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二十六 何が起きているかわかんないですけどぉ!

黒狼は一切静止して動かない俺達をじっと見つめてくる。

でも、見つめてくるだけで飛びついて来ることは無い。しかも何故か黒狼に疑問が浮かんでいるようにも感じる。


本当に大丈夫なのか?今にも襲われそうで怖いんだけど!ホラ、今目があったぞ!

誰一人ピクリとも動かないこの雰囲気をぶち壊す訳にもいかないし、今は猪原の言葉を信じるしかねぇー。


黒狼は右、左と何度も首を傾げる。その様子から1つ俺は思う。


これは…動いたヤツを生き物として見る系の敵じゃん!

絶対そうだ、動いてたら生物、動かなかったら無機物。俺たちは猫と遊ぶ道具のボールのような立ち位置だな。

動かなければいずれは奴も興味を失ってどこかへ行くはずだ。


だから動くんじゃないぞ俺!今にも神島の肩から落ちそうだけど!走ったあとのせいかちょっと足が震えてるけども!


少し時間が経つと、こちらの方へ足を運び始めてくる。

一歩一歩近づく事に緊張が走る。

近づきすぎて黒狼の鼻が神島の目と鼻の先にある。

よ、よく微動だにしないな…。


こんな近づかれてたらコイツに睨まれてるようにも見えてくる。勘弁してくれよぉ。

黒狼はようやく興味を失ったのか、首を上げて口をあける。


[キノセイ?]


黒狼から突然、女の声が出てきた。

工エエェェ!!!シャァベッタァァァァァァァ!!!


[…!!!!]


猪原の隠しきれていない驚いた声も少し聞こえてくる。

え、え?うん?喋った?喋りましたか?君。

何とか聞きたい気持ちを我慢しつつ心の中でビビってしまう。

でももしや意外と意思疎通が可能だったりしたり?


既に黒狼は俺達の興味を失い、背を向けて歩き始める。

…いや、今は流石にやめておくべきだ。ここで話してしまったりしたら全てがパアになりそうで怖い。

あいつがどこかへ行ってしまうまで何もしないでおこう。



「うぅ…」



っと、ずっと高濱に抱えられていた泉が目が覚めたようだ。なんか落ち着いている感じがするし大丈夫かな?

で、泉は目を開けた瞬間に自分がわけも分からず恐怖でやられた相手が目線に写ってた。


「うわぁぁぁぁぉぁあぁ!!!」

[バカヤロー!]


泉が叫んだと思ったらまたすぐに事切れた。

おい!やってくれたなオイ!

あ、ヤバい黒狼が振り向いた。

神島と高濱は無理だと理解し、直ぐに納めていた剣を抜き、構える。

いや、流石に受けるとか無理だって!鎧が一瞬にしてスクラップになってたじゃん!


黒狼が俺達を狙った瞬間、消える。

ひゃぁぁぁぁ!!?死ぬ!

俺は死を間際に怖くなり目を閉じて頭を伏せてしまう。こういうのは更に死を呼ぶというのに。


奴が近くを移動した後の突風が全身を伝う。

うわーーーーー!

木々の破片潰れ、地面へ強く擦れるような音が聞こえた。



…?




[…?]


30秒待っても訪れない死。

疑問を浮かべつつ目を開ける。


肩に乗っている俺と神島は普通に平然としていた。

神島の横顔は俺と同じ疑問のような表情。

高濱と泉も部位の欠損なく無事だ。


目の前から消えた黒狼の状態を確認するために、俺は後ろを振り向く。

起き上がって背中を見せる黒狼は少し変だった。


さっきまで気高いような姿勢で、兵士を狩る様は全ての動きがとても美しく見えた。

今は疲れきったようにフラフラとしていて、項垂れてしまっている。


えーっと、どうしましたか…?

何故そうなったのかは知らないけど、今が逃げるチャンスな気がするわ。

とりあえず無事な状態でまた固まってしまった神島の肩からようやく降りる。


地面に着地すると急に足元から猪原の苦しむ声が聞こえた。

[う…]

[え?]


俺はびっくりしてすぐにそこから離れるが、聞き覚えのある声ですぐに声の元を確認する。

声のした下の木の破片の隙間を覗くと白いモフモフがチラリ。

[猪原、ここに埋まってたのか…]

[すいません、さっきまでずっと出ようと思ってたんですが、なかなか出られなくて…]


そう言って猪原の毛がもぞもぞと動こうとする。

見た感じ、絶対に出られなさそうな感じするけど…。


いや、なぜそんな綺麗に全身埋まってんねん!って言いたい。でも今は急ぎ時なのを思い、すぐに木の破片をどかし始める。

破片は思ったよりも固くて重い。俺が下敷きにされていたらと思うと少しゾッとする。



俺が破片を少しづつどかしていていると、隣から大きい両手がやってきて破片を一気に運ぶ。

あ、神島お前、せっかく俺が1人で頑張ってたのに全部掻っ攫いやがった。本人は力になれた事に喜んでいるし…



猪原は軽くなったのを感じたのか、すぐに体を持ち上げ、ボコボコと下から這い上がってきた。

「ヤコ!大丈夫か?」

それにようやく気づいた高濱が泉を下ろして猪原のそばに近づく。

猪原はこくりと頷き無事ということを回って見せてくる。

「良かった…」

高濱がその様子を見てとりあえずは安堵したようだ。


全身に木屑のゴミが多く降り掛かっているだけだろうが、傷はないか少し心配だ。

[怪我はないのか?]

[爆発の影響は受けなかったのですが、その後降り掛かってくる破片に気づきませんでした…]

[はぁ]


そのまま言った通りだろうけど、本当になぜそうなったのやら。

まぁ、無事でなら良かった。死んでしまわれたら大事な翻訳係がいなくなってしまうからな。

俺はそう考えて本当に心配してた気持ちを誤魔化した。


さて、ここから思うことだが、さっきの不思議な状況はいったいなんなんだ?

[それで、神島と高濱はお前の声が聞こえてるように見えたけど、あれ一体何?ていうか、今は聞こえていないよな?]


俺の質問に猪原は首を横に振る。

[いえ、私にもよく分かりません…]

[いやいや、明らかに故意にしか見えなかったぞ]


そんな知らないとか言われても、話している事が明らかに神島と高濱に対してだったんだが。

[それもそうですね…]


そこはあっさり認めるんだな。

[じゃあどうにかして説明し…][待ってください]


猪原は問い詰めの俺の言葉を遮ってくる。

[何?なんだよ]

遮るってことはつまりあれだな?なにか隠してるな?

「みんな、止まって」

すぐに神島が俺達に向かって急に呼びかける。



猪原は俺から外して視線を奥に向ける。それだけで何を示しているのかわかった。

俺も猪原見ている後ろを振り向く。


どうやら黒狼はフラフラヒステリック状態からもう立ち直ったらしい。

既に俺達のことを獲物としてじっと見ているようだった。

は、はぁ〜。ナンテコッタイ。

正直また生きた心地がしなくて、あいつが今の時間までに飛びかかって来なかったことが奇跡だと思えた。


ま、またこの時間停止ゲームやるの?嫌だよ俺は…

そう思っていると、猪原が何故か急に黒狼の方へと1歩1歩歩き始める。

それに神島達も驚く。

「ヤコ、動いたらだめだ…」


すぐに高濱が言うが、それを無視してどんどんと近づく。

[お、おいおい…何してんだよ]

待て待て、そんなしたら死ぬに決まってるって…。


だが、黒狼は近づく猪原をいつまでも見つめるばかりで、襲おうとはしなかった。

猪原は黒狼のすぐ目の前に立つ。


一体、何がどうしたんだ…?

少しの間を置いて猪原が喋り始める。


[ねぇ、何でこんなことをするの?]

[え?]


突然の謎発言に俺は困惑してしまう。神島達にはこの声は聞こえていない様子だった。

黒狼はそれを聞いてとても驚愕していた。

[…へ?]


マジで意味が分からない、猪原が急に遠すぎる存在になってしまったみたいだ。

黒狼は最初は表情が分からなかったが少し悩んでいるように見えて、しばらくすると決心したかのように見えた。そして黒狼ゆっくり口を開き震えた声で話す。

[私は…]


だが少し声を出しただけで息詰まるかのように止まってしまった。

…いやいやなんでそうなるねん。

猪原が聞くことも意味わからんし、返しも逆転しすぎてるぞ!

[あなたはそんな人じゃなかった、過去の過ちもまた繰り返して、改心した事は嘘だったの?]

[ち、違う。違うの…]

[既にやってしまったことには変わりはないのよ]


黒狼は俯き、涙を流し始める。

て、展開が読めねぇえ〜。


[なにか言うことはないのですか?]

[ごめん、な、さい…]

猪原に詰められ、謝ることしか出来ない。

完全に地面に突っ伏してしまった黒狼はピクリとも動かず、もう動く気力もなさそうに見えた。

猪原はその状態を見終えるとこちらへと振り向いた。


ちょ、ちょっと猪原さん…?なんか顔険しくない?

[一体なにがどうしたんだよ…]


俺の困惑した様子を見て猪原は含んだように答える。

[過去の罪を洗い流さず、欲求のままを満たす。彼女はそういう者なんです。]


いや違うくてですね?猪原がなんで急にそんな行動に出て、なんでそんな意味わからんことを知っているのかなんだよ。ってか結局あの黒狼は何者なんだよ!


[まぁあんまり言いたくないということはわかったよ…]

[すいません]

猪原は普段と変わらないように謝る。


あんまり腑に落ちない気持ちがあるが、それを邪魔するように神島達も落ち着いて話し始めたようだ。

「助かったのか…ヤコは一体何をしたんだ…?」

「さ、さぁ…僕にも分からない」


まぁいっか。

[さて、これからどうするよ…城へ帰るか?]

[とりあえずは他の皆の生死がどうなってるか今すぐ探しましょう!まだ助かるかもしれませんし]


あ、そうだった。


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