三十七 城壁塔へ
俺達は城に向かって10分程歩いていると、ようやく壁まで辿り着くことができた。
相変わらず全ての通る路地に粗大ゴミが色々捨てられていたが。まだお宝がないから探してみたが、火魔石以外はひとつも見つかりはしなかった。
火魔石の運び方については手で持つことは出来ないため、口の中に含んでいる。
中程度の衝撃って言うのがどれくらいかは分からないしなぁ…この前の爆弾袋のやつも瞬間的に爆発したんじゃなくて、投げてからすぐ爆発してたからあんまりわかんないんだよな。
流石にないだろうと思うけど、口の中で急に燃え出したら俺絶対死んでまうわ。
[っていうか、これ俺達この壁どうやって登るの…?]
下から見上げる灰色一色の壁は相変わらずめちゃくちゃ高く感じる。
壁には何一つ足場なんてものはなく、前足の爪で何とか引っ掛けてのぼろうと思ったが、まず硬すぎて爪が引っ掛かりすらしない。
近場の粗大ゴミでも積んで登ってくか?普通にバレるか。
[仕方ないので外周をまわって入口を探しましょう]
[そうだな]
屋根の上には兵士がいる可能性があるからあまり登りたくはないし、人の目を避けながら行くか。
俺達は壁を左から回っていく。
城付近の路地は上を見ると建物のベランダから城の壁まで伸びる紐が多く付けられている。紐には大量の洗濯物や毛布等が沢山掛けられていて、どうやって掛けたかすら分からない物ばっかりだ。
こんだけ入り組んでたら、意外と兵士共にも捕まらなさそうだな。ぴょんぴょん飛べばいいだけだし。
まぁ俺は無理だが。
[アルゲンさんは今、何をしているんでしょうか]
[ん?森を飛んだ先とかにでも行ってんじゃないか?]
[いくら空を飛べるとはいえ、外の世界にはまだ空を飛ぶ魔物も沢山いると思うんですよね、出会ってなければいいのですが…]
猪原が前のように心配そうに話している。
…別に大丈夫だと思うけどなぁー。よく出てくる仲間でそんな序盤で死ぬとかあんまりない気がするんだが。物語とかだったらな?
猪原はアルゲンとめちゃくちゃ仲良しだし、俺達の霊獣の中で死者も出ているからこの世界を現実的に見ているんだろうな。
[心配するのは俺達の方だとは思うけどな…少し前までやばかったんだし]
俺の言葉に猪原はハッとしたよに不安そうな顔を浮かべる。
こいつ…自分の心配じゃなくて他人の心配しかしてないのかよ。
[た、確かにそうですよね…。まだ何かがあるかもしれませんし見られていないか注意しないと行けませんね]
[あぁ、猪原がいないと俺一人じゃ何も出来ないんだからな]
[…そうですね]
猪原はまだ思うところがあるように見える。
黒狼に出会ってから、猪原は少しづつ変わっている気がする。
あんまり明るい感じじゃないというか、俺からしたらずっと引きづっている感じがするよな。
黒狼はなんだかんだ言葉を話していたし、俺達と同様日本人で猪原の監視下に置かれている人だったのかも。
…まぁ俺が強くなるまでは二度と会いたくないな。
[お、あれじゃね?]
壁に沿って歩き続けると、ようやく城壁塔の登る入口を奥に見つけることが出来た。
城壁塔のある所は街の大通りと繋がっていたが、幸いにも人は誰も居ない様子だった。
[この城壁の側防塔、全くなかったですね…]
[どうせまた外に出るし、ちゃんとここは覚えとかないとな]
俺達はもう一度周辺を見回して、誰もいないことを確認した所で城壁塔の入口の中へと入る。
中はかなり縦に広く、1番上まで螺旋状に階段が壁に沿って設置されている。
とりあえずは螺旋状の階段を1段1段登っていく。
[この中でもまたまた静かだなぁ…]
[途中から物音がひとつもしてなかったですね、私達しかこの辺りにはいないのかもしれません]
この辺りには誰も居ないってまじでどういう事やねん。
家も沢山あって人もちゃんと生活されている雰囲気なのに、いろいろとおかしすぎるよなぁ。
青髪に聞けばわかるし、考えても仕方ないことではあるけどどうしても腑に落ちないというか。
…俺も引きづり症移っちゃったかな。
考えながら歩いていると1番上に着く少し手前で出口のそばで壁に座っている人間がいた。
[…誰でしょうか?]
[さぁな]
その人間はこの前の黒男のような真っ黒のローブを羽織っており、首飾りに真紅のプレートを下げている。どう見ても兵士共と同じ紅明教の一人だろう。
奴は座りつつも右手に緑色で歪な形をした短剣を持ってそれを上げながらじっと見つめていた。
前の黒男と同一人物と思いたかったが、目つきや体格からして全然違う人物のようだ。
「あなた達がここに来るまでずっと待っていましたよ」
彼は俺と猪原の存在に気づいていたらしく、若いが少し低い声でこちらへ話しかけてくる。
あ、これ絶対戦うやつやん…。しかも多分ボス戦や。
一難去ってまた一難ってのはめちゃくちゃ厄介なことだな!くそ
[はぁ、安全だと思ったのにまだやらないと行けないのか…]
[どうしますか?]
俺はこちらの反応を待つ黒ローブの男を見ながら考える。
あいつの様子を見る限り、直ぐに襲ってくることはなさそうだよな。
座ったままこちらを見るだけで立ち上がってもないし、今から1番下まで飛び降りれば逃げられそう。
あ、とりあえず先に【観察】で強さを見とくか。
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<ラト>
総合戦闘能力:481
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は、はぇええええ強すぎるんですけど!?
明らかに絶対勝てない相手じゃねぇか、敵のパワーバランスどうなってんだよぉ!
下に降りてもなんか無理な気がするなぁ。相手が動く素振りをしたらすぐに火魔石を使おう。
[あ〜まぁ、とりあえず何とか戦闘を避けるために対話してくれ]
[あ……はい分かりました…]
「何か話しているようですが…私に返事は無いのですか?」
[…申し訳ございません、少し話し合っていました]
いやおい、そんなん言ったら警戒されるに決まってるやろ。
「それは…私と戦うことを避ける作戦を立てる為ですね」
[い、いえ!そうではなくてですね、えっと……]
猪原は何故か明らかに動揺していた、戦闘を避けるために返す言葉が思いつかないのか、こちらへ助けを求めるように見てくる。
ど、どしたん急に…
えーっと、まあ普通に無理だと思うし、ギリギリまで黒ローブのラトってやつに一つでも話を聞くべきだな。
[なんか無理そうだし、直球で俺達を襲う理由を聞けば?]
猪原は心配そうな顔をしつつもこくこくと頷いた。
[…少し聞きたい事があって、えっと、私達霊獣をここまでして殺そうとするのはどうしてなのですか?]
ラトはふむ…と思うように指を顎に当てる。
「そうですね…、あなた方は我々の宗教をご存知でしょうか?」
[はい、紅明教と呼ぶものですね。教徒は誰しもが原生の魔物の昇華を敬愛する人々と聞きました。]
え、そんな言っていいのか?情報漏洩の確認とかされてそうな気もしなくないんだが…。
ラトは座りながらも両手を大きく広げ、紅明教の信徒であることを声を大きくして自慢げに言う。
その口角は奇妙な程に上がり、口を開けて笑っている。
「そうです。私は紅明教の信徒であり、魔物を愛す者なのです!」
[まぁ…これは狂信者ってやつだな]
急な豹変っぷりにびっくりしてしまう猪原に落ち着くよう声を掛ける。
ラトは話す。
[あなた方を殺すべき理由は2つあります。まず、あなた方は自身の事を魔物と思っているように見えますがそうではありません…
魔物というのは体そのものが物質を持つ魔力で形成されている者の事を言います。魔物は魔力を完全に失う際、塵となって世界の糧となってくれるのです。それ以外は…野生動物の虫ケラのようなものですよ。]
へぇ〜…魔物ってそういう感じなんだ…。
確かに、ゲームとかで敵を倒すと黒い塵となって消えてしまうのが普通だったけど…なんかだいぶすんごい事教えてくれたなぁこいつ。そんなスラスラ話してもらってもいいのか?
あ、でも勇者によって召喚された霊獣は魔力を使ってこの形が出来てるし、普通に俺達も魔物なんじゃ…?
[それなら、勇者の魔力によって召喚された私達も魔物に分類されまるんじゃないですか?]
ラトは猪原の質問に違うと言うように首を横に振る。
「そこだけ聞くと同じように見えますが、残念ながらあなた方は魔物ではなく『霊獣』という物に分類されているのですよ。それにしても…霊獣の数が減っていましたが以前の襲撃で、仲間の遺体が残っているのを確認していませんでしたか?」
[あ]
[それは…]
あの黒蜥蜴か…。
こいつは俺達の事を煽ってんのか?わざと怒らせて、圧倒的な力の差で絶望に落とすとか、考えてんのかねぇ。クソが。
[一つ目はこんなところですが分かりましたか?]
ラトの方を見るとあいつは目を逸らした隙に既に立ち上がっていた。
「そして、二つ目は…」
右手に持っている短剣をクルクルと手の中で遊ばせ、逆手でグッと握り締めると言い放つ。
[我が主、ケセド様が気に入らないと仰っていました]
俺は魔物について考えすぎて、奴が動いた瞬間逃げる事を忘れていた。




