三十五 コピペの街
俺たちは小山程の大きさのあるオレンジ一色で統一された屋根の上を渡って行く。
屋根の下をほんの少しだけ覗くと、ラノベでよく見かけるような街の住民がちらほらと歩いている。
ファンタジーの大通りにしては少し変な中華風の街灯がいくつも建てられていて、日中の間でも光り続けている。
建物の形はだいたいほとんど同じだが、それぞれの壁や入口に看板がほとんど建てられていて、建物の窓の奥を見ようとしても何も分からない。
看板にはなんて書いてあるかわかんないし、どうやら人の言葉が分かる猪原も読むことは出来ないみたいだ。
[アルゲンさんの言ってたように本当に私たちのことについて誰も話していませんね]
[勇者のいる町にしては活気があんまりないよなぁ]
街中に居る人々は勇者の事を話すどころか話している人自体がほとんど見当たらない。
この街、あまりにも活気が無さすぎやしないかねぇ。
住民同士の挨拶一つもしていないし、アルゲンの言ってた世間話もどこから仕入れてきたのやら。
街の詳しい情報を手に入れるのは大変難しそうだな、アルゲンが遅くなった理由はこれもあるだろうし、俺達も長期戦になってしまいそうだ。
[あ、リエルさん!あの高い建物に行きませんか?]
情報を何も得ることが出来ず不安に思っていると猪原が前足で左側にあるとある建物を指す。
うわ、何あの明らかに弓兵が打てそうなタワーは。
どこぞのクラッシュオブなんちゃらに出てきそうな見た目をしている。ああいうのは確か物見櫓って言うんだっけ。わかんないけど。
俺達はいつの間にか城の城壁からかなり離れて街の外と城の間辺りまで進んでいたようだ。
まだ10分くらいしか歩いてないと思ったけど、意外とこの街って狭いのか?
自分の体が人間の時よりかなり小さいため、正直めちゃくちゃ距離感覚が狂ってる気がする。
屋根の上だから人がちっさく見えるけど、実際ドラゴンの俺の6,5倍位の大きさだからな。
でもまあ、20位の屋根を伝って行ってるからやっぱり街は広いだろうな。俺らが早いだけだ。
[あそこからなら街中の全てが見渡せそうだ、なんか人もいなさそうだしちょっと行ってみるか]
俺達は高い物見櫓に到着したが、どうやらめちゃくちゃ高そうだ。屋根から10mくらい伸びてあるんじゃないか?
登る階段的な物も家の中から伸びていて、建物を一周しても屋根から貫通して建てられているせいで簡単に上がることは難しそうだ。
木の板で支えられている部分があるから少しづつよじ登っていけば俺一人でも登れなくはないかな…?
[じゃあ猪原、俺を乗せて登ってくれ]
[はい、どうぞ]
俺の助けを求める言葉に猪原は分かっていたかのように背を低くして待っている。
俺は前のように猪原の背にしがみつく。
なんか相変わらず助けて貰っているけど、そろそろ自分で何とかしろとか言われ始めそうで怖いなぁ。
最近猪原の俺に対する対応が少し適当か感じするし…。
猪原は軽く助走をつけると、ひょいひょいと木の板を伝って登っていく。
ねずみ返しもなく、あっという間に1番上まで到着した。
ねぇ〜、流石に身体能力バケモンすぎやしないか?
俺だって既に総合戦闘能力が40超えてんのに1mの壁登る事ぐらいが精一杯なんだぜ?
[誰も上に居なくて良かったです]
[こんな所に来る人もこの街の雰囲気的にいなさそうだよな]
[そうですね]
1番上に登ったところで見えていなかった人がいるかもしれないと思ったが、全然大丈夫だったようだな。
落下防止用の木の柵に乗って街中を見渡す。
街から先の 遠くの森までまで軽く見渡せたけど、やはりどこも人が多いところなんて見当たらないし、ここ以外の高い建造物は勇者達のいる城以外無さそうだ。
アルゲンがどこか飛んでいないか探してもいるが、既に結構離れているのか姿は見つからない。
[ここから見ると不気味に思えるな]
[目を閉じればまるで人のいない街にも思えますね]
目を閉じたら街すら見えねぇだろ。
それにしても最初情報がないとか言ってたけど、この人が少なくて活気がない事自体が大事なことな気がするな。
こういう系の街は王が全てを支配してるいるとか、法がとても厳しいとかの話が当てはまりやすい。
街に大量の兵士を送り込んだりしているし、街の住民が脅迫とかされてんのかねぇ。
いや、でも30人位しか兵士がいないって言ってたし、この広い街全体に行き渡らせることは無理だよな。
なんなら俺達も出会う心配もほとんどない気がしなくも無い。
俺と猪原は少しの間、黙ってこの街を見回す。
[ここから見下ろしていても普通に何も起こらなそうだな…そろそろ降りない?]
流石に同じ風景を見すぎて飽きてもうた。
既に1時間は経っている気がするし、そろそろ下へ降りようかね。
俺はそう思って物見櫓の反対側の木の柵で見回している猪原を見る。
[もう何も無さそうだし、そろそろ下に降り…]
猪原に声を掛けている途中、誰も登って来ていなかった階段から銀色の軽装備を付けた兵士が音もなく登ってきていた。
俺と兵士の目が合った瞬間、兵士は目を大きく見開いて直ぐにドカドカと慌てるように階段を降り出した。
[リエルさん、どうかしましたか?]
俺の止まった声に気づいて振り向く猪原は階段の音に気づいていなかったようだ。不思議そうに首を傾げて?マークを浮かべている。
あの兵士が直ぐに逃げたのは、仲間を呼びに行くためだろう。
この物見櫓は建物の中からしか登れない、あの兵士がそこから登ってきたって事は…下の建物は外の兵士が沢山いる可能性が高い。
………とりあえず、急いで城に戻るしかないな。
[猪原!急いで城に戻るから俺を乗せてくれ!]
[えぇ、なんでですか!?]
[いいからさっさと帰るぞ!]
俺はなにか言わせる前に猪原にぴょんと乗る。
猪原は渋々ながらも、直ぐに物見櫓の1番上から屋根へと飛び降りてくれた。




