四十六 終わりの次は
黒ローブの戦いを終えて、約1時間が過ぎた。
アルゲン自分の火を消した後、俺を運んで街に戻ろうと提案してくれたが、全身黒焦げでボロボロな翼でどうやって俺を運ぶんだって言ってやった。
ようやく猛っていた感情が落ち着き、夕焼けに照らされながら、灰と化しただだっ広い元ゴミ山を目前に横たわっている。
危ない所が何度かあったが、強敵相手を倒した。
身体はまたボロボロに、片翼はいつの間にもげてるし、節々に黒ずんだ焼け跡が沢山あるし、はっきり分からないが、多分頭もぶつかった時からえぐれてる。
さっきまではどうでもよかったのに、今は死んだ方がマシなくらいの激痛が全身を荒らしている。
今どんな状況になっているか少し怖いが、そろそろ自分の状態を確認しないと…。
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名前:リエル
種族:リトルマナドラゴン
状態: :重傷
レベル:5/5
体力:8/45
魔力:19/24
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前よりはマシだけど、それでもボロボロだな。
レベルが最大になってるって事は…奴を倒したって事だな。
「おーい、リエルー!」
どうやら、神島達が来たようだ。
後ろを振り返ると、15の勇者達と13の霊獣達が、俺1人を迎えに来てくれていた。
[な、なんで全員来てんだよ、普通ここは少数で来るとこだろ…]
俺の言葉に、猪原が返してくれる。
[みんな、リエルさんの事を心配していたんですよ]
「リエル!その怪我だ、大丈夫?!」
「そんな所でぼーっとしてたら死んしんでしまうぞ!」
「俺の甲牙の為にも、リエルは死なないでくれよ!!」
「翼もげてるぞ!?は、早く見つけ出してくっつけ治すぞ!」
[ま、まてまて俺は大丈夫だって]
[少なくとも我の目からは無事では無さそうだがな]
[リエル〜、本当に死んじゃうよ〜?]
他の霊獣達もそうだそうだと、俺に対して沢山心配事を言いまくっている。
俺は勇者達に軽くもみくちゃにされながら騒ぎが静かになるまで耐えた。
[と、トドメを刺されるかと思た…]
「り、リエル〜、痛かった?ごめんね?」
数人の勇者達は各々俺の片翼を探していたが、見つかるはずもなく、悔しそうな雰囲気で戻ってくる。
「それにしてもここやべぇな…全て灰になってるけど、リエルがやったのか?」
高濱が話してくるが、俺は首を横に振る。
「お、おぉぅ、そうか。俺達も物見櫓から見えたんだが、すげぇ火の上がり方だったよな…」
「そうだね、まるで火の龍みたいですごく美しかった」
どうやら、火の海は勇者達にもはっきり見えていたらしい。
俺がやったと言ってなんか罪が付いたらねんどい。
完全にゴミ山の面影は無いし、果たして燃やしてしまったのは大丈夫なのだろうか…。
[リエルさん、とりあえずは城に戻りましょう。怪我を治さないと]
[いや、これはただのかすり傷だ]
[それって昨日も言ってましたけど、ただ治されるのが嫌いなんですか?]
[いや、俺は別に迷惑を掛けたくないだけで…]
[そんなそんな言い分はもっと軽い傷の時に言ってくださいよ…翼がもげてるし、頭凹んでるんですよ?]
[ヤコ〜、リエルはまだここに残りたいって言ってるから〜、先に帰ろ〜]
[…リエルさん、またなにか起きないように早めに戻ってきてくださいよ]
猪原は仕方ないような感じで軽くため息をついた。
…1ヶ月間で猪原も俺に対してだいぶ柔らかく接してくれるようになったな。
猪原は勇者達に声を掛けて、俺を残して城に戻るように伝えた。
みんな凄い心配してくれていたけど、すまんな…。
霊獣と勇者達は次々に渋々というかのように灰山を通って町へと戻っていく。
そして、この場にはまた俺だけしか居なくなった。
騒がしさが消えた所で、俺は痛みを堪えながら起き上がり、灰山の中心へと少し足を引き摺りながら近づく。
灰山の中心は周りよりも明らかに黒ずみ方が違う。
前足を使って中心周りをひたすら掘り始める。
10分…もう前足が疲れた
20分…痺れるような感覚もあるが、掘るのはやめない
30分…そろそろやめたくなったが、身体はまだ諦めない
一生懸命掻き分けていると、カチンと固いものにぶつかった。
俺はそれをすぐさま掬いだす。
ようやく見つけ出した物は真紅の色をしたプレートだった。
これを近くで見るのは2回目だが、相変わらず変な気分になる。
…これを探した理由はとても強い興味本位だった。
自分では無い何かが、普通じゃないこの不思議な感覚をもう一度感じたくて…探し出した。
前は直ぐに離れてしまったが、今回は目を離さずじっと見詰める。
凍えるような、心が高ぶるような感覚が次第に上がっていく。
[ ]
感情が昂るように上手く考えられない。
[ ]
夕焼けの視界が明るくなっていく。
このまま、ずっと…
「リエル、まだここにいたの?」
後ろから神島の声がして、直ぐに我に返ってくる。
あ、危ねぇ…頭飛んでた。
俺は真紅のプレートを前脚で跳ね除け、直ぐに目を離した。
俺のバカ野郎、なんでこんなことしてんだか…。
「怪我は大丈夫?」
神島の方を向くが、まだ視界が変に明るくゆらゆらと酔ったように世界が揺れている。
俺は神島になるべく不安にさせないようこくりと頷いた。
流石に時間を掛けすぎて、心配になって見に来てしまったのか。
「…少し話したいことがあるんだ」
灰山の中心から離れた後、1匹と1人は大きな木の下で夕焼けが沈み始めるのを隣同士座って眺める。
「なんだか、ようやく1つが終わった感じがする」
[ようやくっていうか、やっとって感じがするけどな]
「まぁ、まだ序章の終わりって感じなんだろうけど、とても長かった」
神島は淡々とこれまでの事を語り始める。
「思えば、この数日の起きた事かあまりにも多いよね」
「最初は森でレベル上げが出来ると思ったら、全然遭遇しなくて突然強い魔物に出会った」
「2日目は森で何も見つからなかったと思ったら、夜に寝込みを襲われた」
「3日目には霊獣達がみんなで僕達を探しに来て、その後には馬車で爆弾が爆発して…甲牙が死んでしまった」
「4日目、リエルとヤコが何処かに行ったと思ったらヤコが戻ってきて、言葉を話したと思ったらリエルが危ないことを伝えてくれた」
「5日目でリエルが戻ってきてから色々話して、そして今日…」
今思えば、あまりにも内容が多く、重かった。
六日間の過程で三度くらいも死にかけて、その度に奇跡のように生き残った。
[マジで俺、よくここまでやれたな…]
転生前に、主人公がよく死にかける描写を多く見ていた。
死が近づくのをリアルに体験するのは正直、あまりにも無理だと思っていた。
しかし、なんだかんだ行けたのはこの姿のおかげだ。
人間だった頃と比べて、あまりにも恐怖心という物が薄く、どんな状況でも足が震えるなんてことが無く、強大な力を持った黒狼に対しても最初以降はずっと冷静だった。
そういう過程で何をしたかって言われたら、結構無駄足もあった気がするけどな…。
神島の声が少しだけ震える。
「僕…本当はこの世界に来た時から自分が特別な、主人公だったり───って思ってたんだ」
「何が起きても自分ならなんでも出来るって…」
「でも、それはただの気のせいだったみたい」
「何かを成し遂げているかのように見えて、全てが他人任せのようだった」
[いやいや、そんなわけないと思うんだが…]
第一に、俺をここに連れてきてくれたのは神島だ。
神島がいなければ、俺はここに居ない。
他にも…えっと、そのなんだっけ、あれ、あの、初めて魔物と戦った時もいい感じ…だったか?
神島が何をしたのかが何も浮かばない。
考えてなかった、の方が正しいと思いたい。
[いや、でも…]
「最初の森で戦った時は、シャガルとリエルが共闘して決着を付けてくれたし、夜に襲われた時も、真っ先にリエルが気づいて僕を助けてくれた。爆弾を見つけたのもリエルだし、他の皆は甲牙が命を懸けて守ってくれて、その後の怪物はヤコが何とかしてくれた」
[お、おい大丈夫か…?]
神島の目に涙が浮かぶ。
「最後の敵も、リエルが倒した…」
神島はだんだんと涙が溢れ出て拭っても拭っても止まらなくなる。
「ぼくは…なんにも、出来なかった…」
ど、どうしよう…そんな泣かれても…俺は慰めとか全然出来ないんだが。
え、えーっと…そうだな。
こういう時こそ、何かをするべきだな。
立ち上がり、泣いている神島に近づいて、ボロボロな前脚で触れる。
俺は神島に全力で声が届くように願いながら、神島に語りかける。
[泣かないで、安心して欲しい…。いくら何が起きようとも、俺は…秀を助ける。だから…大丈夫だよ]
神島が驚いたように、俺へと顔を向ける。
「…リエル」
俺は神島へ手を差し伸べた。
神島も、少し困惑しつつも、右手で返してくれる。
俺は竜の姿で初めてにっこりと精一杯の笑顔を作った。
自分でもできているか分からなかったが…ちゃんと神島には伝わってくれたようだ。
「…ありがとう」
神島が落ち着くまで待っていると、いつの間にか太陽も全て沈み周りには暗闇が広がっていた。
「ごめんね…もう暗くなっちゃった」
[いや、まぁいいと思うぞ。もうこういうムードはあまり感じたく無いけど]
「城に戻ろっか」
そう言って、神島は立ち上がり、後ろの森へと歩き始める。
遂に、物語の1つの節目が終わる。
これは第一章、もしくは序章って所だろう。
…あぁいや、何を考えてる。
今この世界で体感しているのは…現実だ。
そんな第一章とか、物語みたいなストーリーの節目なんてある訳ないじゃないか。
でも、自分の運命は自分で決めているかのように見せかけて、神か何かが…もしくは俺自身が今誰かに書かれている小説の一部なのだろうか。
その真相が解明する事は絶対に無い。
[こんな事、考える必要はないか…]
俺は何が起きようとも、自分の赴くままに進むまでだ。
まだ脱ぐう事の出来ない不安を掻き消し、俺も立ち上がる。そして後ろの神島の方へと振り返った。
見上げる一つの月はいつもと違って、深紅の色を輝かせていた。




