1:キャラメイクをしよう!
始まりは、1週間前――
専用のデバイスを用いて仮想現実を体感するゲーム――VRMMORPGが流行りだして数年が立った。
どこかのライトノベルのように、『ゲームの中に閉じ込められる』 『ゲームとそっくりな異世界に転移する』ような事件はいまだ起きず。
人々は夜な夜な、冒険、あるいは逃避――とにかく、非日常を体験するために、バーチャル空間にダイブする。
そんな時代になってから、数年が立った……
「スゥーッ……ハァーッ……スゥーッ……ハァーッ……スゥーッ……ハァーッ……」
ゆっくりと息を吸い、そして、吐く。
そして、膝を曲げ、腰を落とし、上げる。
俺は今、スクワットを行っていた。
なぜ、スクワットを行っているのか? それは――
ピンポーン。と、家の呼び鈴が鳴った。
俺はスクワットを中断すると、傍に置いてあったタオルで汗をぬぐい、玄関に向かう。
ドアを開けると、宅配便の業者――若い男性だ――が、ダンボール箱を抱えていた。
荷物を受け取り、俺はダンボール箱を抱えて部屋に戻る。
気分が高揚している理由は、さっきまでスクワットを行っていたというだけではないのだろう。
ダンボール箱を開けると、そこには、ヘッドギアと、ファンタジックな絵の描かれたゲームパッケージが、梱包材に覆われて鎮座していた。
「セイバーワールド・オンライン……」
パッケージに描かれたタイトルを読み上げると、欲しいものがついに手に入ったんだと実感する。
待ちかねていたものが、ついに届いたのだ。
軽くガッツポーズをした後、ダンボール箱の蓋を閉じる。
そして、部屋の箪笥から着替えを取り出し、風呂場に向かった。
汗をかいた後に浴びるシャワーはとてもさっぱりする。
身体を拭いて着替えた後に、改めてダンボール箱を開く。
中には、ヘッドギアと、ファンタジックな絵の描かれたゲームパッケージがあった。
ヘッドギアはVRMMO用のもので、ごつごつとしたサンバイザーのような形をしている。
これをパソコンにつなぎ、頭に装着することで、ゲームの世界に入ることが出来るのだ。
時計を見ると、そろそろ『セイバーワールド・オンライン』のサービス開始時刻になろうとしていた。
俺は呼吸を整えながら、ヘッドギアを有線でパソコンにつなぎ、ゲームディスクをパソコンに挿入する。
読み込むのに時間がかかるため、その間トイレに行ったり、軽く水分補給を済ませたりする。
しばらくして、パソコンとヘッドギアの同期が完了した。
ヘッドギアをかぶり、ヘッドに寝転がる。
興奮を抑えるように呼吸を整えながら、俺は目を瞑り、音声認識のキーワードを呟く。
「リンクスタート」
その瞬間、俺の意識は、闇の中に落ちていった――
『Welcome To ようこそ、セイバーワールド・オンラインの世界へ』
アナウンスとともに、意識が覚醒する。
俺は真っ白な空間の中にいた。
目の前には緑色の制服を纏った、観光ガイドのような女性が。
「わたくしは『ソフィア』。この世界の案内役です」
と、緑色の観光ガイド『ソフィア』は名乗る。
彼女は最新のAI技術で作られた、人間のように会話が出来るNPCのようだ。
「まずは、あなたの名前を教えてくれないでしょうか?」
ソフィアの言葉とともに、半透明のキーボードが出現する。
これで名前を打ち込めということなのだろうか?
とりあえず、『ケント』と打ち込もうとして……やっぱりやめた。
流石にMMOを本名で遊ぶのはまずいだろう。
ちなみに、俺の本名は『賢人』という。このことは読者の皆さんにだけ公開しておこう。
「『ケン』……でいいか」
キーボードを打ち込み、入力欄に『ケン』と入力する。
「ケンさんですね。では、ケンさん。この中から職業とスキルを選んでください」
ソフィアの言葉とともに、半透明のウィンドウが開かれる。
ウィンドウは2つの項目に分かれていて、1つは様々な職業――剣士、召喚士、回復士など――が、もう一つには、様々なスキルが記載されていた。
「この中から選ぶのか……」
俺はウィンドウを見渡す。
ふと、職業欄に、『剛力闘士』というものを見つけた。
『剛力闘士』 なんか響きがカッコいい。
職業は『剛力闘士』にしよう。
続いて、スキルを確認する。……が、なかなかいいものが見つからない。
「とりあえず『剛力闘士』だから……これでいいか」
『筋力強化』というスキルを選択する。おそらく、『筋力』というパラメーターを上げるものなのだろう。
「決まりましたか?」
と、ソフィアが訪ねてくる。
「ああ、『剛力闘士』と、【筋力強化】で頼む」
「了解しました。では、次にステータスポイント100を能力値に振ってください」
ソフィアの言葉とともに、半透明のウィンドウが開かれる。
表示されているステータスは、『器用』『敏捷』『筋力』『生命力』『知力』『精神力』の6つだ。
6つのステータスには、『5』と数字が表記されている。
「『剛力闘士』だし……これでいいか」
俺は少し迷った後、ステータスポイントを全部『筋力』に突っ込んだ。
というわけで、これが俺のステータスだ。
名前:ケン
レベル:1
ジョブ:剛力闘士
ステータス
器用:5 敏捷:5 筋力:105+10+50 生命力:5 知力:5 精神力:5
スキル
『筋力強化』
こういうのを『極振り』というものなのだろうかと思う。
だが『剛力闘士』だし、どこもおかしくはないだろう。
それに俺、趣味で筋トレしてるし。
「ステータスは決まったようですね。では、最後に、キャラクターの見た目を決めてください」
ソフィアの言葉とともに、半透明のウィンドウが開かれる。
どうやら、最後に見た目を決めて、キャラメイクは完了のようだ。
「ちなみに、外見をすべてランダムで決めることもできますよ?」
キャラメイクに迷っていると、ソフィアがそう言ってきた。
ランダムキャラメイクか……そうだな。めんどくさいし、それにしよう。
「ソフィア、ランダムキャラメイクで頼む」
「わかりました。貴方の外見は街に降り立ってからのお楽しみです!」
ソフィアの言葉とともに、ウィンドウが閉じられる。
「では――」
と、一呼吸おいて、ソフィアが言う。
「ケンさん。夢と希望、戦いと冒険にあふれた不思議な世界をお楽しみください――」
ソフィアの言葉とともに、俺の視界は光に包まれていった――
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