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伯爵令嬢と想いを紡ぐ子  作者: ちさめす
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「新しく伸びた『糸』は全部で三本あってね、一本目は神父さんで~二本目はネックレスで~最後の一本は~んん~、もともとあった『灰色の糸』と全く同じ揺れ方だったから~多分オージさんに繋がってるのかなあ?」



「それはよかった。殿下を探すための時間を省くことができるのは大いに助かります」



「でも、いいのお姉ちゃん? そのオージさんに通じてる『糸』は城下町から伸びてるけど、馬車が向かってるのは別の方角だよ?」



「大丈夫よ。殿下に会う前にどうしてもやっておきたいことがあるの」



「ふ~ん。でも今のお姉ちゃんになら任せられるね!」



「どうしてそう思うのかしら?」



「『糸』に色がついてきたからだよ~! 私が紡ぐ新しい『糸』はきっかけにすぎないの。だから最初は無色なんだけど、最初の『糸』は黄色に、そのネックレスの『糸』もちゃんと濃い緑色になってきてるの! お姉ちゃんがちゃんとその想いにこたえてきてるからなんだよ!」



「想いにこたえてきたから……」



「そうだよお姉ちゃん! それでね、お姉ちゃん。『糸』に色がついたということは、それはつまり、運命が変わってきてるってことだよ!」



「運命が!?」



「そうだよ! 運命を変えるってすごいことなんだからね!? 最後にちゃーんと『赤い糸』なるのかはお姉ちゃん次第なんだけど、私も今のお姉ちゃんにならできるとおもう!」



「運命を変えられているのなら、私にもできるのかもしれない……。そして……」



 ――殿下ともう一度やり直せるのかもしれない……。



 手の平にある二本のネックレスを見つめ、そしてぎゅっと握りしめる。



「絶対に成功させてみせるわ。……自分の運命は、自分で決める!」




 ◇◇◇




 馬車は工業地帯の入口へと差し掛かった。



「お~いそこの馬車馬~! 止まれ~い!」



 窓を開けると二人組の警護官が立っていた。



「この先は工業の街です。ご令嬢様のいらっしゃるところではありません」



「申し訳ございません。ですが急ぎの用件を殿下より預かっております。お願いです、ここまで案内していただけませんか?」



 私はシープ様よりいただいた指示書を提示した。



「これは確かに殿下の……。かしこまりました。では我々が迦具夜工房までお連れ致します」




 ◇◇◇




 工房に着くやいなや、私は中にいる技師に指示書を見せた。



「殿下からの指示で本日の夕刻までにはどうしても間に合わせなくてはならないのです!」



「それはそれはずいぶんとお急ぎのことで……加工する品物はどれでしょう?」



「これです」



 私は二本のネックレスを差し出した。



「こ、これは番の七日月ではありませんか!」



「そうです。これを……一本のネックレスにしてほしいのです!」



「内容はわかりましたが、溶かしての再加工となると、素材となる純銀が不足してしまいますなあ。銀の在庫はありますが、これ程の純度となるとここには……」



「それならこれを使ってください」



 私は自身の首に掛けているネックレスを外し技師に渡した。



「こ、これは三本目の七日月!? どうしてこれを……。すると、あなた様はもしかして……」



「ええ。私はルーナと申します。殿下の……婚約者です」




 ◇◇◇




 馬車は城下町に向け最大速度で駆けていた。



 ガタガタと揺れる馬車の中で、私たちは車輪が石に引っかかる度にふわっと身体を浮かせた。



「うん! 『糸』はなめらかに揺れてるから多分移動はしてないと思う!」



「ありがとう」



 窓から夕陽が差し込む。陽の光で赤く染まったこの子の笑顔は天使のようだった。その時にふと、私はこの子との出会いを思い出す――。




 ◇◇◇




「ねえ、隣いい?」



「え?」



「ねえってば! 隣いいの!?」



「え、ええ。構いませんわ」



「あは! ありがと!」



「ねえ、お姉ちゃん。名前は何ていうの?」



「名前、ですって?」



「申し訳ございませんが、名乗る程の身分ではございません」



 この時の私は、伯爵令嬢としての模範的な品性を謳い、この子に名前さえ教えようとはしなかった。



 果たしてこれが私の求める伯爵令嬢の姿なのだろうか。セレーネ様のように、優しくおしとやかに接する御心が私にはなかったのかもしれない。



 今の私にはわかる気がする。私自身もまた、殿下を想うに足りるよう成長しなければならないと――。




 ◇◇◇




「お姉ちゃん、やっと決着がつくね!」



 揺れる馬車の中でこの子は私を見ている。私は、「そうね」と短くこたえた。



 そして。



「……ねえ」



「どうしたのお姉ちゃん?」



「私はルーナと申します。ディエス家の令嬢でございます。あなたのお名前を、私に教えてくれませんか?」



「もう知ってるよ~! だってみんなそう呼ぶんだもん!」



「あはは……確かにそうだったわね」



「あは! でもいいよ~! お姉ちゃんは頑張ってるから許してあげる! 私はね、チリって名前だよ! よろしくね、ルーナお姉ちゃん!」



「こちらこそよろしくお願いします。チリ様」



「様はだ~め~!」



「チリ……ちゃん」



「うん! いいねってあれ? お姉ちゃん、顔が赤くなってるよ?」



「これは……夕陽のせいですわ!」




 ◇◇◇









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