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06 近場の山に冒険訓練に行った

 体は小さいが、タフですばしっこく目端の利くバッツ。

 中肉中背、なんでもできるが器用貧乏なお嬢様のアイラ。

 体力はそれほど高くないが、回復魔法や補助魔法に長けたリナ。


 この三人の冒険を見守り、監督する役割で俺は同行している。

 今回の目標は、山の中腹にある洞窟に入って、その最深部にある魔鉱石をゲットしてくる、という物だ。


「こ、この程度のモンスターしか出ないのであれば、楽勝ですわね!?」


 ゾンビウルフを撃退して、膝をかくかく笑わせながらアイラ嬢がおっしゃる。


「無理はすんなよ。リナに精神安定の魔法かけてもらえ」

「お嬢さま、失礼します」

「助かりますわ~」


 俺の指図どおり、リナがアイラ嬢に心を落ち着かせる魔法を施す。

 今のところ、俺は口を出すだけで特に手出しをしていない。

 モンスターの撃退も、アイラとバッツだけでなんとかなっているな。


 一晩のキャンプを経て、さらに進む。

 アイラとリナが川で水浴びしているところを見ちゃった気がするけど胸の中にその映像はしまっておく。


 雑魚モンスターのいくつかと遭遇し、若者たちは七転八倒しながらもそれを撃退。

 なんとか洞窟までたどり着いたが。


「ゴブリンの見張りがいるぜ、レン兄ちゃん……」


 様子を伺ったバッツが俺に報告する。


「見張りがいるってことは、相手は複数だな。ゴブリンの巣になっちまったか」


 よくあることとは言え、よくない。


「どどどどどうするんですの? 集団のモンスターを相手にした攻略法はまだ教わっておりませんわ……」


 マニュアルがないと弱いタイプか、アイラお嬢さまは。


「レン教官、洞窟内にはゴブリン以上に力の強いモンスターがいる気配があります……」


 さらに悪い情報がリナの口から放たれた。

 魔力に敏感なリナは、魔物の力の気配みたいなものがかなりの精度で分かるのだ。


「いうてもトロルとかホブゴブリンだと思うんだがな」

「な、ならなんとかなりますわね? 脳天をかち割って差し上げますわ!」


 勇ましくアイラお嬢さまが吶喊あそばされた。

 ヘタレなのか無茶なのかわからん奴だな。

 俺たちも後に続いて、洞窟入口のゴブリンに殺到する。


「オイオイ一人で突っ込むなよ」


 俺が心配した、そのとき。


「ゴバァーーーーーーーッ!!」


 洞窟の内部からまがまがしい咆哮が鳴り響いた。

 そして炎の風、熱風が吹き荒れて、アイラお嬢さまと見張りのゴブリンが、消し炭になった。


「レン兄ちゃん! アイラお嬢さまが、死んじゃったよ!!」


 住んでのところで熱風を躱していたバッツが叫ぶ。


「あちゃー。これはいかんな。撤退だ、撤退」


 洞窟から離れ、危険が周囲にないことを確認。


「ど、どうしましょう、まさか、お嬢さまが……」

「困ったな。こんなことでお嬢さまを死なせちまって、村に帰ったら俺、縛り首とかになるんじゃねえかな……」

 

 ダメでもともと、時魔法に賭けるしかない。

 俺は目を閉じて必死に念じて、時間をさかのぼるために時の神に祈り続けた。



 ぐらんぐらん、ぐるんぐるん、と世界と自分が揺れて回転する錯覚に包まれて。


「ゴブリンの見張りがいるぜ、レン兄ちゃん……」

「どどどどどうするんですの? 集団のモンスターを相手にした攻略法はまだ教わっておりませんわ……」


 どうやら時間遡行に成功したようだ。


「レン教官、洞窟内にはゴブリン以上に力の強いモンスターがいる気配があります……」

「そうだな、リナ、俺にありったけ火炎耐性の補助魔法をかけてくれ」

「は、はい、わかりましたっ」


 俺はリナに補助魔法をかけてもらう。

 さらに自分で自分に攻撃強化の補助魔法をかけまくる。


「みんなちょっとここで待ってろよ。危ないから洞窟の入り口には近付くな」


 そう言い残して、俺は洞窟の入り口にダッシュ。


「ゴヴ!?」


 見張りのゴブリンごときは今の俺にとってなんの害にもならないので、放置。

 その奥、洞窟の内部にいる本当の敵めがけて必死で走る。


「グハァ――――――――ッ!!」


 強烈な熱風、炎の吐息が俺を襲う、が。

 たっぷり防御バフ、炎耐性バフをかけておいたのでダメージは軽微だ。


「死ねこん畜生!!」


 俺は愛用の鉈を振り下ろし、敵の首を刈った。


 炎の息を吐いた主は、フレイムタートルと呼ばれる大亀の魔物だった。

 甲羅の中に首を隠している状態だと、こいつにダメージを与えるのは至難の業だ。

 しかしこいつは食事をしているとき、炎の息吹で敵を攻撃しているときなんかは、弱点である頭や頸部を甲羅から露出させている。

 そういう生態を知っていれば、そして炎の攻撃に対して事前に対処していれば、討伐するのはさほど難しくはない。


「みんなー、もうこっちに来ていいぞ。あ、ゴブリンは殺しておいてくれ」


 俺は洞窟の外で待っていた三人を呼び寄せた。


 熊のようにデカいフレイムタートルが、頸から大量の血を流して死んでいる。

 その光景を見てバッツが興奮している。


「すっげえやレン兄ちゃん! こんなでっけえ魔物をあっと言う間に倒しちゃうなんて!」

「首都の冒険者ギルド的に言えば、これはCランク冒険者のパーティーの手ごろな獲物ってところだな」


 その後、俺たちは洞窟内にいたゴブリンを適当に殲滅し、最深部にある魔鉱石を採取した。


「さ、さすがわたくしの見込んだ殿方ですわ。これからもわたくしの事業を助けて下さいまし」


 帰り道、アイラお嬢さまはずっと顔を赤くして、モジモジまごまごしていた。

 二泊三日の冒険訓練を終えて、俺は我が家に帰った。

 家の畑では、豆がいい感じに実をつけていた。

 そろそろ収穫だな。


 万事順調。つつがなし。

 アイラお嬢さまを一度死なせてしまったことは、俺だけしか知らない秘密だ。 

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