四十三 帰ってきたアルゲン
食堂で話し終わった後の時間は思ったよりも早く、広場で少し動いているだけでいつの間にか陽は沈みそうな時間となっていた。
離れで猪原が勇者達を見てるうちに休憩を終えて、もう一度猪原と訓練を始めようと大きく声をかけようとした時、ようやくアルゲンが戻ってきたようだった。
[あー!リエルもう戻って来てたの〜?]
アルゲンは俺の存在に気づくと、大きな羽音をたてながら俺の側へと着地した。
[あー、すまん…アルゲンが出て直ぐに俺戻ってきてしまったんだ]
アルゲンは今日の朝から夕方までずっと俺を探していてくれたのに、無駄な時間を使わせてしまったことが申し訳ないな…。
アルゲンも朝からずっと飛んでいたのか息を切らしており、砂埃を立てながら仰向けになった。
[も〜、ずっと探し回っていたんだよー!一体どこに行ってたの〜?]
[えーっとな、街の兵士のせいで街の外れにあったゴミ山で今日の朝まで寝てたんだよ]
アルゲンは俺の行動に不満そうな顔をしていたが、安堵もしているようだった。
[心配かけてすまん、もう少し早く帰っておけば無駄骨にはならなかったのに]
まーでも、俺がめちゃくちゃ遠回りとかでもしてたら、アルゲンと一緒に戻るルートもあったのかもなぁ。
…まぁ過ぎた事か。
猪原も俺達の側へと寄ってきて、真っ先にアルゲンへと謝罪をする。
[アルゲンさん、ごめんなさい!リエルさんと入れ違いになってしまったようで]
[大丈夫だよヤコ〜、1度戻って来なかった俺も悪いからさ〜]
[ですが、リエルさんを探して欲しいと言ったのは私ですし…]
[ヤコは何も悪くないよ〜、リエルが全部悪いからさ〜]
[え、あぁ…あまり納得いかないけどそーだな]
元はと言えば外に出ようと言い出したのは俺だし、気に食わないけど仕方あるまい。
どうせ明日にはアルゲンにも協力してもらわないといけないし。
[まぁ、アルゲンに無理させてしまった訳なんだが、まだお前に頼みたい事があってだな]
[何〜?]
アルゲンは寝転んだ状態から首だけを持ち上げてこちらを向いてくれる。俺の様子からまた大事な内容だと思ってくれているのだろう。
こいつは優しい、だからまぁ快諾はしてくれるだろう。
[アルゲンには昨日出会った黒ローブを倒すのに協力して欲しいんだ]
[ん〜良いけども〜、多分明日は人間達が簡単に制圧すると思うんだよね〜。俺達が出る幕なんて無いと思うよ〜?]
アルゲンは俺に軽くアドバイスするような口調で返してきた。
まぁ、確かにその通りだろうな。でも、俺が決めた事なんだ。
[じゃあ猪原が青髪達に俺とアルゲンだけで殺ると伝えておいてくれ]
[え、大丈夫なんですか?]
[大丈夫だ、問題ない]
猪原は反対をしようとはせず、また不安な顔で少し頷くだけだった。
なんか…変な意地張っちゃってるように見えるだろうけど許してくれたまえ。
それから、アルゲンと少しだけ作戦を話し会ってから夕方の時間を終えると、神島に自室へと運ばれてしまったので、直ぐにベッドで横になる。
明日の為にアルゲンと話した作戦を頭の中で考えようとしたが、今日と昨日の色々な出来事のせいか、想像する暇も無く直ぐに暗闇へと落ちていってしまった。
今日の朝はなんだか不思議で、いつもよりもぐっすりと眠れた感じだった。
明るくなった外に照らされ、普通では無いドラゴンは起き上がって大きく伸びをする。
[今日はとてもいい天気だな]
こういう日こそ、自分が待ち望んでいた時間だろう。
いつもより気持ちが昂っているように思える。
俺はシーツに少し付いてしまった俺の血の滲んだ跡を見て、慌てて血の付いていない所でゴシゴシと擦りつつステータスを開く。
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状態:通常
体力:38/40
魔力:17/22
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見た感じ、なんとか今日の分は余裕でありそうだ。
すっかりと回復した首元の傷を目の端で確認した所でホッとする。
血の跡が広がったのはどうにもならそうだが、無視しとくことにする。
隣を見ると神島は相変わらず寝ているようだ。
今日は神島の事を起こさず、部屋の扉を自分で開けてからそのまま広場へと向かった。
広場には既にほとんど集まっている勇者達と霊獣が木刀を振り、戦っていた。
俺が来たことに気づいた猪原がこちらへ寄ってきた。
[リエルさんおはようございます…あれ?今日は運ばれて来てないんですね]
[あぁ、まぁそうだな。あの寝坊助神は部屋に置いてきた]
[一応今日は大事な日なんですし、起こした方が良かったのでは?]
[うーむ、そうした方が良かったかな]
俺はやっぱり戻って起こしに行こうと思ったが、その考えは大丈夫だったようだ。
「どーもー」
見知らぬ若い男の声が入口の方から聞こえた。
振り向いてみると、そこには白銀一色で輝く鎧を着た成人したばかりのような優しい顔の男。
その後ろに眠たそうな神島が目を擦りながら着いてきていた。
[いや眩し過ぎだろその装備]
白銀のその豪華な鎧は太陽光を反射してる訳では無く、鎧自体が光を放っているようだ。
猪原がその男に頭を下げて挨拶をする。
[あ、イェンカさん、おはようございます]
「?おはようございます?」
「おはよう…リエル今日は起きるの早いね…」
[ここ最近のお前が遅いだけだろ寝坊助]
イェンカと言う人間は俺が話すと不思議そうに見詰めてくる。
彼から覗かれるその眼差しだけは何故か理解する事ができて、非常に純粋な物に見えた。
「うーん、まぁ気のせいかな。じゃあシュウ、レオラさんが来るまでみんなで訓練しよっか」
「あ、はい!」
と、イェンカと神島は俺達を置いてそのまま勇者達の方へと行ってしまっまた。
おおよそ分かりはするが、とりあえず猪原に耳打ちで聞いてみる。
[猪原、この人が聖団ってやつか?]
[そうです。昨日1度だけここで実力を見たのですが、勇者のみんなが一斉に戦っても圧倒的な強さで勝っていましたよ]
との事なので、とりあえずは【観察】で強さを確認してみる。
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<イェンカ>
総合戦闘能力:1086
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彼は今までに人間を見た中で圧倒的にイカれた強さだった。
黒狼には劣るものの、この人間1人のみでなんとかすることが出来そうだ。
あまりの強さに作戦を辞めようとも一瞬思ったが、さすがに黒ローブへの恨みの気持ちの方が強かったので無しとする。
猪原が俺の言葉の返しを待っているが、俺は何も話さずにイェンカの元を見つめる。
[なんかあいつ変な奴だな]
[えぇ、そう思いますか?私は良い人だと思いますけど…]
[さっき俺の事をじっと見つめてきたろ?まるでなんで俺がいるのか不思議そうにしやがった。初めて会うのにあの態度は一体なんなんだよ]
奴を見ているとストレスが溜まってくる気がする。俺があいつより強かったら一度格差を見せつけてやりたい程に。
[リエルさん、どうしたんですか?]
[ただあいつの態度に腹立ててるだけだ]
[そうではなくて、何か雰囲気が違うというか…]
…?こいつは何を言っているのだろうか。
猪原のいつもと違う態度に少しイラっとしていると、猪原から突然頭をぶっ叩かれた。
は、痛ぇ!なんだこいつ!
[何急に!?叩くとか酷くね?]
[あ、治ったようですね]
[え、えぇ…どゆことだってばよ…]
[やっぱり叩くと治る言い伝えは大事ですよね]
猪原がよく分からんこと言ってるけど、急に叩くとか一体どういうことなんだか…。
…?ていうか俺さっきまで何してたんだっけ?
頭叩かれて今日からの記憶消えたんだけどぉ!猪原のバカヤロー!




