5:仮面を作ろう!
翌日、『セイバーワールド・オンライン』にログインすると――
「いたいた! おーい! ムキムキマッチョー!」
と、聞き覚えのある声で呼びかけられた。
振り向くとそこには、赤色の長髪をたなびかせ、腰に忍者刀を携えた、紺色のニンジャ装束の女性がいた。
そして女性の後ろには、おどおどとした雰囲気の、女の子のように可愛らしい細身のプレイヤーがいた。
「あれ? ニンジャの人?」
「あー……そう言えば名乗ってなかったな。アタシは『コーニュダメージ』。ああ、『コーニュダメージ』っていうのは、カエンタケの学名さ」
なるほど。忍者の女性は『コーニュダメージ』という名前だったのか。
「俺は『ケン』。この前はお世話になりました」
と、そう自己紹介する。
「それでな、ム――ケン。ちょっと頼みたいことがあってさ」
「頼みたいこと?」
俺が首をかしげていると、忍者の女性――コーニュダメージの後ろにいた、女の子のように可愛らしい細身のプレイヤーが進み出た。
「僕は『ペール』。職業は『仮面師』です。あの…… 僕と一緒に、仮面を作ってくれませんか?」
そう、細身のプレイヤー『ペール』は言う。
「仮面?」
と、首をかしげていると、コーニュダメージが説明してくれる。
「この子、ペールの『仮面師』はね、モンスターのソウルを宿した『仮面』を纏って戦う職業なんだよ。けど、モンスターソウルを仮面に宿すには、『アーツスキル』を使わずにモンスターを倒す必要があるんだよ」
なるほど、それは大変そうだ。
『アーツスキル』が重要視されるこのゲームで、『アーツスキル』を使わずにモンスターを倒すのは結構難しい。
……俺は筋力極振りだから何とかなってるけど。
「なるほど、仮面を作るために『アーツスキル』なしでモンスターを倒せる人を探していると」
「理解が早くて助かるよ。で、受けてくれるかい?」
と、コーニュダメージが期待の眼差しを向ける。
「……わかった。出来る限りやってみる」
そう答える。
「――っ。 ありがとうございます!」
感極まったのか、ペールは何回も頭を下げる。
「それじゃあケン、ペールを頼んだよ」
「わかった」
というわけで、俺とペールは始まりの町を後にしたのだった。
「それで、どんなモンスターを倒せばいいの?」
狩場へ向かう道中で、俺はペールにそう尋ねる。
「まずは、『ゴブリン』の仮面が欲しいです。ああ、ゴブリンは『始まりの町』の近くにある『ゴブリンの洞窟』にいます」
と、ペールはおどおどとしながらそう説明する。
「ゴブリンかぁ……なんかやばそうだな」
「はい。攻略サイトで見たんですけど、ゴブリンはアーツスキル『インベナム』でこちらを猛毒状態にしてくるんです。猛毒状態は普通の毒と違って、時間が経過するごとに毒のダメージが上がっていくんです」
「それはヤバいな。毒消しとかは用意してきたの?」
「はい、たっぷり用意してきました」
ペールは自信ありげに答える。
「じゃあ、大丈夫そうだな」
だが、何が起きるかはわからない。
気を引き締めていこう。
そして、ゴブリンの洞窟にたどり着いた俺とペールは――
「ギャギャギャーッ!」
ゴブリンが1体、怪しげに輝く小ぶりのナイフを振りかざす!
「アビリティスキル――『パワーIsスピード』『コンセントレイト』『パワーIsテクニック』!」
俺はアビリティスキルを3つ発動させると、神速のごときスピードでゴブリンに正拳突きをぶつける。
放たれた拳はゴブリンを吹き飛ばし、洞窟の壁に叩きつける。
そして、ゴブリンは光とともに砕け散った。
:
モンスターを討伐しました。
『器の仮面』にモンスターの魂が宿りました。
アイテム『ゴブリンの仮面』を手に入れました。
:
ファンファーレとともに、ウィンドウがポップアップする。
どうやら、仮面はちゃんと作れたようだ。
「ありがとうございます! これが僕の仮面……」
ペールはウィンドウを操作し、緑色の肌に、尖った鼻と耳、そしてギョロリとした目の怪物――ゴブリンの仮面を取り出して眺める。
「とりあえず、被ってみてよ。どんな感じか知りたいんだ」
「え? いいんですか!?」
「うん」
「わかりました。……えーっと、驚かないでくださいね?」
そう言って、ペールは仮面を顔に填める。
すると、ペールが身に纏う気配が変わっていく。
なんだ? と思って身構えていると――
「――ギャハハハッ!! これがゴブリンの仮面かぁ! 力がみなぎって来やがるぜ!」
と、ゴブリンの仮面を被ったペールが汚い声で笑いだす。
「ペール?」
心配の余り、声をかけると――
「お? ありがとなケン! これで『仮面師』の本領発揮できるぜ! 『インベナム』はアビリティスキルだからなぁ! これを使えばアーツスキルなしでもモンスターを仮面にできるって寸法よ! ギャハハハハッ!」
と、ペールは飛び跳ねて不思議な踊りを踊る。
別に何も起こらないが。
というか、なんか口軽くなってないか?
まさか、この仮面呪われてるんじゃ――
そう思った俺は、ペールから仮面を引きはがすと――
「あっ!? ちょっと待って! 仮面引っ張らないで!」
と、ペールがさっきまでの口調に戻る。
あれ? と思って仮面から手を離すと――
ばっちーん!
「あー! いーったーい目がー! 鼻がー! ほっぺがー! 顔全体がー!」
仮面を結ぶ紐がゴム製だったのだろうか、仮面が顔に叩きつけられ、悶絶するペールだった。
『面白い!』と思っていただけた方は、感想欄にコメントしたり、ブックマークや評価ポイントを入れてください。作者のモチベーションが上がります。