第8輪・優しい声
『イヴェット、もう少し』
血色の良い私の母は、そう言いながら手招きして渡しを呼ぶ。
私は子供の頃らしくおぼつかない足を動かし、彼女の近くへと駆け寄る。
『…っ……おかあさま…っ…』
『ごめんなさい、なんだか今日はこうしたかったの』
なぜ更に言葉に詰まってしまったかと言うと、母にされたことに涙を堪えるのに必死になってしまったからだ。
そう、頭を撫でられたのだ。
『…30分後、朝食を食べる』
父はそう言い残して母の部屋から、いつも食事をする部屋へと向かった。
その時間には来いということなのだろう。
その時間までは話していいということなのだろう。
『誰かさんそっくりね』
母はそう言って微笑んだ。
父の後ろ姿にチラホラと少しだけ見える肌が赤かった気がした。
それから少しの間、私は母との会話を楽しみながら過ごした。
勿論、母が元気な頃の昨日の記憶なんてあるわけがないから、質問攻めになってしまったけれど。
母はそれが嬉しい事かのように、微笑みながら質問に答えていた。
『御母様、そういえばこの長い髪はいつ頃から?』
『そうね、もう何年も前から伸ばしてるわ』
『御母様は黒百合がお好きなのですか?』
『えぇ、好きよ
貴女と同じぐらい大好きよ』
穏やかな彼女の口調とそのおっとりとした笑顔に、次第に私は安心感を取り戻し、急に幼い頃に戻された不安すら薄れてきた。
ちょうど、その頃だった。
『コンコン』
父の閉めた扉に少し慌てたノックの音が響く。
『入っていいわよ』
だからか母もいつものおっとりとした感じとは違い、少し早めに回答した。
『失礼致します
あの…こちらを』
入ってきたのは一人の執事で、母に一枚の手紙のようにも見える紙が手渡された。
その紙を見たとき、私は何かを思い出した。
そう、それは…
お久しぶりです、十六夜零です
この度はありがたいことに、
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ありがとうございます
今後ともこんはきをよろしくお願いいたします




