四十一 帰り道で遠回り
30分位程歩いた所で俺はようやく街の端、建物がある所の側まで着いた。
足取りは怪我をしていない時よりも軽く、痛みもずっとやって来ることはなかった。この怪我で体力にも限界があるはずなのにとても不思議だ。
街の端の建物周辺も見渡して見るが、やはり人は見つからず、ほとんどの建物の窓から見える明かりが人々が夜時には外に出ない事を意味付けていた。これも事件が起きないひとつの理由でもあるのだろうか。
俺は屋根の上には登らず、路地の中を進み始めた。
この辺りの路地はとても綺麗だ。
城壁近くと違って壊れた家具1つ無い。
気になる事はまだ沢山ある。
一体どれくらいの時間が経ったのか、今は朝方のようだが、街の様子は特に何も変わらず、静かだ。
青髪達は既に行動を開始しているのだろうか。
出来れば一日しか経ってなければいいのだが…まぁ、心配はいらないか?
粗大ごみがチラホラと増えてくる路地を進んで行くと、木屑に紛れた血の塊を見つけた。
それを見た瞬間、俺はこの場所であった事を思い出す。
ここ俺が首狩りにあった所じゃねぇか!
ドキドキしながらも周りを見渡してみるが、特に気配もない。
い、一応は直ぐに離れなくても大丈夫そうだな…。
ホッとしつつ、とりあえずは血溜まりの跡を確認してみる。
見た感じ、そこそこの時間は経っていそうだ。
もうほとんど黒ずんでめちゃくちゃ固まっているし周りの木屑も巻き込んでいて、爪で削ろうとしても全く取れない。
こんだけの血を流していたのに、俺は生きてたのか……。
まじで人間じゃねぇな俺。
こんな所で考えて止まっている暇などないので、俺は直ぐに城壁へと向かう。
疲れ知らずな俺はさらに30分ほど路地を進んでいくと、ようやく城壁のそばまで着くことが出来た。
相変わらず、城壁周辺は粗大ゴミだらけだ。
途中、1度通った事のある物見櫓もあったが、かなり迂回してから通って行った。
そのせいでちょっと時間が長くなってしまったんだけどな。
城壁の側まで着いた所で城壁の側面を歩きながら俺は少し悩む。
城壁にたどり着いたはいいんだが、城壁塔にほまだ敵が居る可能性が非常に高い。
城に入る唯一の入口だし、監視役が1人いてもおかしくは無いんだよなぁ。
猪原が俺の事を配慮して、城内の仲間を連れて城壁塔に行ってくれてたら助かるんだが…まぁないよな。
[はぁ〜自分の翼で飛べたらいいのに…]
俺は殆ど慣れた背中に付く翼をバサバサと上下に羽ばたかせる。映画やアニメのような波打つような滑らかな羽ばたきはまだ出来ない。
しかし、未だに滑空しか出来ないのはやはりまだ発達していないからだろう。
早くMAXレベルで進化して、この大空に翼を広げて飛んでゆきたいなぁ。
勿論、レベルはあの黒ローブ野郎で上げさせて貰うからな!
いろいろと黒ローブと戦うイメージを考えていると、あっという間に城壁塔へと到着していた。
しっかりと周りを見渡すが城壁塔の入口には誰もいない、この周辺には人の気配は一切しなかった。
俺はそのまま早足で城壁塔の中へと入る。
壁を伝う螺旋階段も素早く上がっていく。
あれ、いつの間にか体のだるさとか力の入らない所も治ってるな。
これも隠された魔力の効果なのかねぇ。疲れとかほとんどないし。
階段の1番上まで登ってきたが、外兵士や黒ローブは誰もいなかったことにとてもほっとする。
そして、俺はようやく城の中へと戻ってくることが出来た。
[と、とてもしんどい外出だった……]
城壁の上から下を見下ろすと広場が見え、そこにはいつも通り勇者達と霊獣が集まっていた。
いつもの訓練はしておらず、全員1箇所に集まって何かを話し合っているように見える。
青髪と猪原はちゃんといるが、アルゲンだけは見当たらないな。
勇者達の様子をじっと眺めていると、猪原が俺が見下ろしている事に気づく。
猪原が落ち込んでいた狐耳をピンと立てて喜びの表情を見せてくる。
[あ、リエルさん!]
[帰ってきたぞー]
猪原の反応に、勇者達もこちらに気づいて、指を指したり手を振ってきたり、大きい声で喜びの歓声をあげる。
「あいつが帰ってきたぞー!」
「うぉぉおおおおおお!!!!!」
「おいこのバカドラー!大丈夫だったかのか!」
[おいバカドラって言ったやつ誰だよ!!]
俺の存在に気付くなり、勇者達の元気が戻ってくれたようだ。
俺の不在に心配してくれていたのか…ちょっと照れくさいな。
とりあえずは広場に降りるか。
城壁の1番上と広場は街の方とは違ってそこまで高くはない。およそ3m位だろう。
これくらいなら滑空でも失敗せずに簡単に行けそうだな。
俺は城壁からひょいっと飛び降りながら翼を広げる。
すいーっと空中で垂直落下から斜め方向へと勇者の溜まる方向に飛んでいく。思ったよりも勢いは強い。
あれ、これ激突するんじゃね?
[あーー!ちょ、ストップストップ!]
降下しながらの翼は閉じることは風のせいで無理だった。
そのまま勇者達へどんどん近づいて行くと、神島が前へ出て来て俺を止めようとするかのように腕を広げる。
俺はそのままの強い勢いで神島の胸元へ激突した。
神島も強い衝撃で立ってられずそのまま地面へ背中から倒れた。
幸い抱き着くようにぶつかったから、痛みはなかった……いや元々さっきからずっと無い気がするけど。
神島は倒れながらも小さな俺を胸元でギュッと抱いてくれていた。
神島は少し嬉しいような、泣いているような声で言った。
「おかえり……リエル」




