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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

それなら私が(TSして)ママになろう

作者: 荒屋ニシキ


「はあ……疲れた」


 星も見えない淀んだ真っ暗な夜の空を仰ぎながら、家へ帰る途中の俺は大きなため息をついた。手に持っているビジネスバッグがやけに重く感じる。スーツを着ている時はそれだけでも憂鬱になる。労働ってどうしてこんなに辛いのか。

 俺の名前は海崎(かいざき)良也りょうや。社会人になってから二年が経った。正直実感がない。会社勤めをしていると時間の感覚が麻痺する。仕事の方は慣れてきたけど、週五日も労働をするこの生活が何十年も続くのかと思うと、気が重くなるし、何もかもが空しく思えてくる。


 朝の満員電車、月曜日の憂鬱さ、山積みの業務、会社に鳴り響く電話の音……。


 あれ、何か涙が出てきたな。いかんいかん、ここは外だぞ。大の大人が外で泣きながら歩いているとか、周りからどう思われるか……。


「そこの君、何か辛いことでも?」


 誰かが後ろから声をかけてきた。振り向くと、そこには白いローブを身に纏った青年が立っていた。向日葵を想起させる眩しい金髪、エメラルドグリーンの瞳を持つその青年は、心配そうな顔で俺を見ている。もしかしたら泣いているのがバレたのかもしれない。咄嗟に袖で涙を拭い、なんでもない風に装って慌てて答えた。


「い、いえ。何でもありません。すみませんでした。心配をおかけして……」

「辛いことがあるなら、私が聴こう」


 そう言って優しい笑みを浮かべる青年を見て、俺は―――少しだけ、この人に悩みを打ち明けてもいいかなと思った。


 これが俺とレイウの最初の出会いだった。





 レイウと出会ったその日から、俺の毎日は少しずつ変わった。

 

 まず、驚くべきことにレイウは異世界から来た魔法使いだった。彼は様々な異世界を自由に渡り歩く魔法を使えるらしく、この世界には旅行感覚で訪れていたのだという。そこで何となく観光気分で散歩していていたところ、偶然俺を見つけたらしい。

 レイウは俺たちがいるこの世界を気に入っているようだった。彼は休日の公園がお気に入りで、皆が幸せそうに過ごしている光景を眺めるのが好きらしい。レイウ曰く、ここの世界の人間は生きる気力に満ちていて素晴らしいのだと。そうだろうか?


 レイウは初対面であるにも関わらず、労働に疲れた俺の話をまるで自分のことのようによく聴いてくれて、励ましてくれた。そのおかげで俺の心は少し軽くなった。話すだけでこんなに楽になるなんて、思ってもみなかった。レイウには感謝してもしきれない。

 何かお礼をしたいと俺が言うと、レイウは「この世界のことを教えてほしい」と言ったので快く引き受けた。

 だがこの世界のことを詳しく話すとなると当然一日では厳しい。そういうことで、レイウとは毎週土曜日に会うことになった。会う場所は俺の家。アパートでの一人暮らし、部屋は質素で少し物寂しい雰囲気があったが、レイウが来るようになってからはそう悪くない空間なんじゃないかと思えるようになった。


 そんなこんなで、俺とレイウは友達になった。今ではもう一年以上の付き合いになる。最近は精神も安定し、仕事もそこまで苦ではなくなった俺は、レイウと他愛もない会話をするようになった。

 異世界から来たと聞いた時は驚いたが、レイウは良き友人だ。彼には不思議な包容力があり、俺がどんなくだらない話をしても、彼はそれを大真面目に聞いてくれるので、つい色々と話してしまう。

 俺もレイウからも話を聞きたいのに、彼はいつも会話の時は受け身の姿勢をとっているから、時々ちょっと申し訳なくなる。


 でもレイウも嫌そうな顔はしてないし、まあいいかと思いつつ、今日もそんな感じで俺はつい何気なく口走ってしまった。


「はあ……ママに甘えたい」


 しまった、変なことを言ってしまった。さすがの寛容なレイウもドン引きするだろうと思って顔色を窺ったが、特に気にしていない様子だった。


「良也の母上は今も生きているだろう?」

「いや、俺の母さんのことではなく……なんて言うのかな。ママのような存在?全てを優しく包み込んでくれるような、そんな女性に子供のように甘えてみたいんだ……って、こんな事言ったら引くよな。ごめん忘れてくれ」


 自分でも何を言っているんだと思った。マジで今言ったことは忘れてほしい。別の話題に切り替えようとしたが、レイウは何故か深く考えだした。


「良也に彼女はいないだろう?」

「いないよ」

「ならば、それは難しいだろう。それにたとえ彼女がいたとしても、お前の願いを叶えてくれるとは限らない」

「わ、わかってるよ」


 何故そんなわかりきったことをあえて追及してくるのか。悲しくなってきたじゃないか。


「私では駄目か?」

「え?」


 一体何を言っているのか。お前は男だろう。何?女装するってこと?いや、確かにレイウはイケメンだから女装したら似合いそうだけども。いや、え?どういうこと?

 唐突な提案に啞然としていると、レイウは話を続けた。


「私は魔法使いだからな。魔法で自分の姿を自由に変えることも可能だ。女性の姿にもなれる。中身は男だが、多少はお前の望みを叶えられるだろう」

「いやいや、さすがにそれは……お前が嫌だろうよ」

「私は嫌ではないぞ。少し待っていろ」

「ちょ、待っ……」


 制止の言葉はレイウの耳には届かず、彼はすたすたと洗面所の方へ行ってしまった。え、本気?本気でアイツ、俺のママになるつもりか?誠に?


 しばらく展開が呑み込めず呆然としていたが、我に返った俺は気付いた。


「え、じゃあアイツ今、女の姿になってんの……?」


 ごくり。思わず生唾を飲みこんだ。様子を見に行くのは…ありか?待っていろと言われたことをすっかり忘れた愚かな俺は、レイウがいる洗面所の扉をノックした。


「レイウいる?大丈夫か?」

「大丈夫だ。待っていろと言っただろう。まったく……そんなに待てなかったのか?」


 扉越しから聞こえるレイウの声。まるで心の中を見透かしたかのようなからかう口調で言われたので、思わず俺は反論した。


「なっ。違うって!心配しただけだから!」


 大嘘である。本当はちょっと気になって来てしまっただけである。


 しばらくすると、扉の隙間から淡く白い光が漏れた。それは魔法を使う時に発せられるものだ。ということはついに……。

 待ちきれなかった俺は、扉越しから恐る恐る声をかけた。


「レ、レイウ……?開けてもいい?」

「今は駄目だ。下着をつけていてだな。ぐぬぬ、ブラジャーのホックが……」


 扉越しに返事がきたが、女性の声だったので俺は一瞬戸惑った。そうか、女の姿になったから声も変わったのか。落ち着きのある柔らかな女性の声。やばい、緊張してきた。

 ていうか今、ブラジャーって言った?そうか、女性だからブラジャーも着けるのか。慣れないものまでつけて、そこまでして俺の願いを叶えようとしてくれるなんて、どこまで良いヤツなんだ。ちょっと惚れちゃいそう……。


「いやいやいや!何考えてんだ俺!」

「どうした良也。自分の頭をぽかぽかと叩いて」

「あ、レイウ……」


 洗面所の扉を開けて声をかけてきたレイウの姿を見た俺は、一瞬言葉を失った。


 俺の目の前に立っていた女性は―――とんでもなく美人だった。


 おっとりとした優しい目つき。透き通るようなエメラルドグリーンの瞳。艶のある綺麗な黒髪は肩の下まで伸びていて、先の方は少しウェーブがかかっている。

 服も魔法で用意したのだろうか。ゆったりとした生地でできたロングワンピースを身に纏っていて、そのスタイルの良さを示すようになだらかな曲線を描いている。

 後なんか、いい匂いがする……あ、これはいつものレイウの匂いか。魔法で変身したとはいえ、その女性の持つ雰囲気はどことなくレイウのいつもの姿と重なった。

 想像をはるかに超える美女を前に、俺はぽかんと口を開けたまま黙っていると、レイウが気まずそうに、そして少し恥じらいを見せながら言った。


「その……何か言ってくれないか。成功したかどうかわからない」

「え?あ、ああ!成功!超成功!」

「そうか。それなら良かった」


 慌てて必死に答えると、レイウは安堵した表情でリビングに向かい、カーペットが敷かれた床にゆっくりと腰を下ろして横座りをした。

 ……え、これってこの後どうすればいいの?わからないんだけど。レイウはママになってくれるって言っていたけど、具体的に何をすればいいの?

 お互い向かい合って座っているこの状況、俺はどうすればいいのかわからず沈黙する。レイウは不思議そうに首を傾げた。


「何だ、来ないのか」

「く、来るとは?」

「甘えたいのだろう?そんな遠くにいないでもっと近くに来なさい」

「本当にいいのか……?」


 レイウは微笑し、両手を広げて言った。


「おいで」


 ママだ……。俺の目の前にママなる存在が、確かにいる。


 その瞬間、俺の頭の中で何かが弾けた。そして、いつの間にか俺はレイウの膝の上に頭を預けていた。所謂、膝枕というやつだ。


「ハッ、つい……」

「ふふ、いいぞ。どんどん甘えなさい」


 頭上から聞こえる女性の声。白く細い指が、俺の頭にふわりと触れた。まるで子供をあやす時のような手つきで撫でられる。レイウの膝の上は温かくて心地よい。これは……。


「やばい……これ、凄くやばい」

「それは良い意味か?」

「ああ。何ていうか、楽園にいる感じがする」

「楽園……それは良かった」


 楽園、と聞いた時、レイウの顔が少し暗くなった気がしたが、気のせいだろうか。


 しばらくすると、レイウは俺の顔を両手で包むようにして覗き込んできた。宝石のような綺麗な瞳とがっちりと目が合い、俺は少し気恥ずかしくなった。きめ細かな肌、長い睫毛、薄桃色の唇。顔が近いと、その美貌がより鮮明に見える。

 俺がレイウの顔を見つめている間、彼も俺の顔を見ていた。


「ふふ、お前は近くで見ると中々可愛らしい顔つきをしているな」

「俺、二十代後半の男だよ?可愛くはないだろう」

「いや、子供のような幼さもわずかに残っているように見える。よしよし、いい子だ……」


 そう言ってレイウは俺の頭を撫でまわす。


「ちょっ、くすぐったいって。レイウ」

「ふふ、可愛いぞ。良也」

「ええ……」


 レイウ、何かスイッチ入っちゃってます?これではまるで本当に俺が子供のようだ。元々俺が望んだことだけど、やっぱりちょっと恥ずかしくなってきた。

 反応に困っていると、レイウは急に何かに気づいたように撫でていた手をぴたりと止め、眉根を寄せた。


「むむっ。お前、目の下にクマができているぞ」

「え、そうなの?気づかなかった」

「寝不足か?やはり疲れが出ているようだ。お前、ちゃんと十分な睡眠がとれているのか?」


 俺をよく観察しようと上体を前屈みにしたレイウの顔がより近くなる。そしてそれと同時に、彼の……中々の大きさを持つ胸が頭にそっと当たった。や、柔らかい。とても柔らかい。これはよくない。よくないぞ。レイウ、頼むから気づいてくれ。


「よく見たら顔も赤くなっているではないか!やはり体調が良くないのでは……」


 顔が赤いのはお前のせいだよ!


「大丈夫だよ。ちゃんと睡眠はとれているからさ」

「本当か?本当に大丈夫なのか?」


 レイウは心の底から俺のことを心配してくれている。こんな状況にあっても、彼の優しさは心に染みた。


「うん、大丈夫。だからちょっとだけ上体を起こしてくれないか」


 レイウは言われた通りに姿勢を元に戻してくれた。何故俺がそうお願いしたのかわかっていないような様子できょとんとした顔をしていたが、すぐに元の表情に戻り、今度は深く考え込み始めた。


「さて、次はどうするか……」


 そんな真剣に考えてくれなくてもいいのに。本当にレイウは真面目だな。


「このままで十分だよ。そんな考えなくてもいいって」

「でも、せっかくだしな。そうだ、子守歌でも歌ってやろうか」

「子守歌か……」


 膝枕をしてもらっている今の状態で子守歌を歌ってくれたら、あまりの心地よさに眠ってしまいそうだな。きっと安らかで美しい歌声なんだろうな。せっかくだし、お言葉に甘えちゃおうかな。


 俺が頷くと、レイウは早速歌い始めた。


「♪呪われし~囚人の~行く先は~血に染まり~」

「待ってそれ本当に子守歌?」


 歌の出だしが超不気味なんだけど。それは本当に子守歌か?子供が泣き出すぞ。

 綺麗な声なのに歌の内容のせいでとてもじゃないが眠りにつけそうにない。俺の微妙な反応に気づいたレイウは歌を途中で止め、眉を下げて困ったように笑った。


「む、私のいた世界では有名な子守歌なのだが。お気に召さなかったか」

「うーん。ちょっと歌詞がね……レイウはこの歌で眠れるの?」

「ああ。出だしは怖いかもしれないが、最終的に囚人は楽園にたどり着くからな。ハッピーエンドだ」


 うーん。いくら終わりが幸せでもさすがにちょっと怖いかな。でもまあ、異世界の話だしな。多少の価値観の違いはあるか。俺は苦笑しながら訊いた。


「でも囚人ってことは、悪いことをしたんだろう?楽園に行ってもいいのか?」

「囚人とは、私達のことだ」

「え、どういう意味?」

「私達の世界では、生きること自体が罰とされている。我々人間は皆、生きることで罰を受け、檻の中に閉じ込められている囚人である―――という教えだ。ふっ、お前には考えにくい価値観かもしれないな」


 レイウは小さく笑ったが、俺はとても笑える気分ではなかった。レイウは今までそんな教えの下で生きてきたのか。だとしたら---。


「そんな風に考えていたら、生きることが辛いだけのものになっちゃうじゃん」

「そうだな。でも、お前だっていつも辛そうにしているだろう」

「それは…仕事の時はそうだけど。別に四六時中辛いわけじゃないし。例えば、その……お前と話している時は、楽しいよ。罰なんかじゃない」


 その教えを完全に否定するつもりはないが、俺は苦しいことが沢山あっても、生きることを罰だとは思わない。もしかしたらレイウの頭の中では、自分が元いた世界の価値観がまだ根付いているのかもしれない。その証拠に意外そうな顔で俺を見ている。


「私といる時は楽しいのか」

「え、そんな楽しくなさそうにしていたかな。俺」

「いや……そうか、なるほど。そうだな、考えてみればそうだ」


 レイウは何か納得した様子でこくこくと頷いている。


「もしかして、レイウは楽しくないの?」

「私は……わからない。ただ、この世界に来て―――辛そうにしているお前を見て、少しでも力になりたいと思った。私にできる限りのことで、お前を少しでも楽にできたらいいと思った。だからこうやって一緒に話をしていたのだが…そうか、お前は楽しいと思ってくれていたのだな。私と一緒にいる時間を」

「……それって、レイウ自身は俺と話していても楽しくないってこと?」


 少し意地悪な質問をした自覚はあった。でも、それくらい今の話は聞き捨てならなかった。だって、それはつまりレイウは俺のために話に付き合ってくれているだけで、もしそうならそれでは単なる自己犠牲になってしまう。

 いつもレイウは俺の話を聴いてくれるけど、自分から進んで話すことはあまりなかった。会話の時、常に受け身だったのは、つまりはそういう---。


「わからない。楽しいと思う気持ちが、どういうことなのか。今まで、そういった考えをしてこなかったから―――」


 俺は起き上がってレイウを抱き寄せた。急な行動だった為レイウは態勢を崩し、上体を俺に預ける形になる。

 レイウは心底驚いた顔で俺の方を見た。


「りょ、良也!?どうしたんだ急に……」


 抱かれたままのレイウは、随分困惑した様子だった。抱きしめた腕の力を少しだけ強める。


「お前が楽しいって思ってくれないと、俺も楽しくない!だから、これはお前がさっきまでしてくれたことのお返しだ!どうだ!」

「ど、どうだと言われても……」


 レイウは顔を俯いて黙ってしまった。うーん、俺がやってもレイウみたいにはならないか。どうしたものかと考えながら何気なく背中をぽんぽんと優しく触ると、レイウの体がびくりと動いた。


「あ、ごめん。触られるの、嫌だった?」

「違う。その……くすぐったいというか、ふわふわするというか…」

「それは…嫌ってことか?」

「嫌ではない。むしろ……そうだな。良い感じだ」


 レイウがそう言って心地よさげにしているのを見て、俺はホッとした。

 体を寄せ合っていると、お互いの温度が伝わる。人のぬくもりってこんなに温かくて幸せな気分になるのか。

 しばらく俺はレイウを抱きしめたままで、レイウはそのまま抱きしめられたままで。お互い顔は見えないけれど、おそらく俺と同じ気持ちを彼も抱いてくれているだろう。そうであってほしい。ええい、聞いてしまおう。


「……なんかいいよな、こういうの」

「ああ、そうだな。とてもいい気分だ」


 レイウの頬がほんのり赤く染まっている。華奢で綺麗な手が俺の服をぎゅっと掴んだ。


「その、良也。あの……」

「どうした?」

「俺は公園でよくカップルを見かける」

「お、おう」

「それで、その……見かける度に、何故かお前の顔が浮かぶのだが……」


 様子をうかがうように、ちらりと俺の顔を見るレイウ。恥じらいと躊躇いが入り混じった表情がとても可愛い。彼を安心させるように頭をそっと撫でると、レイウは言った。


「どうして良也の顔が?と思っていたのだが、その理由が今、わかった気がする。その……」

「じゃあ付き合っちゃうか、俺たち」


 俺がそう言うと、レイウは驚いた顔で俺を見た。


「……いいのか?」


 俺が笑って頷くと、レイウは一瞬明るい顔になったが、その表情には不安が見えた。


「本当にいいのか?今はこの姿だからお前はそう思ってくれているのかもしれないが、元の姿に戻ったら…」


 俺はすかさず首を横に振る。


「俺、レイウと会う前までは正直凄く辛くてさ……でも最近はお前が一緒にいてくれるから凄く楽しい。俺はレイウが好きだ。姿どうこうじゃなくてさ、お前が好きだよ」

「良也……!」


 そう言ってレイウはぎゅっと抱き着いてきた。可愛い。


「私も良也が好きだ!だから、その…これからも一緒だからな!」

「ああ、勿論そのつもりだ」





 それから俺たちは、付き合うことになった。


 付き合うことになったとはいえ、普段のやりとりは以前とそう変わらない。だが、変わったこともある。レイウが自身の話をしてくれるようになった。今まで聞き手にまわっていた彼が、自分の考えを積極的に述べるようになったことは、俺にとっては嬉しいことだった。


 そして今日はレイウと久しぶりのデート。レイウの方から誘ってきてくれた。彼のお気に入りの公園で散歩をする予定だ。

 公園内にある時計の近くで待っていると、俺の名前を呼ぶ声がした。聞き覚えのある、女性の声だ。驚くことに、レイウは女の姿として俺の前に現れたのだ。駈け寄ってきたレイウに、俺は目を丸くした。


「あれ、何で今日は女の姿なの?」

「この姿が案外気に入ってな。たまにはいいだろう?その、服もそれなりに気を遣ってみたんだが、どうだろうか」


 レイウがくるりと回ると、白いワンピースがふわりと(なび)く。純白の生地が彼の持つ清純さを一層際立たせている。まるで天使のようだ。いや、天使だ。間違いない。


「可愛い。マジ可愛い」

「そ、そうか。二回言うほどか。そうか……」


 俺が率直に褒めると、レイウは頬を染めて照れた。可愛い。


「じゃ、行こうか」

「そうだな。ふふっ」


 急にレイウがにこにこと笑ったので、俺がどうしたのか尋ねると彼は言った。


「いや、お前とこの公園とデートできる日がくるとはな。実はずっと一緒に来たいと思っていた。言ってみるものだな」

「お前の行きたいところなら、どこだって行くよ」

「良也……そうだな。そうだった」


 そうだ。レイウは自分が望むことをすればいい。自分の感情を大切にしてほしい。そう思いながらレイウの頭をそっと撫でると、彼は無邪気な顔で笑った。



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