第2輪・愛する猫とも人とも添い遂げられぬならば
私はそのまま、彼の事など忘れたふりをして、悪女らしく高らかな笑い声を今にもあげそうな笑みを浮かべつつも、馬車に揺られて自宅へ戻る。
すると、案の定父親からの命令によって私は勘当されて、只の町娘に成ることになった。
そして、既にまとめていた荷物を手にする…が、
『当主様、ミーシャを御存知では有りませんでしょうか?』
私は、既にこの人の娘ではなくなったため、正しい敬語を使い、質問をする。
『そんなの、決まっているだろう
お前ごときにあんなに上品なペットは勿体無いから捨ててやった』
その一言に、私はそのまま倒れ込みそうになるが、何とか持ちこたえて質問を続けた。
『何処にお捨てになられたのですか』
『そんなの、決まっているだろう
渓谷の滝さ
じゃぁな、恥さらしのクソガキ』
そういって、あの人は私に触れもせず、従者達を使って家の外へと追い出した。
私はその瞬間、急いで渓谷の滝へと向かった。
『あの子に泳ぎを教えておけば良かったわ…!
嗚呼、なんて事なの…!
私のせいでミーシャが…!
ミーシャ…!ミーシャ…!
お願いだから私の元へと帰ってきて…!』
惨め…いや、滑稽にも私は泣きながら愛する猫の名前を叫ぶ。
すると…悪役にも一ミリの希望が与えられた。
今まで一ミリも信じなかった神様の事を今回ばかりは信じて感謝してしまった。
そう、聞こえたのだ。
『にゃー…』
いつもと違って掠れた…あの子の鳴き声が。
『!?…ミーシャ…!
ミーシャ…!?
そこに居るの!?
お願い、お願いだから生きて…!
私にもう一度鳴いて…!』
私がそう叫ぶと…
『にゃー……にゃ…にゃー…!』
必死にご主人に此処だと告げるような、悲しい鳴き声がはっきりと聞こえた。
『…っ!?ミーシャっ!!』
そこには、滝の端の方に有る、ゴツゴツとした大きな岩に挟まれている、ミーシャの姿があった。
『ミーシャ…!今助けるわ…!』
私は叫んで、岩を動かそうと滝に飛び降りる。
『う…!うぅ…!うっ…!できたっ…!』
なんとか私は岩を避けてあげることに成功した。
が…
『そこまでだ』
そこで響いたのは彼の声。
『領地に無断で入るとは何事か
お前は心底卑劣な女だな
その惨めな姿を見れた事以外、何も喜ばしくない
お前のせいで川の水は汚染されたも同然だ』
彼はそう言いながら私の首に剣を当てる。
(此処までなのね…ミーシャを…ミーシャを助けられた事だけは…私の救いだけれど…もう無理ね…だったら…!)
『あなた様、私と死んでくださいまし…!!』
そう言って私は彼の剣を血が出る事もお構い無しに目一杯引っ張り、そのまま彼を滝へと突き落とし…
『さようなら、あなた』
そう言ってそのまま彼と一緒に滝へと、滝の下へと…地獄へと落ちる覚悟で消えていったのだった…