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女子力(物理)のクッキー3

 翌日。

 冒険者の仕事を休み、二人は住まいの近くにある、地域密着型の市場に来ていた。

 市場は周辺に住んでいる奥様方で賑わい、あまり市場を利用しないフラウは、物珍しそうに周囲を見渡していた。


 「わあ、近くにこんな所があったんですね」

 「近所の市場に来るの初めて?」

 「はい。食事は外食がほとんどでしたし、買い物も冒険者向けの所へ行くことが多いので」


 そして、ふと、ハンスは気になった。

 材料はどこで買ったのだろう、と。

 マンドラゴラ以外はまともな材料に見えたが、あれらもマンドラゴラの様に採取してきたものなのだろうか?

 ハンスは少し考え、全ての材料を今日買うことを決めた。


 「えっと、まずは軽いものから買っていこうか」

 「軽いものですか?」

 「そう。小麦粉みたいな重たい物は、持ち歩くのも大変だし邪魔だから最後に買うんだ」

 「なるほど。それが良妻の知恵ですね」

 「生活の知恵な」


 勝手に良妻にしないで欲しい、と思いつつハンスは作り方に目を落とした。


 全部作っても見てもいいけど、前回のこともあるからなぁ。


 前回のスクランブルエッグ作りは、ハンスにとって予想外で予定外の連続だった。

 しかし、今回はフラウの規格外の力のことも、壊滅的な料理センスも、手加減が苦手なことも知っている。それを考慮しながら工程を考えなくてはならない。


 ナッツと干し果物を買って行くか。余裕があれば二種類作ればいいし、この二つなら混ぜても美味しそうだ。うん。


 そうして、ハンスは二種類の材料を買う事にした。けっして、マンドラゴラクッキーがトラウマになって、それを思い出すと何となく茶葉がちょっと怖かった訳では無い。

 干し果物の露店へ行くと、幾つもの種類が並んでいた。

 並ぶ品々を見て、作り方には干しブドウと書いてあったが、他の果物を入れても美味しそうだとハンスは思った。

 イチゴのジャムが乗ったクッキーは子供の時食べて美味しかった思い出がある。それならば、干しイチゴを入れても美味しいのではないか?と。

 しかし、そこでハンスは自分が昨日言ったことを思い出した。


 作り方通りに作るのが大事。


 ハンスもお菓子作りは初心者だ。だから、変にアレンジはせず、書いてある通りに作ると言う方針は変えない事にした。


 変えたら、変に解釈して真似されそうだしな。


 「おばさん、干しブドウを一袋分下さい」

 「あいよ」


 ハンスが店主にそう注文すると、彼女は愛想良く笑い干しブドウを袋に詰め始めた。


 「一袋でいいんですか?」


 フラウがハンスの持つ作り方を書かれた紙を覗き込みながら聞いた。


 「ここに書いてある分なら十分だよ。食べたい物があれば一緒に買う?」

 「あ、じゃあレールを少し」


 控えめにフラウが希望したのは、料理やお菓子には使う、薬用の苦味のある果実だった。

 ハンスの顔はスンとなった。


 「・・・・・・クッキーには入れないからね?」

 「わ、分かってますよ!違う用途で買うんです!」


 マンドラゴラの失敗を思い出したのか、恥ずかしそうに声を荒げたフラウを見て、どうだか、とハンスは思いながらも追加でレールを頼んだ。

 二人のやり取りを見ていた店主が揶揄う様にニヤリとして言った。


 「新婚かい?」

 「しっ!」

 「夫婦で買い物なんて仲が良くて羨ましいねぇ」

 「ふっなっ!」

 「はっはっはっ!初々しいねぇ!」


 店主の言葉にいちいち赤面しながら反応するフラウが面白かったのか、次は声を上げて笑った。

 確かに、二人は結婚していてもおかしくない年齢の男女であり、鎧などの仕事着では無く私服を着ている。小さなメモを二人で見ていたので、自ずと距離も近かった。間違われもするだろう。

 と、フラウは真っ赤になった顔を手で扇ぎながら思った。

 しかし、ハンスは肩を軽く竦めて困った様に笑った。


 「残念。夫婦じゃなくて・・・・・・仕事仲間だよ」


 ハンスは、フラウとの間柄を何と言えばいいか少し迷った。

 同じ冒険者であり、料理を教え教わる仲ではあるけれど、恋人や夫婦などと言う甘い関係性ではないし、しかも友人にも満たない知人程度の知り合いだ。

 それに、彼女は高嶺の花だしなぁ。

 数秒悩んだ末に、同じ冒険者であることをとって無難に「仕事仲間」と答えた。


 ハンスの逡巡による間をどう捉えたのか、店主は意味ありげに「ふ〜ん」と返し、「成就を願ってオマケだよ」と干しイチゴを入れてくれた。


 恋は甘酸っぱいってか?


干し果物屋を後にし、次の目的地へと二人は向かった。

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