十六 圧倒的不審者
王国の広場に戻ってきた俺たちなんだが、兵士達はおらず、広場で自由時間ということに。
正直勇者達に少し不満が募っている。
圧倒的エンカウント率の低さが原因なのだが、それについての詳細は不明。
[全然魔物が出ませんでしたね、あの植物はさすがに魔物ではないでしょうし…]
不満げに呟く猪原。
[圧倒的に異変だろうな]
戻ってきた理由については普通に森に全く生物がいないということ。
こういう原因は後に明らかになるんだろうけど、やはりすぐにでもこういうのは知りたくなっちゃうよなぁ。
発見するのは俺自身か俺以外の誰かだけど。
これ以上、広場で暇な時間を作られると俺もなんか嫌なんだよなぁ。
ラーファウルとの戦いは壮絶だったけど、場所が変わるような展開がないと俺が飽きてしまう。
例としてこんな感じの話を考える。
兵士A「周辺の森でレベルを上げさせるつもりでしたが、勇者様方はここで長く訓練なされたので旅に出ましょう!」
勇者A「1ヶ月間俺達も頑張ったんだからな!さっさと旅にでてレベルを爆上げしてやるぜ!」
勇者B「いやいや、流石にやめた方がいいと思うぞ!旅は危険だ!いつ死ぬか分からないし…」
魔王「そうだぞ、貴様らはいつ死ぬか分からない、今我が貴様らを殺すことも出来る」
勇者A「だ、ダニィ!誰だお前はぁ!」
魔王「私は魔王だ。今ここで根を潰そうと思っていたが、貴様らにはチャンスを与えよう、貴様らが我に危害を加えないと契約をしたならば、ここで殺さないでおいてやろう」
勇者abcdefghi「「「「「「「「「わかった!」」」」」」」」」
勇者j「お前ら諦めるの早すぎだろ!」
魔王「良かろう、9人の貴様らは生かしといてやろうではないか、では、さらばだ(9人の勇者の足元に魔法陣を生成)」
勇者abcdefghi「「「「「「「「「うわぁーーーー!(魔法陣が光って消える)」」」」」」」」」
魔王「さぁ、始めようではないか」
俺「みんなは俺が守る!(覚醒して進化する)」
魔王「な、なにぃぃぃ!」
俺「うおおおぉぉおぉ!(魔王に突撃)」
魔王「馬鹿なァァァァ!(死亡)」
俺「ごめん、みんな…俺実は……(転生前の姿になって正体を明かす)
まぁ、妄想だから俺は絶対こんなこと出来ないしならないんだけどね…。
圧倒的妄想をキメたところで時は夜、神島が俺を持って自室に運び、一緒にベッドで寝転がる。神島は兵士達に渡された護身用の剣の鞘を指でゆっくりとなぞる。
なんか今日、あんまり何もしていないように感じるなぁ。2度目の森やら植物に殺されそうになるやら何かしてるんだけど。
[今日もお疲れ様、明日は何するか知らんけどよく寝ろよ]
俺は神島に声をかけるがいつもどうり聞こえていない。
霊獣は念のような感じで喋ることしか出来ない。故に勇者との会話は出来ないのだ。
もしかしたら強く聞いて欲しいと思ったらファンタジーアクションで聞こえるかもしれないけど。
神島は剣をベッドの脇に寝かせ、そのまま目を閉じる。
[おやすみ]
明日がもあるし、そのまま直ぐに俺も寝た。
電気が消えた暗闇の中、俺はふと目覚める。
なんだか嫌に落ち着かない気分で、胸が変にざわつく。一体俺どうしたんだ?
暗い部屋を夜目で見渡す。少しづつ周囲が見えやすくなり、ある程度部屋中が分かるようになる。
特に何も変わらない、いつもの部屋。
何かホラー展開が来るのかと緊張していたが、特に何も起こらなさそうだ。
安心して空を見てみようと窓に目を向ける。
…そこには全身を黒い服で覆い、口元を隠す様に黒い布を巻いている男が窓を音をたてずに開けようとしていた。
言っておくが勇者達が寝るこの部屋は城の2階で学校の教室ぐらいの高さをよじ登らないと窓には行けない。
あいつはここまでよじ登ってきたのだろう。
まじ何あいつ?不審者?怖すぎ…。
窓の鍵は閉まっており、普通に開くはずがない。
俺は少し緊張しながらも寝たフリをする。
こういうのは寝たフリに限る、起きてるのがバレたらバレたで結構危険かもしれない。
男は窓を普通に開けようとガタガタと動かしていたがやがて諦めたのか腰の小刀のような武器を持つ。
え、もしかして、もしかしてだけど……やっちゃう感じ?
男は小刀を左手に持つと右手でポケットにある小さな小瓶を取り出す。
小瓶を開けると小刀に暗い緑色の粘性スライムのようなものを垂らす。
いやぁ、あれ絶対毒とか酸とかだろ…。
男は小刀を窓に振りかざすとジュッと音が鳴り、窓が酸で溶けるように液状化した。
中へ入れるくらいに窓を溶かすと身を乗り出し、神島と俺が寝るベッドの上へとゆっくり降り立つ。
男は神島の上に立つと小刀を下に向けて両手で握りしめ、首を狙うように振り下ろし……
それ以上はOUTー!!
俺は速攻で起きて男の腹元に全身でどつく。
「***!!」
男は急な攻撃に気づかずに呻き声と共に横に倒れて窓枠に強く激突する。
あ、アブネー、危うく神島がお陀仏になる所だった…。
いやマジで怖いって、先に起きとけば良かったかな…。
男はすぐさま小刀を構えてゆっくりフラフラと立ち上がり、邪魔者を見るように俺を睨みつける。
俺は慌てて神島を起こそうと体を揺らす。
[神島!早く起きやがれ!死ぬぞ!!]
「うぅん、もうちょっとだけ…」
[そんな事言ってる場合じゃねぇ!]
流石にゆっくりはしてられないので神島の腕に軽く噛み付く。神島はびっくりして上体を起こし、周りを見渡す。
「痛ッ!ってなに?どうしたのリエル…」
男は起きた神島を見ると、接近して小刀を上から振ろうとする。俺は神島を守ろうと首元に跳んで噛み付こうとする。
貰うぜ!その首!
だが、男は難なく俺の足を片手で掴んで後ろの方へと投げつけられる。
空中を少し飛んだ後、扉に背中から激突して地面に倒れる。
あぅ、ちょっと痛いけど…ここで動けなかったらやばい!
直ぐに立ち上がり神島の方を見る。
神島はようやく状況を理解したのか男に両腕を掴みかかって、動きを封じている。
「この野郎!よくもリエルを!」
神島はそのまま男を力で押し倒すと小刀を奪い取り、男を押さえつけた。
男は必死にもがいて脱出しようとするが神島はそれを許さない。
す、すげぇ〜。
でもここからどうするべきなんだ…?
この部屋を出て他の勇者を呼ぶべきか?
上を見ると閉まった扉を開けるためのドアノブ、俺はそれに飛び乗り、器用に回してドアを開ける。
とりあえずは仲間を呼ばないと…。
急いで廊下に出ると急にビィィィィィーと響く笛の音がなった。
部屋の中を見ると男は神島の拘束を凄い力で急いで振りほどき、颯爽と窓に乗るとそのまま窓を降りて姿を消した。
帰った……。
とりあえずはひと段落。
笛の音が鳴ってから直ぐに帰ったけど。目的は暗殺だろうなぁ。
俺と神島は呆然と男が降りていった窓を見ていた。




