敵機甲師団迎撃戦
先の戦闘が終わり、一息を入れていた第八七機甲大隊は、次の命令が下るまで羽を伸ばしていた。そこに入ってくる一報。一報を聞いた、第八七機甲師団各員は、どうなってしまうのだろうか?
先の戦闘が終わり、一息つく第八七機甲大隊は、後方からきた工兵に戦車の修理を任せ、各自羽根を伸ばしていた。そんな中、士官用テントに指揮所の伝令兵が駆け込んできた。
「ウェストリア少佐!ウェストリア少佐はいらっしゃいますか?」
天幕内で書類に目を通していた第一中隊の副官、アルベルト大尉が席を立ち、冷静に伝令の内容を聞いた。
「少佐は、今席を外している。機密性が高い内容でなければ、私が代わりに聞こう。」
駆け込んできた伝令兵は、一瞬ためらったが、直ぐに、内容を伝えることにした。
「大尉殿。急報です。敵機甲師団がこちらに向かっていると、哨戒部隊からの報告が入りました。直ちに、出撃準備を!」
アルベルト大尉は、眉を顰めながら頷き、伝令兵に感謝を伝え、直ちに先ほどの伝令に命令をした。
「大隊のメンバーに通達。各員は速やかに出撃用意を整え、士官用天幕前に集合せよ。」
大尉からの通達があり、大隊の兵士達は慌ただしく装備を整え始めた。士官用天幕の前には、続々と士官用天幕の前に整列し、緊張感が漂っていた。
「大尉殿!第一、第二、第三中隊総員整列完了しました!」
アルベルト大尉は、各中隊が揃っていることを確認し、ウェストリア少佐が戻ってくる時を待った。数分後、急いで走ってきたウェストリアがその場に駆け付け、大尉に状況を確認した。
「大尉!状況は?」
「敵機甲師団がこちらへ進軍しています。総員、出撃用意はできております。少佐。次の支持を!」
ウェストリアは、一呼吸を置いてから、力強い声で指示した。
「よし、全隊に告ぐ。敵の進行を阻止するため、即刻前進せよ。目標地点に到達次第、防衛陣地を構築、迎撃態勢を取る!」
ウェストリアの力強い声に応じて、兵士たちは一斉に動き出した。各員が自分の戦車に乗り込み、エンジンをかける音が響き渡る。戦車のエンジン音が重なり合い、駐屯地全体が再び活気づいた。
ウェストリアも迅速に自分の戦車に乗り込み、キューポラから体を出して周囲を見渡す。その目には決意と覚悟が宿っていた。
「全車、出撃!」
その一言が響き渡ると同時に、戦車の隊列が動き出した。泥濘の道を力強く進むその姿は、まるで鋼鉄の巨人が再び大地を踏みしめるかのようだった。戦車のキャタピラが土を蹴り上げ、前進する姿は圧倒的な迫力を持っていた。
駐屯地の守備隊もその姿を見守り、隊列が通り過ぎる際に一人の兵士が声をかけた。
「頼むぞ!」
他の兵士たちもそれに続いてエールを送る。
「頑張れ!」
「勝利を祈っている!」
その声援を背に受けて、大隊はさらに前進を続けた。ウェストリアはキューポラから体を出し、後方に目を向けて一瞬だけ微笑んだ。そして再び前を見据え、戦場へと突き進んでいった。
しばらく行軍していると、途中で味方の検問所に近づいてきた。検問所の兵士たちは、戦車の隊列が近づくのを見て、手を上げて合図を送った。ウェストリアは戦車を一旦停止させ、キューポラから降りて検問所の兵士と話をするために前進した。
「ご苦労さまです、少佐。ここまでの行軍、大変だったでしょう。なにか特別な指示はおありますか?」
検問所の兵士は敬礼しながら尋ねた。
それに、ウェストリアは軽く頷き、状況を説明した。
「こちらも急いでいる。敵の機甲師団が接近中との報告があった。今すぐ前線に向かわなければならない。こちらの状況はどうだ?」
検問所の兵士は険しい顔をして、返答した。
「いえ、今のところ特に異常はありません。前方の道は安全です。そのまま進軍すると、第一〇九歩兵師団が防衛線を構築済みです。お気をつけて、少佐。」
ウェストリアは再び戦車に戻り、キューポラに身を投じた。
「全車、前進を再開せよ!」
隊列は再び動き出し、検問所を後にしてさらに前進を続けた。目標地点までの道のりはまだ長いが、彼らの決意と覚悟は揺るがない。
検問所を超え、しばらく行軍していると、第一〇九歩兵師団が構築しているという防衛線の一角についた。ウェストリアは、キューポラから身を乗り出し、塹壕から出てくる兵士を見て、敬礼した。
「どこの部隊だ!」
塹壕から出てくる兵士がこちらへ聞いてくる。
「私らは、第八七機甲大隊だ!そっちは、第一〇九歩兵師団か?」
「その通りだ!こちらは第一〇九歩兵師団、第三中隊だ。」
ウェストリアは、兵士の所属があっており、安堵した。
「名前は?」
「俺か?俺は、ジャックだ!ジャック上等兵だ。」
「そうか。私は、ウェストリアだ。貴隊の指揮官殿は今どこに?」
ジャック上等兵は、塹壕の向こうのほうを指さした。
「ア―カン少佐は、防衛線の中央部にいる!」
「案内を頼めるか?ウェストリア少佐が面会したいと!」
ウェストリア少佐の言葉にジャック上等兵は即座に反応し、緊張した面持ちで敬礼を返した。
「失礼しました!ウェストリア少佐殿。こちらへどうぞ!」
ウェストリアはジャック上等兵の案内に従い、防衛線の中央部へ向かって歩き始めた。周囲には、第一〇九歩兵師団の兵士たちが防衛線を強化している様子が見える。彼らの動きは緊張感に満ちていた。
しばらく進むと、防衛線の中央部に到着し、そこにはアーカン少佐が待っていた。彼はウェストリア少佐を見つけると、直ちに敬礼をし、声をかけた。
「お疲れ様です、ウェストリア少佐。待っていたよ。」
私は、敬礼を返し、アーカン少佐に向かって状況を尋ねた。
「戦況はどうなっていますか?」
アーカン少佐は苦笑いをしながら答えた。
「同じ少佐だ、敬語はやめよう。さあこちらへ。状況説明をしよう。」
アーカン少佐についていき、周辺図が広げられている部屋まで来た。部屋につくと、すぐさまアーカン少佐は、地図を指さしながら情報説明を始めた。
「こちらの防衛線は、堅固に構築されている。敵の進行を阻止するため、こちらの位置で待ち伏せ攻撃を行う準備が整っているよ。対戦車陣地をこの位置に偽装し、敵が接近次第、一斉に攻撃を開始する計画だ。」
ウェストリアは地図を見つめながら頷き、アーカン少佐の言葉に注意深く耳を傾けた。「了解した。こちらの戦車部隊もこの防衛線に沿って偽装し、待ち伏せ態勢を整える。」
アーカン少佐は満足げに頷き、「いい考えだ、ウェストリア。我々の連携が鍵となる。敵を迎え撃つために全力を尽くそう。」と言った。
ウェストリアは再び部隊に戻り、全体に指示を出した。
「全車、防衛線に隠蔽配置を。第一中隊は、防衛線より右後方の丘陵で待ち伏せを。第二中隊は、近くの林で待ち伏せを。第三中隊は、道路沿いで待ち伏せを。各中隊!敵の接近を確認次第、迎撃を開始する!」
兵士たちは迅速に動き出し、それぞれ指定された位置に戦車を偽装しながら配置についていった。静寂が再び戦場を包み込む中、彼らは息をひそめて敵の接近を待ち構えた。
ウェストリアはキューポラから顔を出し、各中隊の動きを確認しながら、無線で連絡を取り続けた。
「第一中隊、丘陵での配置完了。第二中隊、林での配置完了。第三中隊、道路沿いでの配置完了。全車、迎撃準備完了。」
遠方からかすかなエンジン音が次第に大きくなり、敵の機甲部隊が近づいてくるのが感じられた。緊張感が最高潮に達する中、ウェストリアは決意を胸に声を上げた。
「全車、目標を確認次第、敵先遣隊の先頭車両と後方車両を速やかに撃破!その後、一斉に攻撃開始!」
その指示が出されると、兵士たちは一斉に動き出し、目標を確認するために目を凝らした。敵の先遣隊が視界に入ると、全車の砲塔が一斉に動き、目標を捕捉した。緊張の中、静寂が流れる。
やがて、ウェストリアの指示通り、先頭車両と後方車両が同時に撃破された。爆音が響き渡り、敵の隊列は混乱に陥る。その瞬間を逃さず、ウェストリアは声を張り上げた。
「全車!攻撃開始!」
一斉に戦車砲が火を噴き、敵の機甲部隊を次々と撃破していく。爆発と煙が立ち上り、戦場は再び激しい戦闘の舞台となった。各中隊は連携して敵を追い詰め、防衛線を守るために全力を尽くした。
弾幕の中で、ウェストリアは冷静な指示を続けた。
「第二中隊、左翼を押さえろ。第三中隊、前進して敵の後方を断て!」
第三中隊の戦車が前進し始めると、突然、敵の激しい抵抗に遭遇した。砲弾が次々と降り注ぎ、前進する戦車の行く手を阻んだ。爆発音と煙が戦場を包み、視界が一時的に遮られた。
第三中隊の中隊長が無線で報告した。
第三中隊の戦車が前進し始めると、突然、敵の激しい抵抗に遭遇した。砲弾が次々と降り注ぎ、前進する戦車の行く手を阻んだ。爆発音と煙が戦場を包み、視界が一時的に遮られた。
第三中隊の中隊長が無線で報告した。
「ウェストリア少佐、こちら第三中隊。敵の抵抗が激しく、前進が困難です!一旦後退を!」
ウェストリアは即座に判断し、冷静に指示を出した。
「了解。第三中隊、一時後退せよ。安全な位置で再編成し、次の攻撃を準備する。」
第三中隊の戦車は一斉に後退し、被害を最小限に抑えながら再編成のための安全な位置に移動した。兵士たちは一時的に息をつき、次の攻撃に向けて準備を整えた。
ウェストリアは無線で全隊に告げた。
「第三中隊が再編成中。全体の連携を保ちつつ、敵の動きを警戒せよ。」
第三中隊の戦車が再び位置につき、次の攻撃に向けて準備が整うと、ウェストリアは再度指示を出す決意を固めた。戦場は再び静寂に包まれ、次の一手を見極める緊張感が漂った。
すると、第二中隊の三号車から、報告が入った。
「ウェストリア少佐!後方から新たな敵増援が接近中!どういたしますか?」
ウェストリアの心中には、不安と焦りが交錯した。ここで遅滞戦闘に移ると、歩兵たちをすべて合わせることは難しい。こちらの損害も大きくなる可能性が高い。クソ、残された選択肢は、迎え撃つそれだけだ。だが、どうすれば敵を撃退できる?
彼女は一瞬目を閉じて深呼吸し、冷静さを取り戻そうとした。敵を包囲し、後方を断てれば勝機はある。彼女の決断が、部隊の命運を握る。
ウェストリアは無線を握り締め、声に力を込めて命令を下した。
「第三中隊、再度前進!敵の後方を遮断しろ。第一中隊は、第三中隊の突破の支援!第二中隊、右翼から攻撃を開始して、増援を迎え撃て!全車、決して退くな。ここが勝負どころだ!」
彼女の指示で全中隊が自身の役割を全うするために行動を開始する。
全中隊は迅速に行動を開始し、それぞれの役割を全うするために動き出した。ウェストリア少佐の指示を受け、兵士たちは一丸となって戦いの準備を整えていく。
第三中隊の戦車が再び前進を開始し、敵の後方を断つための動きを見せた。第一中隊もすぐに支援に入り、第三中隊の突破をサポートする。砲火が再び激しくなり、戦場は混沌とした状況に包まれた。
第二中隊は右翼から敵の増援を迎え撃つために前進し、激しい銃撃戦が繰り広げられる。敵の攻撃が次々と迫る中で、兵士たちは冷静に対応し、連携して敵を押し返していく。
戦場全体が騒然とする中、ウェストリア少佐は戦局を見守りながら指揮を執り続けた。「全車、状況を把握し、冷静に対処せよ。決して退かず、目標を達成するんだ!」
兵士たちはその言葉に励まされ、さらに奮闘し続けた。敵の進行を阻止するために、全力で戦い続ける彼らの姿は、まさに鋼鉄の意志そのものであった。
戦況は一進一退の攻防が続く中、ウェストリア少佐と彼女の部隊は連携を保ち、敵の機甲部隊を次第に追い詰めていく。彼らの努力と決意が、この戦場での勝利を引き寄せることを信じて。
戦場の緊張が最高潮に達する中、ウェストリア少佐は無線機からの報告に耳を傾けた。ノイズの中から第三中隊の中隊長の声が聞こえてくる。
「ウェストリア少佐、こちら第三中隊。敵装甲師団の最後方を突破しました!繰り返します、敵の最後方を突破しました!これより、包囲機動に入ります。」
ウェストリアは無線機を握り締め、喜びと安堵が交差する瞬間を迎えた。
「よくやった、第三中隊。引き続き注意を怠らずに進め。」
その直後、第二中隊の指揮官からも報告が入った。
「ウェストリア少佐、第二中隊です。我らの奮闘を見たアーカン少佐隷下の歩兵大隊が追従し、見事に突破に成功しました!これに続き、第三中隊の先鋒と合流を目指します。」
ウェストリアは再び無線に向かって応えた。
「素晴らしい仕事だ、第二中隊。よーし第一中隊、このまま勢いを保ちつつ、敵の勢いをそぐぞ!全車前進!」
部隊全体に勝利の兆しが見え、士気は一気に高まった。戦場は再び活気に満ち、兵士たちは一丸となって次の戦闘に備える決意を固めた。ウェストリア少佐は戦場の指揮を執り続けながら、部隊全体の動きを見守り、次なる指示を出す準備を整えた。
各中隊が奮闘する中、さらなる報告が入ってきた。
「第九号車から連絡。第二中隊と合流成功。包囲が完成しました!」
ウェストリアの顔に微かな微笑みが浮かんだが、戦闘はまだ続いている。彼女は無線を手に取り、次の指示を出すために全神経を集中させた。
「全車、迎撃態勢を維持し、敵の動きを監視せよ。絶対に油断するな!」
戦場の緊張感が一層高まり、兵士たちは決意を新たにした。この戦いで勝利を収めるために、全力で戦い続ける覚悟が彼らを突き動かしていた。
我が第三中隊と第二中隊が敵機甲師団を包囲して、一二時間がたった。敵の士気が混乱し、次第に抵抗が弱まりつつあるのが見えてきた。ウェストリアはこの状況を冷静に見極め、次の指示を出す準備を整えていた。
無線が再び入り、第三中隊の中隊長が報告してきた。
「ウェストリア少佐、敵の動きに混乱が見られます。士気が低下しているようです。次の指示をお願いします。」
ウェストリアは無線を握り締め、静かながらも力強い声で応えた。
「全中隊、このまま包囲を維持しつつ、前進を続けろ。敵の指揮系統をさらに混乱させ、崩壊させるんだ。」
第一中隊、第二中隊、第三中隊は連携を保ちながら、包囲を維持しつつ前進を続けた。戦場の緊張感がピークに達する中、敵の部隊は次第に崩壊していった。煙と火の手が上がる中、敵兵たちは次々と降伏し始めた。
ウェストリア少佐はこの機を逃さず、無線で全隊に告げた。
「全車、敵の降伏を受け入れ、安全を確保せよ。これが我々の勝利だ。」
兵士たちは歓声を上げ、ウェストリアの指示に従って次々と敵兵を取り押さえた。戦場に静けさが戻り、勝利の安堵が広がった。戦闘の激しさは和らぎ、兵士たちは短い休息を取ることが許された。
ウェストリア少佐は戦場を見渡しながら、次の戦いへの備えを考えた。彼女の心には、勝利への誇りと、さらなる挑戦への決意が燃え続けていた。その後、無線で全中隊に指示を出した。
「全車。戦闘終了。携帯火器を持って、下車。各自戦車を整備し、手の空いた者は、友軍の捕虜収容を手伝え。」
兵士たちはウェストリア少佐の指示を受け、迅速に行動を開始した。戦車から下車し、携帯火器を手にして周囲を警戒しながら、各自の戦車を整備し始める。手の空いた兵士たちは捕虜収容のために友軍の手助けに向かい、連携して任務を遂行していた。
戦車から降りようとしていたアルベルト大尉とコーネン軍曹が目に入った。
「アルベルト大尉とコーネン軍曹。敵士官を連れてきてもらえない?」
少佐の声が響くと、アルベルト大尉とコーネン軍曹は素早く行動に移った。
「了解しました、少佐。」
ウェストリア少佐はしばしの間、戦場の静けさに包まれながら立ち尽くしていた。燃え上がる決意を胸に、彼女は戦車の側に腰を下ろし、思いにふけっていた。
やがて、大尉と軍曹が敵士官を連れて戻ってきた。敵士官は憲兵に囲まれ、彼女の前に立たされた。疲労の色が浮かびながらも、誇りを失わずに立っている。
「少佐、降伏した敵士官を連れてきました。」
「ご苦労。」
ウェストリアは顔を上げ、敵士官を見つめた。
「名前は?」
ウェストリアは冷静に問いかけた。
敵士官は少しの間黙っていたが、やがて静かに答えた。「私は、カール・シュミット少佐。あなたが指揮する帝国陸軍第八七機甲大隊に敬意を表する。」
ウェストリアは一瞬目を細めたが、すぐに冷静さを取り戻し、憲兵に指示を出した。
「シュミット少佐を丁重に連れて行け。今後の処遇については指揮本部で決定する。」
憲兵が敵士官を連れて行く中、ウェストリアは再び戦場を見渡した。彼女の心には、勝利への誇りとさらなる戦いへの覚悟が新たに宿っていた。次の戦いが始まるまでの短い間、彼女は戦車の側に立ち、決意を新たにしていた。勝利のために、そして仲間たちのために、彼女は再び立ち上がる準備を整えていた。
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