第1輪・婚約破棄されし黒百合姫は笑顔で消えゆく
これは、苦くも苦しくも悲しくもある過去達を持つ、悪名高い一人の令嬢と、その婚約者の話……
『ねぇ、Misia、貴方は私がもしも嫁げない処か、婚約破棄されて家を追い出されたた時も、側に居てくれるかしら?』
私はある日の朝の事、愛する飼い猫のミーシャにそう問い掛けた。
『にゃー』
勿論と言うように、ミーシャが私の指に頬擦りをする。
『なら、何も怖くはないわ
一緒に落ちましょう?
平民に』
開け放っていた小さめの窓の縁にかけていた腕を、『うー』っと、唸りながら伸ばし、気を引き締める。
『じゃ、ミーシャ、行ってくるわ』
この時の私は思いもしなかった。
この時を最期に、ミーシャには“今世では”もう会えない事を…
そう、今日は悪役令嬢と悪名高い私…
Yvette・Alice・blackLily
の、婚約破棄の発表が行われる日なのである。
そして、私は晴れ晴れとした気持ちで馬車に揺られながら、“あの方”に婚約破棄され、ブラックリリィ家当主の命令により、勘当されて平民に落ちる時の事よりも、その後、ミーシャとどう過ごして行くかを考える。
昔は王子様なんて物に憧れたものだけれど、今は平和な、平凡な日々を夢見る。
そんな私はあれよあれよと会場に連れられ、今は婚約破棄の発表の瞬間が訪れる寸前の所であった。
『よって、私…
Noah・Grayson・Blackwel
は、イヴェット・アリス・ブラックリリィとの婚約を破棄致します事を、此処に…』
私は渡された書類に、会場に居る皆様に冷ややかな視線を向けられつつも、それをスルーしてそそくさとサインをする。
『異論は…なんて、聞くまでもない様だな
永久のお別れだ』
と、耳打ちされるが、それすら私はスルーである。
だって、貴方を見ていると辛くなるから。
私は早く忘れる為にも、一刻も早く平民ライフの楽しさを知らなければならないのだ。
そして、最期に私はこう言い残した。
『貴方様と一時でも婚約できた事を、有り難く想います
それでは、さようなら』
私にとっての精一杯の、目一杯の笑顔で彼に言い残し、私はそそくさと会場を後にした…
俺は、思わず固まってしまった。
だって、あの、あの、あの…
あの、“冷酷な黒百合姫”と呼ばれていた彼女の最期の言葉は何ともそれらしい演技めいた台詞だったが、その笑顔は…とても、演技とは思えない程に、悲しそうで寂しそうで苦しそうで、今にも泣きそうに見えたからだった。
平民落ちするであろう彼女は、何にそんなに苦しんでいるのか。
婚約破棄で立場が悪くなること?
親に捨てられて平民落ちすること?
会場に溢れる冷たい視線?
それとも全部か?
この時の未熟な俺はまだ知らない。
彼女の背負う過去も、本心も、使命感も。
いせツンで会っていた方はこんにちは。
初めましての方は初めまして。
十六夜零です。
ベタベタしてなくて、ドロドロもしてない、焦れたったいだけの、ハッピーエンド不可避な異世界ラブコメが大好きなのですが、たまには悲しくて重苦しい話も書いてみたくなったので、試しに書いてみる事にしました。
なので、いせツン程甘さや焦れったさが…うーん…多分無いですが…多分。
それでも良ければ、是非、長い連載になる予定ですので、末永く宜しくお願い致します。