第4輪・彼はまだ気付かない。
『お父様…』
俺は父親の姿に驚いた。
死ぬ前の時は白髪だったと言うのに
俺が子供の頃の白髪“混じり”というレベルの髪だったのだ。
(二人とも若いな…)
母親も母親で、父親程の大差が無いなりに若く見えた。
(走馬灯?ってリアリティーが凄いな)
なんてぼーっと思う。
そして俺はやろうとしていた事を思い出して言いたかった言葉を口にする。
『お父様、お母様…お…僕に婚約破棄をさせてください』
なんとか一人称を戻しつつも、俺はそう言った。
すると…
『熱でも出たか…?』
『あの子は良い子よ?
寝惚けてても言っちゃダメな事よ?』
と、とんでもない返事が来た。
(走馬灯位自由にしてほしい…)
と、俺は心の底からうんざりとした。
『お父様とお母様は騙されているだけです』
と、なんとか俺は言葉を付け足す。
『馬鹿を言うな!』
『いくらなんでも酷いわ
頭を冷やしなさい』
だが、走馬灯とはいえ、甘くはなかった様だ。
俺は諦めて自室にこもることにしたのだった…
『あの子…まさかだけどまだ気付いてないのかしら…』
『そんな筈は…
あいつにはちゃんと、彼女の過去を話した筈…』
彼はまだ気付かない。
これが走馬灯ではない事を。
彼女の過去を、真実を。