四 初めてのの戦い?
[····と言うことがあったんですよ]
[うんうん]
[そのあと私は気づいたら狐になっていました]
俺は昨日と同じように大きな広場で猪原の話を聞いていた。
[教室にいた人たちは25人だったんだろ?もしかしてだが、ここにいるのは勇者15人と猪原と俺、それ以外の8人が召喚で猪原みたいに別の種族となってこっちに来ている可能性があるかもしれないな]
[そうですね。あ、でも私が召喚される前は先生も含めて26人いましたよ。周りをよく見ていたのでそれは確実です]
[…先生もここに来ているなら、早めに見つけたいところだな]
[そうですね…ですが、私達はこの城を出ることは出来ません。もし出たとしても、外の魔物にすぐにやられる可能性が高いです。今はどうにかして強くなることが目標ですね]
[魔物を倒してレベルを上げれればいいんだけどなあ]
話によると、ショートホームルームが始まる少し前に教室全体に魔法陣が展開され、先生含む男子生徒が力を合わせて脱出を試みたが、窓とかドアはビクともしなかったと…。
[猪原がここにいる理由は分かった。俺は少し考えたいことがあるから、離れててくれないか?]
[はぁ、分かりました、次はあなたが何で死んだか聞きますからね]
[おう]
そう言って猪原は俺から離れ、神島達の練習を近くで見学しにいった。
今思ったが、何で猪原は名も言わぬ俺に自分のことを話したんだろう。
俺が教室の生徒だと知って気持ちが軽くなったとか?敬語を使うのもちょっと意味わからんし…まぁその辺はいいか。
それより、まずは他の奴らがどれだけ強いのか確かめないと。
白竜は他の霊獣と休まずに戦っている。他の霊獣を単純な力比べで圧倒していたから少なくともこいつらの中で1番強いかもしれない。
じっと相手の能力を見るように意識を集中した。
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<シャガル>
総合戦闘能力:35
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はぁ、やっぱりだよなぁー。
霊獣が強いことは見ただけで分かっていたけど俺よりも総合戦闘能力が10高いって何だよ。
俺も竜なんだからもう少し強くしてくれよ。
でもあの白竜が他の相手に負けずに圧倒的な勝利を見せているんだし、他のやつは少し弱いんじゃないか?
霊獣全員の総合戦闘能力を見ておくか。
霊獣達を観察したところ、思ったよりも白竜よりは総合能力値は少なかった。平均26くらい。
一匹だけ空飛んでる鳥は圧倒的に卑怯な気もするけどそれでも29だ。
白竜だけずば抜けて強いのがよくわからん。
竜として転生したのに使えない技能を持ってて周りと変わらないって…まぁ、これは傲慢すぎるか。
…いっそのこと戦ってみるか。
戦うことによって新たな力が芽生えたりするかも。
戦うなら俺より少し弱いやつだ。
俺は戦う事を決心し、戦闘能力が最も低い11である少し休憩している柴犬に話しかけた。
[なぁ、俺と戦わないか]
あぁ!緊張する、なんかもう帰りたくなってきた。
[···お前は昨日離れて見ていた竜か、やる気になったのか?]
[あぁ、やる気満々すぎる]
[そうか]
柴犬はそう言うと俺から少し離れ、姿勢を低くした。
まぁ、勝つなんて余裕だろ。
周りは誰も見ていないんだし…おい猪原こっち見んな。
俺も同じように姿勢を低くして柴犬が攻めてくるのを待つ。互いに守りの体制。
数秒位の間のあと柴犬が大口を開けて素早く迫ってくる。
結構早い、けどシンプルな攻撃だから余裕だな。
俺は柴犬の噛みつきの軌道をしっかり見て右側に跳んで回避した…しきれなかった。
ジャンプする後ろ足が思ったように強く蹴ることが出来なかった。
柴犬の噛みつきは見事俺の左後ろ足にヒットし、俺は地べたに顔をぶつける。
あ、痛いです。調子に乗ってスミマセンデシタ。
[痛え]
痛みで声が出る。
なんとか、なんとか外さないと。
俺は体を起こし柴犬に小さい爪を振りかざす。
柴犬は左足から離れて爪は当たることなく空を切る。
一旦離せたが、すぐに切り返して近づいてくる。
容赦ねぇなぁ!
さっきの倒れ込みですぐ立って足に力を入れる回避は無理だから逆にカウンターを決めるしかねぇ。
噛みつきで単調な攻撃、跳んで避けると思ってるのか奴は少し顔を上げて口を広げる。それに合わせて全身を地面に張り付くくらい下げる。
すると、簡単に柴犬の懐に入り込むことが出来た。
そして、思いっきり勢いよく上体を起こした。
[どっせぇぇぃ!]
[ぐあぁぁ!]
柴犬は見事に高く空を飛び、高い所から激突すると思ったが普通に綺麗に着地された。
うせやん。
でも、柴犬はもう戦う気がないようだった。
[ふん、やるではないか]
[まぁ、うん、そうだな]
[?それより、普通に強いではないか。他の者と戦えばいいのに、勿体ない]
[俺はそんな戦闘狂にはなりたくないし]
柴犬は何事もなかったかのように俺から離れていった。
いやぁ、余裕だったな!
基本的に今の状態だと50歩100歩だけど、総合戦闘能力が俺の方が高ければ一応は勝てそうだ。
強く噛み付かれたはずの後ろ足はもう痛みはなく、気づかないうちに完治していた。