女子力(物理)のクッキー2
「え?何、今の」
「さ、さすがに私にも分からないです」
この世のものとは思えない断末魔のような音に、ハンスは震え、フラウは困惑した。
「オーブンの中で変な生物飼ってたり―――」
「してません、してません!いたって普通のオーブンです!」
ハンスに疑いの目を向けられながらもフラウは必死に首を振って否定した。
「でも、何であんな断末魔みたな悲鳴みたいな……」
そこまで言って、ハンスはあることを思い出していた。
最近、あるモノが乱獲されて、森に不穏な悲鳴が長い時間轟いていた、というものだ。耐性の無い等級の低い者は影響があるかもしれないので注意するように、というものだった。
「・・・・・・ちなみに、材料が何なのか、訊いても?」
「え?材料ですか?えっと、小麦とバターと、卵、砂糖、ナッツ類に干した果物、あとマンドラゴラです」
「原因はそれだー!」
「え?え?」
ハンスの突然のツッコミに、フラウは驚き戸惑ったようにアワアワした。
オーブンを開けた際に轟いた悍ましい悲鳴は、マンドラゴラの鳴き声だったのだと、ハンスは確信した。何しろ、最近乱獲されたのはマンドラゴラだったのだから。
マンドラゴラ。歩いたり鳴いたりする魔草で、様々な高等回復薬に使用される高級品。しかし、土から引き抜く際、身の毛もよだつ断末魔の様な悲鳴もとい鳴き声を上げ、耐性の無い人々を恐慌状態ないし時には死に追いやると言われ、難易度の高い採取物だ。
そして、耐性の低いハンスは震えてしまった。(いや、オーブンからあの様な悲鳴が聞こえれば普通に怖くはあるが。)それが、マンドラゴラである何よりの証拠だ。フラウならば耐性も高く、何も考えずに採取したところで問題は無い。きっと、彼女のことだから分量が分からず沢山採ったのだろう。そもそも材料に記載されてすらいないが。
「何でマンドラゴラなんて入れたの?書いてなかったよね?」
恐ろしいものを見る目でハンスはフラウを見た。
フラウは恥ずかしそうに頬を掻きながら可愛らしく、
「紅茶の茶葉より、マンドラゴラを煎じたお茶の方が身体にいいので、変えてみました」
と言った。
言いたいことはある。普通に茶葉のままでいいじゃないかとか、確かにマンドラゴラのお茶は身体にいいが何でよりにもよってマンドラゴラを選んだとか、ハンスは言いたいことがいっぱいあったが、ぐっと飲み込んだ。決して、フラウの照れ笑いが可愛かったから見惚れた訳ではない。
「えっと、まずは、ここに書いてある通りに、材料も作り方も試そうか」
「この通りですか?」
ハンスは食事は作るものの、菓子類はほとんど作ったことはない。
それでも、これだけは知っていた。
「そう。初心者は変に創作をせず、作り方通りに作ることが大事なんだ」
力強く、拳を握ってとても力強く言った。
「へ、変に・・・・・・」
何やらフラウがショックを受けた様に顔を歪めたが、ハンスはそれを無視し、台所に残っていた材料を作り方を見ながら確認した。
そして、マンドラゴラらしきものを見つけて頷いた。
「よし。まずは、ちゃんとした材料を買いに行こうか。明日」




