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03 辺境伯のご令嬢と知り合いになった

「ここが問題の村ですわね」

「さようにございます、アイラお嬢さま」


 俺の住んでいる辺境の村に、なにやら偉そうな連中が来た。

 どうも辺境伯のご令嬢と、そのおつきの武官らしい。


 なんでも村の収穫が一気に増え、それに応じて収めた税も常識外れに急増したことを不思議がって視察に来たらしい。

 歳の若いお嬢様と言っても、そこは辺境伯の身内である。

 彼女が大人になったのちには、この村を含めた一帯がこのアイラお嬢さまの直轄領になる予定なのだそうだ。


「スゲーな、あの竜巻みたいな髪の毛。どうやって整えてるんだ」

「レン、あんまりじろじろ見てたら、不敬だなんだっていちゃもんつけられるわよ」


 俺と幼馴染のユリィは、お嬢さまご一行の様子を遠巻きに見ている。

 偉い人たちの相手をするのは村長の仕事だろうから、俺たちには関係ない。

 いつも通り、畑の手入れと見回りに精を出すか。


 そう思っていたのもつかの間。


「ヒャッハー! この村に令嬢が来てるって情報は本当だったんだな!」

「こいつをさらっちまえば、領主からたんまり身代金がとれるってもんだぜ!」


 どこからともなく悪漢たちが躍り出て、お嬢さまご一行を取り囲んだ!

 いやマジでどこから出て来たんだよ。

 そろそろこの村にも、丈夫な柵とか作ったり、見張りを置いた方がいいよな。


 それはさておき。


「俺の優雅なセカンドライフを邪魔するんじゃねえ!」


 その辺に落ちていた少し大きめの石を手に持って、俺は悪漢の一人を思いっきりぶん殴った。

 頭蓋骨が割れた手ごたえがあった。

 死んだなこれは。


「て、てめえ! なにしやがる!」

「うるせえ! てめえも死ね!」


 相手の股間を蹴りあげて終わり。


 他の悪者たちは、アイラお嬢さまの護衛をしていた武官たちがやっつけてくれたようだ。

 俺が手を出さなくても問題なかったかもしれないな。


「レンちゃん! 大丈夫ニャ!?」


 騒ぎを聞きつけて、猫獣人のマヤが俺のもとに駆けつけて心配してくれた。


「別に大丈夫だぞ。マヤも飯屋の仕事中だろ。抜け出してサボってるとユリィに説教されるぞ」

「そんなつまらないことでいちいち怒るわけないでしょ!」


 あ、ユリィもこの場にいたんだったな。

 失言を聞かれてしまった。

 つーかこいつは家の仕事を健気な猫娘にやらせて、なにサボって歩いてんだ毎日毎日。


「あ、あわ、あわわわ……」


 俺らがそんな和やかに話している一方で、伯爵令嬢、アイラどのはご失禁あそばされていた。

 いわゆるひとつの、おもらしである。

 横では血まみれだったり頭が陥没してたりする悪漢どものご遺体が横たわっているのだから無理もないが。


「こういうのはあれだ、見なかったことにして立ち去るべきだな」

「……お、お待ちなさい!」


 逃げ出そうとしたが、呼びとめられてしまった。

 なんだろう、お嬢さまの恥ずかしいところを見てしまった罪で死刑、とか言われるんだろうか。


「こ、このたびは、助かりましたわ。感謝いたします」

「それよりも早く着替えた方がいいニャ。かぶれるニャよ」


 空気読め、マヤ空気読め。


「お、お礼と言ってはなんですけれど、このわたくしにできることであれば、なんなりと言ってくださいまし。できる限り、この村のために力を尽くしたいと思いますわ」

「そういう難しいことは、村長と話してくれませんかね。俺はしがない村人その一なんで」

「わたくしは、あなたとお話しているのですわ。せめてお名前をお聞かせ願えますかしら?」

「はあ、レンって言います」

「レンさま。覚えておきますわ。では、また会うこともあるでしょう。わたくしのことも、忘れないでくださいまし」


 そう言って、下半身を濡らしたまま、アイラお嬢さまは優雅に立ち去った。

 うーん、あのお嬢さまがこの村に来ないのが、一番平和な気もするんだがな。

 それを言ってしまうとやはり不敬だなんだと処罰されそうなので言わないことにした。


 その後、俺はふと思いついて酒蔵の酒に時魔法をかけてみた。

 蒸留酒がいい感じに熟成して、深い味わいになった。

 

 村長はその酒をアイラお嬢さまに献上した。

 伯爵家の中でうちの村の酒がちょっとした名物になったのは、余談である。


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