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25:太陽のような君に

 しっかりしなければと思うだけで、人間は気をしっかり持てるようになっているのだと思う。

 旭にも日奈にも、それから暮相にもおいて行かれてしまった終夜を、一人するわけにはいかない。一人になるかもしれないという恐怖を、明依は誰より知っていた。


 旭は真剣な面持ちで明依を見て、それから重々しく口を開いた。


「さては、お前……」

「……なによ」


 何を言われるのかと気が気ではない明依は、少し身構えて口を開く。

 旭はビシッと、明依を指さした。


「明依のニセモノだな!!」


 ああ、疲れる。というのが素直な感想だった。

 断言してもいい。地獄大夫は天才だ。本当に完璧に旭を造っている。


 しかしどうしてこんなお間抜けな所までそっくりそのまま造ってしまったのだろう。プライドだろうか。しかし、もう少し色を付けてやってもよかったのではないだろうか。


 明依はあきれ果てて、くだらない事を言い出す勝山を前にした時のように気持ちをシャットアウトした。


「明依はな! そんな堂々としたやつじゃないんだ」


 しかしすぐに、感情を込めた旭の言葉に引き戻される。

 明依は感動に似た気持ちを抱いていた。

 死んでしまった旭が自分の事をどう思っているか聞くことがあるわけないと信じ切っていて、疑ったことがなかったから。


「気が強くてちょっと怖いけど、結構すぐ泣くし、意外と女の子らしい所もあるし……。でも弱音を吐かないヤツだから、周りが気付いてやらないと明依はすぐいっぱいいっぱいになる。俺は明依をそんなヤツだと思ってる。何となく、感覚だけどな」

「……旭」


 旭は本当に感覚派で、テキトーに関わっているのだとばかり思っていた。それなのに旭は、ちゃんと気持ちをわかってくれていた。


 感動のあまり涙が出そうになった。が、しかし、そこで終わらないのが旭という男で、旭は再び明依を指さした。


「つまりだ!! お前はどう考えても明依じゃねえ!」


 涙は一瞬で引っ込んで、この男の思考回路はどうなっているのだろうと思った。

 いつか終夜が宵に、頭を割って開いたら思考回路が分かる仕組みならいいのにと言ったことがあったが、明依は今、その終夜の言葉に完全に同意する気持ちでいた。


「星乃はこんなペラッペラのニセモノを造ったりしない。ああ! お前、さては主郭からの回し者だな!! 陰か!? よりによって明依に化けやがって……! 所属はどこだ!?」


 旭はそう言うと明依をジロジロと眺め、観察するように顔を近付けたり遠ざけたりしだした。


「どうせ変装なんだろ!! ペラペラ野郎!! 正体見せやがれ、ニセモノ、」

「ニセモノはあんたでしょうが!!」


 鬱陶しいくらいぐるぐると周囲をまわる旭の胸ぐらを捕まえて引き寄せた。


「うおあ! ニセモノが明依みたいにキレたあ!!!」


 旭はパニックになって暴れている。


「アンタが死んで、私がどんな気持ちだったかわかる?」


 明依がそう言うと旭はぴたりと動きを止めて明依を見た。


「どれだけ寂しかったかわかる? 旭」

「……寂しかったのか」


 明依がそう言うと、旭はすっと大人びた表情をした。


「だよな、そうだよな。寂しかったよな。意外と寂しがり屋だもんな。お前、本物の明依なんだな」


 旭はそう言うとためらわずに、しかし控えめに明依の頭を撫でた。


「ごめんな、一人にして」


 明依は旭から手をはなすと、ボロボロと零れた涙を自分の袖口で拭いた。


「実は俺もいろいろ考えててさ……。俺が死ぬ前、最後に明依の部屋で話した時、お前は俺に何か言おうとしてた」


 嫌な予感がした。とてつもなく嫌な予感。


 最後に何か言おうとしたというのは、告白の事だ。

 何となく雰囲気にのまれて旭に生涯口にすることのない気持ちを話したくなった、あの時。


「あれが最後になるなら、何か言いたそうにしてた明依の話、無理矢理にでも聞いてやればよかったって。そうしたら少しは気が楽だったんじゃないかって思ってたんだ」


 先ほどとは打って変わって真剣な表情で話す旭と、明依の余裕のない表情。

 おそらく勘のいい宵や終夜あたりは、明依が旭にしようとしていた話が何だったのかあらかた想像がついた事だろう。


 明依は内心焦りまくっていた。

 お願い、やめて? そんなゴリゴリの天然路線で私の墓穴を掘るのは。と思いながらも、旭は相変わらず真剣な表情をしている。


 そうかと思えば今度は、旭にしてはめずらしく穏やかな笑顔を浮かべた。


「今度はちゃんと聞かせてくれよ、明依。あれ、何の話だったんだ?」


 公開告白をさせるつもりなのだろうか。

 つい先ほど宵と関係性をなかったことにして終夜との関係性を築いたことにたいして罪悪感を持ったばかりなのに。


 明依はもう恐ろしくて終夜どころか宵の顔すら見られなかった。

 そして二人がどんな表情をしているのか想像もつかなかった。


「なんの話って」


 勝山くらい最悪のタイミングで、暮相はニヤニヤしながら口を開いた。


「そりゃお前、」

「ちょっと!! やめてよ!!」


 明依は思わず口をふさごうと暮相に飛びついた。しかし、暮相はひょいっと身軽に身をかわして楽しそうに笑った。


「おいおい明依~。お前まじかよ。3人とか平気でいける感じのヤツだったんだ~。へ~結構そっち系なんだな。俺は全然いけるっていうかむしろ来てくれて構わないんだけど。四人目、俺、どう?」

「喋らないで!! 宵兄さんの格が下がる!!」

「もう今は別人だもーん」


 憎たらしい暮相に明依は殺意が湧いた。


「おい、邪魔すんなよ!! せっかく二年越しに最後の話が聞けるんだからよ!!」

「ああ、お前!! 兄貴に向かって〝邪魔〟とか言いやがったな!!」

「なんかあったらすぐ兄貴風吹かせてくるのやめろよ! おい明依、今だ! 今言ってくれ!!」

「言うわけないでしょ!! バカじゃないの!?」

「ええ!? なんか俺が明依にキレられた……。クソ。暮相兄さんのせいで……!」


 大人げない暮相を、宵は至極不快そうな顔で眺めていた。


「どうしたの? 宵兄さん」

「いや、なんか……」


 暮相と明依と旭のやり取りを見ていて、困った様に笑っていた日奈は、珍しい顔をしている宵に問いかけた。


「地獄大夫は凄いなと思ってね。〝暮相〟って言う存在は自分でいて自分じゃないような感覚だったんだけど、〝宵〟のやらなさそうな事にはちゃんと生理的嫌悪感があるな、って」


 宵はそう言うと、今度は虚無の目で暮相を見ていた。


「わっ、私は好きだよ、暮相さん。頼りになるし……優しいし……」


 日奈は必死に宵をフォローしようと頑張っている。

 しかし終夜は、ニコニコの笑顔を貼り付けていた。


「ねえ、宵。本当の自分のポンコツ具合を見た気分はどんな感じ?」

「もう、終夜!」


 日奈は焦ったように言うが終夜は何も気にしていない様子でニコニコ笑っていた。


「俺がまた話聞けずに死んだらどうすんだよ!!!」

「お前もう死んでんだろーがよ!! ボーナスタイムくらい思っとけや!」

「私の耳元でバカみたいに大きい声出さないでよ!!」


 暮相と旭と明依の三人でいがみ合っていると、明依の身体が急に後ろに傾いた。

 襖の向こうから最低限の摩擦が生み出す音を立てて、暮相と旭の目の前に鎌が刺さる。


「バカばっか」


 終夜が耳元でぼそりと呟いたことで、明依は自分がまた終夜に助けられたことを知った。

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