07 チンピラ貴族に絡まれた
俺はちょっと用事があって、辺境の村を離れて王都、首都と呼ばれる街に来ている。
過去に冒険者をやっていたときはこの街のギルドに入り浸ってクエストをこなしていたが、昔の話だ。
「商談が上手く行くといいニャァ」
「そうだな、条件次第だけどな」
傍らには、猫獣人のマヤを連れている。
なんのためにこの街に俺たちが来たかというのは、その商談が理由だ。
俺たちの村で作っている麦の蒸留酒が、貴族さま王族さまの間でちょっとした評判になったのだ。
その評判を聞いた王都の商店主が、俺たちの村で作っている酒を置いて売ってもいい、と言ってくれたのだ。
マヤが一緒に来ている理由は、自分を売り飛ばした親御さんに一度、文句を言ってやりたいからとのこと。
俺は関与しないので、好きにやってくれ。
俺たちが街の中心部へ向かって通りを歩いている、そのとき。
ドンッ。
「ニャン!?」
通行人とマヤがぶつかって、マヤがこけた。
「おい大丈夫か。擦り剥いてるじゃねえか、膝」
「ニャァ~、だ、大丈夫だニャン」
マヤを助け起こしながら、他にもどこか怪我がないか俺は観察していたのだが。
「おい! 貴様! どこに目を付けている!」
ぶつかった相手が、やかましい。
相手は三人組で、身なりはいいのにガラが悪いというおかしな連中だった。
貴族の三男坊と、その取り巻きとか、そういう感じだろうか。
「ど、どうも、申し訳ないニャァ~」
「けがらわしい猫女めが! 一体どなたさまにぶつかったのか承知しているのか!?」
「知らねえよバカ!」
俺はムカついたのでその三人をボコボコのぐちゃぐちゃにしばき倒してやった。
「れ、レンちゃん、やり過ぎニャ! し、死んでるニャ……!!」
三人のうち、一人はやりすぎてしまったせいで、殺してしまったようだ。
「こりゃいかん」
と、気分がすっきりして冷静になったので、時魔法を使って時間を戻す。
マヤと通行人がぶつかる前まで、俺は時間を戻した。
「人にぶつからないように、気を付けろよ」
「ニャ? あ、ありがとうニャ……」
マヤの体を俺の方に引き寄せて、通りの端っこをのんびり歩く。
なんかマヤの顔が赤くなってモジモジしてるけど、風邪かな。
今度はガラの悪い三人組にぶつかることはなく、やり過ごしたが。
「男爵さま、見てくださいあのみすぼらしい猫女を連れた男を」
「ははは、変わった趣味の奴もいるものだな。あんな亜人種に欲情するなど、おぞましい話だ」
こいつら、こっちがなにごともなくやり過ごそうとしてるってのに、人の気苦労も知らねえで不愉快ムーブをぶちかましやがる……。
俺は三人の脚に時魔法を少しだけかけて、歩幅を狂わせる。
「ぶべらっ!」
三人とも、なにもない平面なのに歩調が狂い足を踏み外して、顔面から地面に突っ伏し、倒れた。
その後、俺はいったんマヤと別行動。
王都の商人さんと話し合いをして、村の酒を納入する段取りをつけた。
街中の飲食店や、冒険者ギルド内のラウンジで、俺たちの村の酒が提供されるようだ。
「ギルドのラウンジ、懐かしいニャァ……」
もとはそこで給仕をやっていたマヤが、当時を思い出しているのか、遠い目をして言った。
親と取っ組み合いの喧嘩でもしたのか、マヤの頬にはひっかき傷が残っていた。
「寄ってくか?」
「ううん。早く村に帰りたいニャ」
「そうだな。俺もここには長居したくない」
街の掲示板には、とあるSランク冒険者のパーティが、毒邪竜の王を討伐した、というニュースが貼り紙されていた。
ろくでなし貴族を道端で転ばせている俺とは、ずいぶんな違いだった。
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