08 時魔法を道具に付与してみた
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村に戻った俺は、酒蔵の樽のすべてに時魔法を付与できるかどうか、試していた。
今までは自分で毎日のように酒蔵に足を運んで、酒樽に時魔法を施して熟成させていた。
しかし、酒樽に時魔法を付与することができれば?
この酒樽に入れた酒は勝手に倍速で熟成が進むのではないかと思ったのだ。
「上手く行ってるんじゃない?」
樽の酒を試飲しながら、幼馴染のユリィが述べた。
こいつは村の中で神出鬼没にふらふらしてるけど、定職に就いてないのか?
ヒマなら実家の飯屋でも手伝えばいいと思うんだが。
「これで王都に納入する分の酒も安定した品質で作れそうだな。よしよし」
俺は酒樽の他にも、発酵調味料を作る甕や、ヨーグルトや漬物を作る道具器具にも時魔法を施して、発酵熟成が早く進むようにした。
「気を抜いたら発酵が進み過ぎちゃうわよね、これ」
「そこはちゃんと、様子を見て管理してもらうしかないな」
ユリィにそう指摘されたように、便利なだけではなく欠点もある魔法なのだ。
俺の頭では、時魔法を付与して役に立ちそうな道具、というのが他にぱっと思い浮かばない。
悩んでいると、ユリィが質問してきた。
「その魔法、人間にかけたらどうなるの?」
「人の動きを遅くしたり早くしたりはできるぞ」
いやな奴の歩幅を狂わせて、転ばせたりというくらいしかいまのところ使い道はないが。
「……お肌の衰えとかを遅らせたりはできないのかしら」
「お前ずいぶん欲望にストレートだな」
「うっさいわね! 全女子にとって深刻な問題なのよ!」
「代謝ってのは大事な生命活動だからな、狂わせない方がいいと思うぞ」
「そっかあ……」
代謝を遅くすればそれだけ老化は遅くなるが、生命力も停滞するわけだからな。
ユリィの肌年齢の話はさておき、その後も俺は村の中で畑仕事、物造りなどに精を出していた。
たまに学院に顔を出して、若者相手に武術、戦闘訓練の教官なども相変わらずやっている。
「今日こそはレン兄ちゃんに勝つ!」
「ははは、ガキが調子に乗るなよ」
木剣を持った試合形式の訓練を、バッツと俺とで行う。
バッツはめきめきと腕を上げているので、最近では俺も気を抜くことはできない。
ズルをして時魔法で自分の動きを速めたり、バッツの動きを遅くして圧勝することで、なんとか教官の威厳を保っていた。
「ちきしょー! 勝てねー!」
「ずいぶんいい線行ってるぞ。首都の冒険者ギルドなら、まあBクラス冒険者のパーティーになんとか入れてもらえる、くらいじゃないか」
「レン兄ちゃんはSクラス冒険者のパーティーにいたんだろ? かなわねえなあ……」
「その話はやめてくれ」
古傷なんだ。思い出したくないんだ。
「精が出ますわね、レン」
「どうもお嬢さま。ごきげん麗しゅう」
稽古を終えて一休みしていると、アイラお嬢さまがやって来た。
今度は何の厄介ごとを持って来たのやらと、俺はつい身構えてしまう。
「一度、父に会っていただけませんこと? この村を含めた近隣一帯の開発経営主任に、レンを推薦させていただきましたの」
「聞いてないんですが」
「ええ、ですから今こうして、言っているのですわ」
なに勝手に決めてくれちゃってるんだよこのお嬢さんは……。
そうして俺は、この地域の領主、辺境伯に会うために州都に赴くことになってしまった。
俺の時魔法、基本的には畑仕事や食品づくりにしか向いてないと思うんだがな……。
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