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05 ご令嬢の興した教育事業にスカウトされた

 つつがなく辺境の村で畑仕事をして過ごし、約一年が経った。

 そんなある日、また伯爵令嬢のアイラさまが俺たちの村にやってきた。


「レン、お久しぶりですわね」

「どうも。お嬢さまにあらせられましてはご健勝のようでなにより」


 ぶっちゃけこのお嬢さまが来るとトラブルの匂いしかしないんで、来てほしくはないんだが。

 俺は目立たずのんびり生きていたいんだ。


「このたび、わたくしは人材育成のための学院のようなものを建てることになりましたの」

「それは景気のいい話ですね」


 お嬢さまも将来的にはこの辺境伯領を切り盛りしなければいけないご身分だ。

 自身の右腕となって働く有能な官僚を育てなければいけないのだろう。

 領地の中に高等教育機関があれば、領地の生産力や技術力も上がったりしていいことだしな。


「ひいてはレンにも教職員のポストを用意してましてよ。若者たちに武術や魔法を教えてくださらないこと?」

「俺、畑仕事あるし無理です。そもそも俺の時魔法は適性がないと教えても身にならないと思いますよ」


 武術教官だって、俺より腕の立つ元冒険者や元兵士なんて、探せばごまんといるからな。


「村の仕事に関しては心配いりませんわ。学院は、この村の中に建てるつもりですから」

「えぇー……」


 結局、それほど大きくない私塾のような教育施設が、俺たちの村に建設された。


 俺は村での畑仕事の合間に、その学び舎で武術やサバイバル知識、モンスターについての知識などを教える臨時教官になってしまった。

 時魔法は教えても意味はないが、他の基礎的な魔法を素人に教えるくらいはできるしな。

 これでも青春時代の総てを冒険者稼業に費やした身分なので。


「だいたいどんなモンスターも、頸とか眉間とかが弱点だ。先手必勝でガーンってやっちまえば殺せる」

「わかりました、レン教官!」

「急所を狙うのにてこずりそうなら、先に脚を狙え。動けなくすればこっちの勝ちだ」


 そんなことを若者たちに適当に教えたり、相変わらず畑の面倒を見たりして日々を過ごす。



「どう? レンの目から見て有望な子はいまして?」


 収穫した大麦を酒に加工するための仕込み作業を手伝っていたら、アイラお嬢さまが話しかけてきた。

 学院をうちの村に建ててから、ずいぶん頻繁に来るようになったな。

 ヒマなのか、伯爵令嬢ってのは。


「バッツっていう男の子と、リナって女の子がいいんじゃないかと思いますね」


 バッツは生意気だがその分利発で目端が効く、要領のいいタイプ。

 リナはひたむきで真面目で頑張り屋、誰にでも分け隔てなく優しくする天使のような子だ。


「そうですの。では一度、その二人とわたくしとレンの四人で、実戦形式の冒険に出たいと思うのですけれど、よろしくて?」

「えぇー……なんでそういう話になるの」

「座学や村の中での訓練で得られる物には限界がありますわ。実地に勝る教材なし。わたくしもこれから領地を切り盛りしていく身分ですから、危険な仕事が自分の領地に存在することをこの身を持って知らなければなりませんし」


 意識高いなあ。


「お嬢さまは、武器とか魔法とかは使えるんですか?」

「貴族のたしなみですもの、一通りは身に着けておりますわ。我が家の方針は文武両道の質実剛健でしてよ」


 その割には、前に暴漢に襲われたときにちびってた気がするんだけどな。


 

 とにもかくにも、お嬢さまのご意向は変わらないようなので俺は冒険の準備をしなければならないようだ。

 村を留守にしている間、作物の面倒を見られないのが気にかかるな。

 今のうちに成長促進の時魔法をたっぷりかけておこう。


「じゃあ、畑のことはよろしく」

「おう、ちゃんと見ておくで心配するな。気を付けて行ってくるんじゃぞ」


 俺は爺ちゃんに作物の管理をゆだねて、冒険訓練に出る。


「へへへ、なんかワクワクするな!」


 バッツという男の子は、気負っている様子もなくいつも通り、明るい雰囲気だ。


「あ、足手まといにならないように、頑張ります!」


 リナという女の子は、やはりいつも通り、真面目である。


「さあ皆さん、行きますわよ!」


 質素堅実な冒険者風の衣服に身を包んだアイラお嬢さまが、出発の号令をかける。


 村から近い山と、そこにある洞窟をちょっと探検するだけの旅だ。


 だから俺は、あんなことが起こるなんて、夢にも思っていなかった。

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