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二十八 怖いんですが…


2つ程の小山を進み、高濱がいる場所の近くへ着く。

猪原と白竜も既に集まっていて、俺が最後だったようだ。


「神島、これを見てくれ…」


高濱が震えながらそう言って下を指さす。

神島がそれに反応して近づき、驚愕する。

「…これは」

なんだ?また何か別のものを見つけたりとかした?

離れて見えない俺達霊獣も高濱の所へ歩いて近寄る。


そして、下の木々の破片の隙間を覗くと黒い何かが見えた。

高濱が俺達にも見せやすいようにと木々を掻き分ける。すると何かの正体が現れる。


[…っ!]

[ふむ]


猪原は息を呑むようにして驚いたが、白竜はあまり驚いていなさそうだった。

[そういうことか…]

黒い何かは俺達の仲間、かつて霊獣だった物だ。


ただひたすらに黒く変色した体は、今にも灰のように散り散りとしていて、本来の蜥蜴だった形もほとんど失われていた。


[勇者が無事だった事については分かりましたが、これは本当に酷いと思います…]

[そうだな]


正直、先程の事のせいかは分からないが、あまり悲しいとは思わなかった。

こいつの名前なんて全く知らない、青蜥蜴だったことしか覚えていない。霊獣との関わりなんて積極的な猪原と何故かたまにそばにいる白竜くらいしかない。


でも、この青蜥蜴だって、白竜に劣らずとても強い霊獣だった事は知っている。

こいつは爆発の影響を受けた勇者全員の受けたダメージを、全て肩代わりしたのだろう。


気絶している勇者達にはやけど跡がなく、切り傷しかなかったので、仲間の受けた熱を受けるような技能を持っていたのかもしれない。これだけの熱を受けながらも、勇者が安全と言えるまで彼は生き続けていたのかな…。


[私達はこの先生きていけるのでしょうか…]

[分からない…]


自分ではない身内の誰かが死ぬ。

それが地球で起こったことならば、きっと俺は何も思わなかっただろう。


この世界は地球とは違う。どれだけ注意し逃げおおせたとしても、絶対に読むことの出来ない死がやってくる。

少なくとも俺の知識では、物語の中でまだ少ししか経っていないのに登場人物が呆気なく死んでしまうというのは、今後も俺達の誰かが次々と死んでいくという内容の進み方というのが必ずだ。


そのうち俺もこいつと同じように出しゃばって退場してしまう可能性がある。


[怖いなぁ…]

誰にも聞こえないような小さな声で俺は見ているはずもない神へと告げる。



[これは我々も受け止める事が必要な事だ]


白竜が俺に向かって急に話してきた。俺とその声を聞いた猪原は白竜へと目を向ける。

[我らは不死では無いのだ、勇者を守る役目を果たして宵へと帰ったのは、やつにとっても本望だったであろう]


[宵へと帰るって…なんだよその言い回し…]


口だけで、こいつの暗がりのような表情を見せない所にはイラつきはするが、これもさっきのも、全てこいつが正しいだろう。

勇者を守る霊獣だから。


白竜が俺の様子を見て、フンと鼻を鳴らしてどこかへ行ってしまった。


「…とりあえず、埋めてあげようか」

「あぁ」

神島がそう言って死体を両手で抱え込んで、みんなで残骸が散らばっていない少し離れた所へ向かった。






――――――神島がまだあまり焼けていなかった木の板を地に刺す。

木の板の中心には青蜥蜴の名前が剣で刻んだように書かれている。


板のそばに少し膨らんだ土山、2人と2匹がそれをじっと静かに見つめる時間は、黒狼の戦いよりも長く感じた。





静かに墓を見つめていると、遠くから声が近づいて来るように聞こえた。

[お〜い!大丈夫か〜?]


若々しく、陽気に聞こえてくるその声。

後ろの空を見るとバサリバサリと近づいて来るのは正しく置いていかれた恐竜、アルゲンで間違いなかった。


[アルゲンさん!]

[アルゲンか…]


あっという間にこちらの元までやってきて地面に降りたアルゲンは俺達の様子を見て?を浮かべる。


[どうしたの〜?なんかあったの〜?]

[えっと…]


アルゲンになんと言おうか猪原が迷っているので、俺から話す。

[青蜥蜴が死んだ…]


アルゲンはわぁ、と驚いたように口を開ける。

[へ〜、甲牙(こうが)の最後はどんな感じだった〜?]

でも、こいつは青蜥蜴の死を悲しむような素振りは見えなかった。


[…勇者を最後まで守りきったよ]


ふ〜んとでも言うかのように神島達が見つめる墓を観察する。


[凄いな〜、俺も甲牙のように勇者様を守れるように頑張らないと]


さすがにその様子を見て耐えられなくなった俺はアルゲンに問う。


[甲牙が死んだのにお前は悲しくないのかよ…]

[え〜、勇者様を守って死ねたのに〜どうして悲しいとか思うの?]

[あぁ、そうかよ]


…霊獣は元普通の大学生達に勝手に呼び出された普通の生物ではなかった。

その場で生まれて勇者の奴隷として勇者を守ることに喜びを覚える傀儡、死を悲しむなんてことは絶対にない。勇者だけをずっとみているから。

隣にいる猪原も何も言えない表情で俯いている。


こいつは俺が初めて会う前に知らない所であの黒狼との接触をしていた。そのことについて隠しているし、黒狼とは不思議な縁がありそうな気がする。

もしかしたら猪原もそうなのだろうか。








…いやいや、待て待て!そんな陰気になるなよ俺!

さっきからずっとおかしい。こんなこと延々と引き伸ばして考えるタチではなかったろ。

ていうか、猪原は普通に霊獣達とも親しいし、さっき悲しむような顔してたじゃん!

気を取り直せ俺!今考えたってどうにもならん!俺は主人公だ!はいおけ!


何とか頭を強くぶん回して軽く首をやってしまったが何とか気を紛らわすことが出来た。2人に変な目で見られたのは気のせいだろう。

首以外の疲れた体も治ってきた所でアルゲンに疑問を話す。

[よし、まぁこれは一旦置いといて、とりあえずお前はなんでここに来れたんだ?]

話題を変えたことで猪原がホッとしたような顔を見せる。

そして猪原は俺の方を少し見た後、俺とアルゲンの元を離れていく。


[え〜とねぇ〜、城の兵士に聞いたんだ。俺が戻ってきた時にみんないなくてびっくりしたよ〜]

[そういうお前も遅すぎたんじゃないか?町中で何してたんだよ?]


アルゲンはそれを聞かれると気まずそうに顔を逸らしてから答える。


[じ、実は住人から聞こうとしたんだけど〜、近づいたら逃げられちゃって…。モンスターだ!って叫ばれた後に気づいたらなんか兵士がいっぱい追いかけてきて大変だったんだよねぇ〜]


おい!俺の不安要素的中してねぇか!?

あーやっぱりこいつに行かせるべきではなかったか…。


[リエルさん、気絶した勇者の様子が変です…]

[え?なによ]


猪原は勇者の様子を見に行ったそうでなんだか焦っている。いやいや、傷なんて何も無かったじゃん。まだ何か変なこと起きるんか。


[勇者様は大丈夫なの〜?]

[とりあえず来てください!]

猪原はそう言ってまた気絶している勇者達の元へ走っていく。

俺とアルゲンもその後を直ぐに追い、勇者達が倒れている場所へ到着する。


彼らには既にまずいことが起きていた。

まだほんの少しだが、切り傷以外何も無かった肌にまばらに黒く焼けたような後があり、小さな煙を発するそれは少しづつひろがっているようにも見える。

未だ気絶している泉はなんの症状も出ていない。


[…遅効性かよ]


青蜥蜴の能力にねんどくさいデメリットがあるとか先に言っといてくれよ…。

[ど、どうしましょうか!]


猪原が何かないかと俺に案をせがんでくる。

う、まじで?


[ちょ、ちょっと待って、てな?うん、考えて見るから…]

そう言って時間を伸ばすがこんな急な状況、俺の知能では何も思いつくはずがない。



うぐぐ、何か思いつけ!何かないの周辺の使えそうだった物とか。

そんなものは何一つ無かった筈だ。でも考えないと。

大丈夫だ、俺ならできる。


何かないかをひたすら考える…勇者を助けるためには、火傷を止める物…。いやない、近くの植物を探したとしてもそんな都合よくあるはずがない。


じゃあ、火傷のダメージを治すもの…は、白魔道士なんてこの場にいるはずもないよな…。

でも念の為、隣にいるアルゲンに聞く。


[アルゲン、お前の特殊技能、普通の技能に勇者を回復させる物とかないか…?]

[な、ないよ〜、持っていたら直ぐに使っているし〜俺は重いものしか持てないよ〜]


アルゲンは焦るように言う。


うぅっわ、じゃあお疲れ様でした。

じゃなくて、本当に何も無いのかよ!

また誰かを失う不安が募る。


あ、いや1つだけあるか…?


[なぁ、猪原]

[なんですか?]

[あの黒狼に言うこと聞かせられる?]


猪原は少し驚いたようだ。

[いえ、彼女に聞いてみないと分かりません…]

[じゃあ行くか]


猪原の黒狼に対して何を思っているかは知らないが、黒狼を使えるなら嬉しい事だ。

少し前の敵は今の味方的な?


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