「ハインツ大尉、損害報告を。」
ハインツ大尉からの返答があった。
「少佐、こちら第三中隊。戦車の一台が損傷を受け、修理が必要です。」
ウェストリアはその報告を聞いて一瞬考え込み、質問した。
「第三中隊の戦車の修理はどのくらいで終わる?」
ハインツ大尉が確認し、返答した。
「少佐、修理はおよそ一時間で完了する見込みです。」
ウェストリアは決断した。
「了解だ。その修理が終わり次第、夜が明ける前に移動を再開する。そして、アルベルト大尉、第五十四歩兵師団との連絡を取ってくれ。」
ウェストリアは夜空を見つめながら、その報告が無事に伝わることを祈っていた。
しばらくすると、アルベルト大尉が焦った声で無線を通じて報告してきた。
「少佐、電波が悪いのかわかりませんが、第五十四歩兵師団と連絡が取れません。」
ウェストリアは一瞬顔をしかめたが、すぐに冷静さを取り戻し、指示を出した。「大尉、もう一度試みてくれ。それでもダメなら、別の通信手段を使ってみるんだ。」
ウェストリアは、空のかなたを見つめながら、攻勢開始地点の方向が夜なのに異様に明るいことに気づいた。その光景に嫌な感覚が胸に広がった。
アルベルト大尉が再び無線で報告した。
「少佐、もう一度試みましたが、やはり連絡が取れません。別の通信手段を使ってみます。」
ウェストリアが頭を悩ませていると、第三中隊のハインツ大尉からの修理完了報告を受けた。
「少佐、第三中隊の戦車の修理が完了しました。」
ウェストリアは決断を下し、アルベルト大尉に命じた。
「大尉、通信はもういい。第三中隊の修理が完了した。これより移動する。」
ウェストリアは、無線を手に取り、各中隊へ無線で指示した。
「全中隊、移動準備を整えろ。夜明け前に出発する。」
兵士たちは静かに動き出し、装備を整えた。月明かりの下、戦車のエンジン音が再び鳴り響き、隊列は慎重に進んでいった。移動の間、ウェストリアは攻勢開始地点の明るさを気にしつつも、前進を続けた。
ここまで、読んでくださり、ありがとうございます。これからも頑張っていくので、よろしくお願いいたします。