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怪鳥のスクランブルエッグ(カルシウム入り)2

 「話すと、そこそこ長くなるのですが」


 と爆発から現れた美女ことフラウは言った。

 長くなるならばと、廊下では何だし、彼女の部屋はそれどころじゃないし、ハンスは自分の部屋へと招き、お茶をフラウに振舞うことになった。

 ハンスの部屋シンプルで、ベッドと椅子が二つ付いた卓しかなく、フラウをそこに案内した。

 さて、フラウが言うには、彼女は料理が出来るようになりたいとの事だった。


 「料理が?」

 「はい。その、結婚したくって」


 フラウは現在、結婚適齢期で、しかもそろそろ時期が過ぎるところであった。

 彼女の仲間達はどんどん結婚していき、幸せな家庭を築いていた。

 仲間の結婚を始めに聞いた当初、彼女は結婚したいなどとは特に考えていなかったが、時が過ぎるにつれ、結婚した仲間達が幸せに過ごし、幸せな家庭を着実に築いていく経過を見て、フラウは、ふと、思った。

 自分も結婚して幸せな家庭を築きたい。

 そこで、結婚した仲間に結婚するにはどうすればいいのか尋ねると、こう言われた。

 「やっぱり男は胃袋を掴む。これに尽きるわ」と。


 「それで、料理をしようとしたのですが……御覧の有様でして」


 しゅん、とフラウは項垂れて服の裾を握った。

 ハンスは「ふむ」と頷いて考えた。


 確かに、彼女はエプロンを着けており、髪も纏めて腕捲りをして料理をしていたのだろう。

 だが、料理って、あんな大爆発するようなものだっけ?


 「と、とりあえず、話しは分かった」


 ハンスは自分に入れたお茶を一口飲み、動揺した心を落ち着けた。 

 フラウは俯けていた顔を上げると、決意したようにハンスを見つめ、彼の手を握って卓越しに詰め寄った。


 「どうか、私に料理を教えてください!」










 「まずはスクランブルエッグを作ってみようか」

 「はい!」


 ハンスとフラウは、ハンスの部屋のキッチンに並んで立っていた。フラウの熱意に根負けしたハンスは、彼女に料理を教えることにしたのだ。決して、好みどストレートの美女に『マジでキスする五秒前(MK5)』な距離に迫られて絆されたからではない。断じて違う。とだけハンスのために弁明しておこう。


 「スクランブルエッグなら、卵割って材料を混ぜるだけだし、初心者でもできると思う」

 「わあ、そうなんですね」


 卵料理は料理の基本だと、誰かが言っていたことを思い出したハンスは、まず、スクランブルエッグを教えることにした。

 スクランブルエッグであれば、卵を割るのに失敗して卵黄が崩れても混ぜてしまえば問題ないし、ミルクや塩を多少適当に入れても、そうそう不味くは仕上がらないしリカバリーもし易い。まさに初心者には最適だろうとハンスは考えた。


 「卵は、まず台の平らなところに軽く打ち付けて少し罅を入れる。平らなところに打ち付ける加減が難しかったら、台の角でもいいよ。罅が入ったら殻を両側に引っ張るようにして割るんだ。こんな風に」


 そう言ってハンスは器用に卵をボールに割って見せた。黄身が割れることも殻が入ることもなく、綺麗な仕上がりだ。


 「おー」

 「はい。じゃあ、やってみて」

 「はい!」


 やる気に満ちた返事を返したフラウは卵を一つ掴むと、ハンスを真似て台の平たい面に打ち付けた。


 ビシャッ!


 うん。初心者あるある。良くあることだ。


 そう思いながらハンスは己の顔に飛散した卵を手拭いで拭った。


 「す、すみません!」


 卵を拭うハンスを見てフラウは焦って謝るが、ハンスは「まあまあ」と笑顔で宥めた。


 「初心者には良くあることだよ。卵が飛散することは」

 「そうなんですね」

 「うん」


 ハンスの言葉にフラウは安心したようにホッと息を吐いた。

 卵が上手く割れずに飛散することは、良くあることだ。だが、とハンスは少し考えてしまった。


 卵って、飛び散るじゃなくて、爆発したように飛散するものだっけ?


 何か考えてはいけないことを考えてしまったような気がしたハンスは軽く頭を振ると、気を取り直して卵の割り方をフラウに教えた。


 「卵の殻は結構割れ易いから、そんなに力はいらないんだ。コンコンって感じで軽くでいいよ」

 「コンコンですね」

 「うん」


 ゴンビシャッ!


 「軽く、軽~く」


 ビシャッ!


 「もっともっと力を抜いて」


 ビシャシャッ!


 「分かった。まずは台に卵を割れないように置いてみて。―――そう。それから少し持ち上げて、ちょこっと台に当てるように」


 ゴシャッ!


 卵の飛沫を見つめるハンスにとって、これは予想外の展開だった。

 ハンスにとって「卵を割るのに失敗する」は割る時に黄身が崩れたり殻が入ってしまうことだった。その場合であれば、少しの修正で次の工程へ進めることができた。

 だが、こうも爆発したように飛散しては、ボールに入れる卵すらない。ただ無情に部屋を汚すだけだ。

 さすがにお手上げだ。

 ハンスは仕切り直すために、本日の料理教室を終了することにした。


 「今日はここまでにしようか」

 「う、はい……」


 フラウは項垂れると、卵を置き、飛散した卵を洗浄魔法で綺麗サッパリ掃除した。


 無詠唱で広範囲に的確に魔法を使うだなんて、すごい練度だ。


 ハンスがフラウの魔法の腕前に驚いているうちに、彼女は卵で汚れた手にも洗浄魔法をかけると、項垂れたまま玄関へと向かった。


 「今日はありがとうございました」

 「あ、いや。こちらこそあんまり力になれず」

 「いえ!そんな!」

 「いい方法がないか、もう少し考えてみるよ」

 「何から何までお手数をおかけしますぅ」


 すっかり元気をなくしてしまったフラウを見送り、ハンスは玄関のドアを閉めた。


 彼女は、壊滅的に料理と相性が悪いのかもしれないな。

 これは、思ったより大変なことを引き受けちゃったのかもなぁ。


 ハンスは疲れた息を吐きながら、今日の夕飯を作るために台所に再び立った。


 ところで、彼女は玄関ドアが吹っ飛んだあの部屋に帰ったのだろうか?

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