三十八 戦えるはずがないんだが
強く地を蹴って近づいてくるラト。
その動きは言うほど早くは無く、俺の目でも簡単に捉えることが出来た。
[猪原降りるぞ!]
猪原に声を掛けると同時に俺一人で助走を付けて螺旋階段からとび降りる。そして思いっきり背中の翼をバタつかせる。
俺は勢いを付けて跳んでしまったので中間辺りの階段に落ちてしまう。
[痛ってて…]
何とか四本足で着地することが出来たけど普通に衝撃がやべぇんだが…。猪原は大丈夫か?
上の方を向くと既にラトがこちらへ飛び降りて近づいて来るのが見えた。
[なんで俺なんだよ!くそ…]
「***********?」
俺より少し下に綺麗に着地すると、すぐに階段を駆け上がってくる。
俺も何とか逃げようと全速力で螺旋階段を登っていく。
だが、奴の近づいてくる速度は尋常ではなかった。
少し振り向くともう真後ろに迫ってきていたラト。
は、早くねぇ!?ちょっと無理なんだけど!
すぐ後ろから刃が迫ってくる。
その攻撃を何とか見て右に避けるが、休みなくもう一度攻撃はやってくる。
俺は迷わずラトの懐へと回って足元へ突っ込む。
短剣が俺の尻尾を掠めたが、全身を使って足元にぶつかった。
い、意外と敵の動きを見切れてる!よくやってるぞ俺!
しかし、全体重をぶつけてもビクともしなかった。
[嘘だろぉ!?]
驚いている暇なんてない、すぐに離れなければ…。
俺は振りかざされる短剣を避けつつ、反対側の階段へ飛び移るようもう一度階段を飛び降りた。
あいつ、動きは遅いけどめちゃくちゃ防御力高ぇじゃねぇかよ。ローブの裏に甲冑でも着てんのか?
とりあえずは魔石だ、魔石を使わねぇと…相手が近すぎたら絶対に俺も巻き込まれてしまうから距離を離さなければいけない。
二度目の着地はさっきよりも高い所から落ちなかった為、何とか降りる事が出来た。
[リエルさん!こっちです!]
ラトの方を振り向こうとすると上から猪原の声が聞こえた。
猪原は既に1番上へと戻っていたようだった。
あいつどうやって戻ってったん!?
いや、普通に猪原は階段からゆっくり降りてたな…。
[いやこっちって言われても行くの無理なんだが!?]
[あ、すいません…私の場所を知らせたくて言っただけです…]
あ、そう。
先程飛び降りた所を見あげる
ラトは俺の方へ跳んで来ず、短剣をクルクル回しながら俺の事を見下ろしている。
こいつ…来ねぇのかよ。
もう一度来てくれたら足元に火魔石を当ててやろうと思ってたけど、あんな風に待機されるとどうしようもできない。
「************、********?」
[なんて言っているかはわかんねぇけど、絶対おちょくってんだろ…]
互いに動かないまま、少しづつ時間が過ぎて行く。
俺は体力の回復に専念しているが、何故かずっと息を切らしてしまっていてまだ回復することは無さそうだ。
猪原も動かない俺達の様子を見て不安そうにしている。
[リエルさん、どうにか登れないんですか?]
[ド真ん中でキャンプされているせいで絶対に動けねえよ、俺がスターでも持ってれば良かったんだけどな]
なんか近くにハテナブロックでもないのかねぇ。
この城壁塔には窓が2つしかない。ラトのそばにある物と、1番上の絶対に行けない所の2つだ。猪原も俺を助ける道がないか見渡しているようだが、ジャンプで上へと戻ることは高さ的に無理だ。
もし、今から俺が近づいたとしてどういう行動を取るかは分からないが、俺があの地点を抜けるまで動く気はないように思える。
俺の持つ火魔石はどのタイミングで使うべきか…最初のタイミングを逃しちゃったし、今から出しても普通に手とかでキャッチされそうだよなぁ。
…いや、なんなら今帰るのは諦めて街に戻るのも手だな。
もしかしたらアルゲンに連れてって貰えるかもしれないし、今ここにいる敵はこいつしかいないよな。
俺も俺であいつの攻撃を次に回避出来る気がしない、もう今日だけで疲れが溜まって来ているんだろう。
そういうことだし、とりあえず降りるか。
俺は猪原に大声で伝える。
[猪原!お前は先に城へ帰っててくれ!俺はこいつに邪魔されて登れなさそうだし、アルゲンが城へ戻ってきたら最初の別れた所にいるとだけ伝えてくれ!]
猪原はとても心配そうにしていたが、こくりと頷いた。
[分かりました…先に待っていますね!]
猪原はすぐに身を翻して城壁塔の出口へ向かって行くのが見えた。
さてと、とりま俺もおりますかね。
俺が動いたらあいつも動く可能性があるし、警戒しとかないと。
螺旋階段の縁に立ち、そのまま一番下へと飛び下りる。
上を見るが、あいつは来ない様子だった。
「***********、*************?」
階段の縁から顔を覗かせるラトが煽るように何かを言ってくる。
残念ながら俺にもアルゲンという最強の仲間がいるんでね!残念だったな!フハハハ!
俺は余裕の顔で城壁塔の入った入口の外へと出る。
だが、その余裕は一瞬で消え去ってしまった。
外には既に、10数人程の兵士が城壁塔の入口周辺を囲んでいた。
バサリと城壁塔の中から人が飛び降りた音も聞こえた。
「**、***************」
[あはは……は…まじかよ…]
奴がなんと言っているかは分からないが、少なくともはめられたということだけは分かった。
最初からこの城からでなければ良かった……




