二十五 黒狼の殺戮
そこそこ歩いて離れていたため、走って戻るのは少し時間のかかる事だった。
黒狼はその場で兵士をもぐもぐと食べて、その光景を見た他の兵士達と神島達はただその意味が分からない状況をその場で見つめていた。
その間に黒狼の強さを見ようと【観察】を使い、調べてみた。
___________________________
<驟堤屁邯セ鬥>
総合戦闘能力:σ8ฅ₣
___________________________
いやなにこれ!?
文字化けしすぎだろ、俺の【観察】がついに壊れてしまったんか?
いや流石にね、多分今のは気の所為、疲れて上手く発動出来なかったに違いない。
走ってるから気を落ち着かせる事なんて出来ないけどもう一度確認してみる。
___________________________
<譽ョ蜥イ邯セ鬥>
総合戦闘能力:3وỏ2
___________________________
はい、ありがとうございました!!!
まぁこれは恐らく格上の相手だから情報を上手く読み取れないんだろうな。
異世界だからステータスをいじることも出来るだろうし、当たり前のことだろう。
だけどこれは何度も繰り返してやれば分かるのでは?いま3800と2が分かってるし。
…いややめとこう、深く干渉しすぎでヘイトが向く気がするし。
黒狼は兵士の鎧をものともせずわたあめを食べるように殺していた。近づいて見て分かったが大きさが半端ない。電柱よりも高く感じる。俺なんて一口で丸呑みされそうだ。
あいつが味方か敵かと言えば絶対中立だけど。これを上手く活かす手はない。
やっと神島の近くまで着いたが、下にばらまいている木の破片一つ一つが段差のようで歩きづらい。あ、ちょっと尖った部分が鱗突き抜けた気がする!いてぇ。
神島は俺の存在には気づかずに全員が1点を見つめる。
[おーい!猪原!白竜!どこだー!]
俺が叫ぶと、黒狼は首を上げて最初の兵士をそのまま丸呑みし、俺の方へ振り向いた。
[ひぇ、ごめんなさい…]
「************!!!!!」
「********!」
「うわぁぁぁぁぁぁ!うぅうぅぅ」
俺の小声と共に多くの兵士が恐怖に呑まれたように叫び、散っていく。黒狼の所から波のような物が飛んで全身を包んで来たような気がして。
わ、わぁー…
その神々しい御身の姿に目も吸い込まれて恐怖で頭か真っ白にな
って泉気失ってんじゃねぇか!
視界の端にいた海老反り姿、失禁失神した泉の衝撃の体制で我に変える。すぐに俺は一旦頭をブンブンと振り、気持ちを落ち着かせる。
今のは多分見ただけで恐怖状態に陥りそうだな…キモ。
あーくそ、なんか泉の面白プレイで戻れたの腹立つな…
いつの間にか黒はその場にいなくなっており、周りを見渡すと、首なし兵士やら体なし兵士やら、部位が信じられないほど綺麗に抉られて息絶えた残骸が転がっている。
そして現在進行形で慌てて逃げる兵士達を片っ端から食い殺している黒狼の残像が見える。
さて、どうしたものか。
まさか俺の声で反応するとは思わなんだ。
幸い兵士たちが直ぐに叫んで獲物になってくれたことが良かった。
その場で座っている俺と神島、高濱は一切狙われていなかった。
2人は口を開けて呆然と虚無を見つめている。まだ恐怖状態にあるのだろうか。
俺は黒狼が兵士達に構っている今のうちに神島達を押し揺らす。
「あ、はぁ…はぁっ。リエル…」
「うぅクソなんだよあいつ!」
我に返った神島と高濱はかなり疲れている様子だった。
逃げ回っていた兵士はもうほとんど消えて、残りは尻もちを着いて何も出来ない奴だったり動いていない兵士のみとなり、黒狼は殺戮からお食事タイムに変わり始めている。
まだ、逃げる余裕あるかな…。
「今のうちに急いでここから離れよう」
神島が疲れきった声で指示する。
「他のみんなはどうするんだよ」
高濱の言葉に神島は黙り込んでしまう。
「…あぁ、じゃあ俺は泉を運ぶ。」
まぁ、仕方がないよな。
今は自分の命を守る事が大事だ。
高濱は立ち上がり、海老反りの泉をすんなりと担ぎ上げた。すご。
俺も念の為、今度は聞こえないようにもう一度小声で行ってみる。
[みんな、誰か生きているなら返事をしてくれ]
焼け崩れた馬車からは呻き声1つ聞こえない。
爆発の影響で外に吹っ飛ばされてもおかしくは無いと思うんだが、全員下敷きにされているのだろうか。
「リエル、僕の肩に乗って」
後ろから神島が呼び掛けてきた。
まぁ、諦めるしかないかぁ。
俺は仕方なく、神島に運んで貰うことにした。
差し伸べられた手を伝って肩の上に乗り込む。
じゃあ、帰るか。
[伏せて!]
え、ってうわああ!
神島が俺の事をお構い無しに姿勢を急に低くする。
いや危ないだろ!首後ろにそり過ぎて折れそうだったし、どしたん急に。ギリ肩からずり落ちずにすんだぜ…。
と思って背後を見たら、黒狼がすぐ近くにいた。
[ヒェッ]
どうやら奴がすぐ真上を通り過ぎていったように感じたがどうなんだろうか。
でもまあ、明らかにこちらを獲物として見ているのが分かる。
黒狼はこちらを振り向き顔を見せるがその真紅の目を見ても今回は大丈夫そうだった。
「誰?」
そして、神島が突然聞こえた声に対して周りを見渡す。
その声はこの中の俺達ではなく、いつも聞いていた猪原の声だった。
ただ、猪原の姿は周りには見当たらない。
[猪原生きてるのか!どこにいるんだ?]
[その場から決して動かないでください]
猪原の声はいつもと違って威圧的だった。
そして、神島と高濱はコクリと頷く。
不思議なことに、猪原の声は神島達にも聞こえていた。




