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女子力(物理)のクッキー4

 「では早速、作っていこうか」


 小麦粉をフラウが持つなど、パワー的には正しいが絵面的にどうかと思う事態はあったが、無事に材料を買った二人は、フラウの部屋へとやって来ていた。

 買ってきた材料を机の上に並べ、どこかの料理番組の様な台詞を言いながらハンスはフラウの友人が書いたと言う、クッキーの作り方の材料の所を見た。


 「えーと、まずは、分量を測ろうか」

 「分量を測る?」

 「そう。・・・・・・と言うか、昨日作った時は量らなかったの?」


 分量を量る事に首を傾げたフラウに、ハンスは恐る恐ると聞いた。

 その問い掛けにフラウは黙った。


 「聞いた話になるけど、お菓子を美味しく作るには正しい分量が大事らしいよ。と言う事で量りましょう」

 「なるほど。作り方を書いてもらった時、秤はあるか聞かれたんですよね。そして、無いなら買うようにも言われました」


 そこまで言われて何故使わない。


 「もしかして、秤は無いのかな?」

 「お店の人に、お菓子作りに必要な道具を一式下さい、と言って買ったので持ってます」


 ならば何故使わない。


 言いたいことは沢山ある。その都度ハンスは心の中でツッコむ事でその言葉たちを消化していったが、それは顔までは及ばず、言いたいことを我慢する顔になってしまった。


 「・・・・・・じゃあ、その秤を使って、材料を量ろうか」

 「はいっ」


 元気に返事をするフラウに対し、ハンスは今回も道のりは遠そうだと悟り、すでに疲れてしまった。










 材料を量って準備する工程は、意外にも何事も何事も無く終わった。と、言うよりも、むしろフラウは慣れた手付きで秤を使い、材料をスムーズに準備していったのだ。


 「手慣れてるね」

 「実は私、調薬が得意なんです。それで、秤はよく使っているで」

 「へぇ、調薬が・・・・・・」


 ならば何故、卵をかき混ぜる力加減が出来ない!?薬作る時だって薬草とか薬液とか混ぜるよな!?

 と、ハンスは叫びたい言葉をグッと心に収めた。


 「材料量り終わりました」


 フラウの報告にハンスは一つ頷くと、作り方を読み上げた。


 「ボールに常温にしたバターと砂糖を入れる、だって」

 「バターと砂糖ですね」


 ハンスの言葉を復唱しながら伸ばされたフラウの手を、ハンスはそっと取った。


 「!」


 突然のハンスの行動にフラウは驚き赤面した。

 先程、夫婦に間違えられたのだ。どうしても異性のハンスのことをフラウは意識してしまった。

 どうしたのだろうと、もしかして何か始まるのかと、期待と不安を内混ぜて、フラウはハンスの方を向こうとした。


 「それは塩ね」

 「・・・・・・」


 が、料理下手の様式美だっただけなので向くのをやめた。


 「次は、バターが白っぽくなるまで混ぜる、だって」

 「はい」


 泡立て器を構え、やる気に満ちていたフラウを見て、「あ」とハンスは思い出した様に声を上げた。


 「どうしました?」

 「力一杯はいらないからね」

 「分かってますよ」


 フラウは頬を膨らませバターを混ぜ始めた。問題無く安定して混ぜられる様子に、ハンスは緊張で詰めていた息を吐いた。

 そうして暫く混ぜていると、バターが白っぽくなり始め、フラウは楽しそうな声を上げた。


 「わあ、白くなってきました。バターって、白くなるんですね。凄いです」

 「こんな感じでいいのかな?そうしたら、次は卵を入れてまた混ぜる」

 「はいっ」


 機嫌良く返事をすると、フラウはスッとロックバードの卵を取り出した。


 「待った」


 そうだった。彼女はロックバードの卵しか割れないんだった。


 材料には卵一個と、書いてあった。一般的に考えて、この卵一個は、ロックバードではなく普通の卵一個だろう。そうなると、ロックバードの卵では量が多い。

 どうするか暫し考え、ハンスは解決策を提示した。


 「・・・・・・今回は俺が卵を割るから、それを使って」


 フラウは首を傾げながらも素直に頷くと、ハンスが割った卵をボールへ入れた。

 材料を混ぜるフラウの姿を見て、ハンスは感慨深く思った。

 『混ぜる』は習得済みだから、問題無くこなしているな。

 そう考えると、学習能力は高いようだ。ただ、そこに(パワー)が関係すると学習までに斜め方向の苦労があるようだが。

 小麦粉を投入し、泡立て器からヘラに持ち変えてさらに混ぜる。

 道具を変えても、フラウが混ぜる姿は安定していた。


 「凄いよ!ここまで全く問題無いじゃないか」

 「えへへ。何だか調薬と似てるので、意外とできました」


 そう言えば、調薬が得意と言っていたな、とハンスは思い出した。薬を作る時も材料を混ぜたりするだろうから、混ぜる作業はコツが掴みやすかったのだろう。

 そして、調薬のノリで作ってしまったんだろうな。マンドラゴラクッキーを。

 ハンスはマンドラゴラの昨日聞いた悲鳴を思い出してブルリと身を震わせた。


 「よく混ざったみたいだし、ナッツを粗く砕いて入れようか」

 「あらく、ですね」


 フラウはナッツを少量手に取ると、徐に「えいっ」と可愛らしく掛け声を付けてナッツを握り潰した。


 「え」


 そして、開かれた手の中には粉々、と言うよりも粉砕されて最早ただの粉になってしまったナッツ達が収められていた。


 「こんな感じですかね?」


 全然違う。

 「荒く」じゃなくて「粗く」だよとか、布巾で包んだりすり鉢に入れて綿棒で砕くんだよとか、ハンスは言いたいことがあったが、グッと言葉を飲み込んだ。その方法を提示したところで、卓やすり鉢が破壊される未来しか見えなかったからだ。

 そんなハンスの様子には気付かず、フラウは手の中のナッツ粉を皿へ移すと、新たなナッツへと手を伸ばした。

 それを見咎めたハンスは、伸ばされたフラウの手を反射で取った。

 フラウは感じた事のある既視感にハッとし、ハンスの顔を見た。


 「ど、どうしました?」


 分かってはいても、異性との触れ合いにフラウは恥ずかしさから声を裏返させた。


 「今日は、干しブドウのクッキーを作ろうか」


 ニコリと笑ってハンスは言った。

 砕くなどの加工を施さずにそのまま入れるだけの干しブドウ。混ぜる事は問題無く行えるフラウに合った材料だ。

 ハンスは一つ頷くと、干しブドウをフラウに手渡したのだった。

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