三十 後始末の終わり
最初に乗っていた馬車へと戻ってきた俺達。
馬車の上には白竜が座って空を見ていた。
[あ!おい白竜!何してたん?]
あいつめ、いつの間にかいなくなりやがって。なにかあるかもしれないからせめて近くにいろよなぁ…
[む、ようやく戻ってきたようだな]
[はぃ?]
白竜がこちらに気づいて俺の方を向く。
あ、ちょっと何?もしかしてまた試した的なこと言う感じか?
白竜の言葉を待っていると、神島が直ぐに指示をする。
「馬車の中に落ちてる木屑を全部外に出しててくれないかな?アルゲン、君は僕と一緒に来て」
[あ、おう]
[わかった〜!]
神島の言葉にみんなが頷く。それを確認した神島はアルゲンを肩に乗せて倒れている勇者達の元へ急いで向かう。
白竜の方をもう一度見る。
[今の聞こえてたか?]
[あぁ、もちろんだ]
そう言って白竜はゆっくりと立ち上がる。
時間はないので白竜が降りてくるのを待たずにカーテンが半分外れているところから中へ入る。
[うわ]
[時間かかりそうですね…]
馬車の中は思ったよりも木屑だらけだった。
こ、こんな散らばってたんか…。
[じゃあ、奥からやってくか]
[急ぎましょう]
奥に行こうとすると、白竜が後ろから止めてくる。
[その必要はない]
え、何?またなんかあんの?もう満足なんだけど。
俺はここに来てずっと変な白竜を睨む。
白竜は正面を向くと、初めから動かせていたと言うように翼を一度大きくバサリと動かす。
瞬間、突風が馬車の外向きに吹き、大量の木屑がめちゃくちゃ宙を舞う。そして俺達の真上から木屑が外へと次々飛び出して行く。
[は、はぁ?]
そんな事出来たのかよ!?どうやってやったの?
ていうかなんで何気なく動かせてんだよ翼をよぉ!この前聞いた時よく分からん顔してた癖に。
[す、凄いですね…]
[うぐぐ…]
流石に凄いとしか言いようがないけど、出番奪い取ったみたいでハラタツな。
最後の木屑が外へと出ていった所で馬車の中には汚れが一切無くなってしまった。
[これで終わりだ]
[い、一体どうやってそんな風を出したんだ?]
苦し紛れに風を起こす方法を聞いてみる。
[これは我の特殊技能、【風積】の能力だ。まだ多くは使えないが自在に風を操ることが出来る]
はぁ?何それ、何それよ。強くね?
え、ってことは前のラーファウルを倒した時も…風を収縮してから斬撃として飛ばしたってこと?
つっっっっっよ
「馬車の中は片付いたのか?」
呆気にとられていると、高濱がいつの間にか勇者を肩に担いでこちらへ来ていた。後ろでアルゲンが勇者の服を脚で掴んでバサリバサリと運んでいるのも見える。
あ、とりあえずは勇者を中に入れるのを優先しないとな…。
俺達は頷くと、高濱がさっさと担いだ勇者を中に入れる。
「みんなで奥に持っていってくれ、よろしく頼んだ」
そして直ぐに離れていって予めアルゲンが置いていった勇者をまた担ぎ始める。
[え、いやいや無理でしょ…]
[分かりました!]
[ああ]
えぇ、勇者と俺達は大きさが違いすぎて運ぶの不可能でしょ…
猪原は頭、白竜は横向きで翼の付け根辺りを使って勇者を押しこむ。
倒れた勇者はいとも簡単に猪原と白竜が奥まで運ばれていった。
あの2匹どんだけ力持ちなん、俺要らないじゃん…。
俺が入っても何も出来なさそうなので、終わるまで馬車の外に出ることにする。
さてと、じゃあちょっとまだやり残したことをやるか。
そう思い、黒狼との戦いで死んでしまった重装備の兵士の残骸のそばへと着く。
この兵士は首を飛ばされて死んだ物だ。断面はグロいので見ないことにする。
ここまで来て気になることと言えば、やはり持ち物だろう。
勇者達を攻撃して死に追いやろうとした奴らだ。きっとなにか重要な物があるはずだ。
とりあえずゴソゴソと腰あたりの鎧の隙間に爪を入れてみる。が、特にポケット的なものは無さそうにも見える。
全身を守るためのものなんだからそうだよなぁ。
諦めて死体の周りをぐるりと回りながら物色できない物がないか探す。
すると首元からあるものが外れているのを見つけた。
[…ネックレス?いや、違うか?なんだこれ]
首の無い所から外れて地面に落ちているそれは血の着いたネックレスのような物だが、飾りが少し変な感じがした。
淡く光る真紅の色をした長方形のプレートのような物で、これを見ているとなんだかぞわりと背筋が凍るような背徳感が俺を襲ってくるようだった。
気持ち悪くなって直ぐに目を離す。
…な、何がなんだかんからんけど、直ぐに離れた方が良さそうだな…。
___________
倒れた勇者13人を中に乗せるのは5分程度で終わった。
この圧倒的な速度は神島が最初に倒れた勇者達の所で1人を持ち上げて飛んでいるアルゲンに持たせる。俺達の近くの所で勇者を高濱がキャッチすると直ぐに馬車の中へ入れて、二匹がすぐさま奥へ持っていく、の繰り返し。
ていうかいつまで泉は寝てんだよアホ。
お前がいたらもうちょっと早く終わりそうなのに。
神島とアルゲンもこちらへ戻ってきた後、馬車の上にいるアルゲン以外はみんな中に入る。
元は8人用くらいの広さなので、倒れた勇者は全員地べたに置いて俺達は座る所に乗っている。
「それじゃあアルゲンお願い!」
[りょ〜かい!]
神島の合図と共にこの馬車が浮き始める。
[す、すっげぇ〜]
[アルゲンさんはやっぱりとても力持ちですね]
俺と猪原がだんだんと離れていく地面を見ながら驚く。
高濱と神島は疲れたのか、直ぐに壁にもたれかかって眠ってしむった。白竜も同じくだ。
それで、ちょっともう遅いと思うけど神島が帰るために思いついた案というのは、アルゲンのなんでも持ち上げられる特殊技能を使って全員を乗せた1つの馬車を運ぶという作戦だった。
正直、無理だと思ってたけどまさか行けるとは思わなかったよ…
こんなに人数オーバーで下が重みで崩れないかっていう問題はこの馬車の構造で何とかなっているようで、この木の素材自体が異常に固くて重い木なのだ。
馬車からずり落ちてしまうっていう事故も白竜の特殊技能で全て抑えてくれてて、凄い速度で飛んでいるのにも関わらず中には風一つ入って来なかった。
意外と条件ってのは揃っているものなんだなぁ。
俺が迷いすぎて事後が本編みたいな長さになってたけどさ。なんかみんなごめんね?いらん事ばっかやってて。
[…]
[どうした?猪原]
外を不満のような顔つきで眺める猪原に話しかける。
[いえ、なんでもありません]
猪原はそう言ってそっぽを向いてしまう。
うわっ、めちゃ気になるやつやん…。
でも、追求をしても気分を悪くされそうに思えたので、俺は猪原を見ずに黙って飛行機のように進んでいく外の荒野を眺め続けた。
しばらく経った所で、ようやく森が見え始めて、あっという間に城の広場の真上へと到着した。
馬車はゆっくり下降して、広場の中心へ降り立つ。
「**、*********!」
外には既に少数の兵士達が武器を持って構えていたが、勇者だと気づくと直ぐに武器を下ろし、こちらへと近づいてくる。
「すいません!すぐにみんなを助けてください!」
神島が兵士に言うと、彼らが倒れた勇者の姿を見てギョッとする。
いつの間にか黒い火傷のような跡はかなり広くなっていて、腕全体が黒くなっている勇者もいれば、髪の毛が散り散りに焦げている勇者もいる。
急がないとそろそろヤバそうだ。
兵士達が持ってきた担架に1人づつ運んでいく。
その様子を見て俺はようやくほっと一息をついた。
[ようやく終わりましたね…]
[めちゃくちゃ後始末が大変だったぞ…]
でもまあ、一応はこれで全部終わったんだな。
[あ]
ふと広場の入口を見ると見覚えのある男がいることに気づいた。
そいつは前のように寄りかかり、腕を組みながら馬車を睨んでいるようにも見えた。
そういえば、あのかなり強い兵士長のような奴が一緒に来ると思っていたけど、結局来てなかったな…
確かラゼンとか言ってたっけ。
あいつ、少し怪しいな…
ラゼンは俺と完全に目があったことに気づくと、直ぐにその場から離れて広場を出ていってしまった。




