三十九 死の淵にて
外を見ると城壁塔を囲ーう兵士共、中を見れば逃げられるはずもない黒ローブ野郎もいる。
マジで絶体絶命とはこういうこったいな…。
こんな状況でも何故か俺は異常なほど落ち着いていることが少し不思議に思う。
まだ誰一人近づいて来ないのを見るに俺の動きを待っているのかね。
兵士位なら足元を抜けて通れると思ったけど、あんな風に待機されてると普通に無理な気がするよなぁ。
魔石の発動場所はなるべく敵の足元で発動したい。
敵のパターンを考えてどう行動するかを考えるべきだ。
速度では絶対勝てるはずがない、適当に出してもすぐに追いつかれるだけだろう。
周辺に人が居なかったのは、見つけた霊獣を閉じ込めるために市民に影響を与えずに騒ぎなく終わらせる為だったのだろう。
この辺りの建物に入りたくもあるが、見た感じ扉も窓も全部閉じられていて鍵も閉まってそうだ。
「**********?**********?」
ラトが俺を煽るような口調で話してくる。
[うるっせえ…どうせお前らなんて最終的には負ける運命なんだよ]
明らかに絶望的な状況でも俺は減らず口を叩く。
かと言ってどれだけ考えても希望の光などない。
これ以上何を考えても何も出来ないし、やはり最初に火魔石を突っ込むしかないよな…。
俺は主人公でありつつ生き残れるよう祈るように、一度大きく深呼吸をする。
そして口の中に潜めてあった火魔石をセットし、正面にいる兵士へと全力ダッシュしながら思いっきり吹き飛ばした。
「*********!」
「******!?」
放たれた物に兵士がすぐに気づいてしまい、正面の兵士の胸当てに当てるつもりが身体をそらされてあっさりと避けられてしまう。
[あ、え…?]
唾液まみれになった火魔石は兵士の奥へカラカラと転がり、何も起きず大通りのど真ん中で止まってしまった。
予想外の出来事にびっくりしてしまうが、後ろから黒ローブと兵士たちが後ろから追ってきてもう止まることなんてできない。
ラトが後ろから迫ってくる。もう短剣の切先は寸前まで迫っていた。
時がとても遅く感じる、まるで時間が止まっているかのようだ。
まるで走馬灯……ていうか頭だけが異常なくらい働いていて、1分程心を落ち着いて周りの状況を見回すことすら出来てしまう。
この感じ、ラーファウルの時にもあったな…。
死が目の前に迫っていて、そしてなんの前触れもなくふとよく分からんラノベの話を思い出して解決していた。
なるほどねぇー、ここでまた俺は何かをしてピンチを乗り越えることが出来るのか。
まるで【時止め勇者~余命一ヶ月でもポーズ機能を使えば魔王相手でも無敵です~】のようなラノベの状況ってことだよな?
いやそんなわけあるかーい!
無敵でもご本人が動けなかったら結局結末はかわんねえよ!
あははは……!はぁ。
なんかこの状況でめちゃくちゃぼんやりと変な事考えてしまうなあ俺。
でもそのおかげでなんだかさっきよりもこころが軽くなった気がする。
この先、どうしたらいいのかが分かる。野生に戻ったように昔の勘がそう言っているような気がして
短剣が俺の背中の鱗をついに貫通する。
俺は不思議な気持ちのまま牙を剥いて自分を奮い立たせるように大きく叫ぶ。
[うぉぉおおおおおおお!!!!]
最低速度だった時の流れが急激に戻っていく。
さっきよりも圧倒的に早くなるような勢いで目の前の兵士へと何を考えることもなく突撃していく。
ラトと兵士達は俺の速度に着いていけず、簡単に兵士達の囲いをそのまま脱出することが出来た。
[走れぇぇぇ!!]
そして、大通りに落ちた火魔石を右前足で拾うと、さらに速度を早めていく。
兵士達の姿はすぐに離れていき、もう見えなくなってしまった。
大通りを最高速で疾走する風の抵抗はとんでもなく、少し止まってしまえば反対にぶっ飛ばされそうな勢いだった。
チラホラと大通りに人が現れ始めた所でとりあえずは路地の中へ入る。
凄まじい速度で走っていた為、目線がこちらに向く事はなかったがバレてたらまた大変なことになってた気がするな。
[はぁ…ふう、これマジできっついわ…]
誰もいない中で自分を応援するように俺はつぶやく。
まだまだ体が弱い俺はもう全身の筋肉という筋肉が悲鳴を上げてるように震えて普通に酸欠で死にそうになっている。
もう限界なため、爪の間に引っかかった火魔石を口に含み、その辺のボロボロの木屑の山で横たわる。
ま、マジでやばかったぁ…。
普通に死ぬかと思った、深い事なんて全く考えてなかったけど実際に適当直進とか頭おかしいよなぁ…。
背中を見ると少しだけ切り取られた場所が冷たくジンジンと痛んでいて、跡を見ると血は出ていないが、鱗が刺し後と一緒に奥へ刺さっていた。
俺防御力低すぎだろ…、鱗が全然役に立ってねぇじゃねぇか。
でも、とりあえずは意外となんとかなったことにホッと一息をつく。
俺を見失ったあいつらはずっと城壁塔で守りを固めているだろう。
あそこから通ることは流石にもうしたくはないな…。
アルゲンはいつ帰ってくるのだろうか、今時隣町とかにでも行って偵察してんのかねぇ。
路地なら人は通らないだろうし、時間があるから少しの間だけ仮眠するかぁ…。
黒ローブと戦い始めてからもうかなりぼーっとしている、頭が回っていないような感じがして気持ち悪い。
寝て起きたら体力ぐらい回復してるでしょ、知らんけど。
俺は身体を完全に丸めて眠る体制になる。
それからゆっくりと目を閉じて眠ろうとした時。
[*****~?]
やつの声が聞こえた。
声に気付いた時にはもう遅く、顔を上げた瞬間には強烈な衝撃が全身に伝わってくる。
[あが…ぅ…]
[************?******]
ラトが俺を嘲笑うかのようにフフフと笑ってくる。
どうやら上から降ってきて足で踏まれてしまったようだった。
なんとか脱出しようともがこうとするも体の身動きが取れない、疲れで頭が上手く回らない。
[うううぅぅ…]
[*****?*******?*******~♪]
なんとか首を持ち上げるが、この黒ローブ野郎を睨みつけることしか出来ない。
俺の苦しむ様子を見てラトは楽しそうに笑っている。
なんでおれがこんなめにあわなきゃいけないんだよ。
こんな事なら外になんてでなければ良かったんだ。
このくそげーがよぉ…俺は不思議な力以外で一向に強くなんてなれないし、こんな苦しみを味わうなんて聞いていない。
神様とかに会ったらこんな世界にしたのを絶対に許さない。
[はやく、はやく助けてくれよ…。あるげん、アルゲンも一体何をしているだよ…!]
ラトは何かを言っている俺の声が聞こえない事に少し残念そうにしていた。
ローブの隙間から赤い魔石を取り出して紐を使って俺の首元へと括り付けてくる。
そして一息ついて短刀を取り出して片手で地面に押し付けられると俺の首元へと切っ先を向ける。
[う…いい嫌だ!離せよぉ!くそが!]
必死にもがいて踏まれた足から逃れようとするが、ラトの足の圧力もさらに強まる。
何も出来ない、怖い…死にたくない…!
なんでもいいからはやく、誰か早く来てくれよ…。
「**********?」
ラトは俺の怯えた様子を笑っている。
こいつ…
もういい
どうせ死ぬくらいならコイツだけでも不幸にしてやる
さっきまでの恐怖が全て消えるかのように深く考えることのない頭の中で憎悪が膨れ上がっていく。
ラトは終わりと言うように緑色の歪な短剣を首元へと強く振り下ろす。
俺は口の中にある火魔石を取り出して、衝動に駆られるままに噛み砕いた。
しかし、口内で粉々になった火魔石は何かが起こることも無かっ




