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02 小さいけど土地を貰った、ついでに奴隷を解放した

 冒険者を辞めて故郷に帰ってきた俺を、爺ちゃんは快く迎えてくれた。


「まあ都会で切った張ったするだけが人生じゃないわい。ワシの畑を少し分けてやるから、豆でもなんでも育てながらこれからのことを考えるとええわ」


 その言葉に甘えて、俺は早速、畑で豆を育てることにした。


 畑仕事をしながら穏やかな日々が過ぎた、ある日。


「……アンタのところの畑、やけに豆の生育が早いわね」


 幼馴染のユリィが俺の畑を覗いてそんな感想を漏らした。


「そうかな。一応、時魔法を使って育ててみたんだが」

「この分だとずいぶん早く収穫できるんじゃない? 商人が買い付けに来たら、高値で売れるかもね」


 真面目に野良仕事していたのを神様も認めてくれたのか、俺の育てた豆は早期に、大量に収穫することができた。

 ちょうどその頃、村に行商人が来た。


「もう豆が採れたんですか? よければ買わせていただきたいんですけど、どうでしょう?」

「うーん、爺ちゃんと相談してみないと……」


 食料は自分の家で食べる分、及び村の備蓄の分とかも考えなければいけない。

 ホイホイと金銭に換えてばかりもいられないのだ。


「金銭以外でも、私が取り扱っている他の商品と交換でも構いませんよ?」

「へえ、どんな商品を取り扱ってるのか、とりあえず見せてよ」


 商人は幌馬車の中にある荷物、商材を俺に見せてくれた。

 貴金属、武器や防具、香辛料、などなどいろいろな品目がある、が。


「あニャ?」


 どこかで見たような、猫耳の女の子がいた。

 首都の冒険者ギルド、そこのラウンジで給仕さんをやっていた猫系獣人の女の子だ。

 手かせをはめられている……。


「こいつはマヤという名の猫獣人で、ありていに言うと奴隷ですね」


 商人はあっけらかんとそう言った。


「なんで奴隷なんかに身を落としてるのさ……」

「借金のカタに、親に売られちゃったんだニャァ……」


 俺の質問に、哀愁を漂わせてマヤという名の猫耳は答えた。


「商人さん、この子、買います。っていうか解放してあげて。一応、顔見知りなんで……」

「それは構いませんけど、豆との取引だけじゃ足りませんよ、お客さん」


 俺は街の冒険者ギルドを去る前に、シュウザから貰った手切れ金も上乗せして、マヤを買い受けることにした。


「これだけいただければ、ええもう充分です。これからもごひいきに」


 次にこの商人が来ても、きっと俺はもう取引しないだろうなと心の中でつぶやいた。


「ん、なんじゃ、レン、お前、そういう猫耳娘が趣味じゃったんか?」

「別にそういうんじゃない」


 マヤを解放したことで、俺は無一文になってしまった。

 実家暮らしだし、畑もあるんで真面目に野良仕事してれば特に困らないから、そこは問題ないか。


「料理と掃除と裁縫くらいならできるニャン! この恩は働いて返すニャンよ!」

「自由にしていいんだぞ、もう奴隷じゃないんだから」


 結局、マヤは俺と爺ちゃんと一緒に暮らし、村に一軒だけある飯屋で働くことにしたようだ。

 爺ちゃんも俺もいいって言ってるのに、家に律儀に給料のほとんどを入れてくれる。


 

 俺は豆の次は麦を育てることにした。

 やはり他の畑よりも俺の畑の方が生育が早い。


「ただの顔見知りのために、全財産はたいちゃうなんてねえ」


 俺の畑を観察するのが趣味にでもなっているのか、ユリィが顔を出してそう言った。

 村にある飯屋というのは、ユリィの実家でもある。


「冒険を終えて戻ったときに、あの子がいつも笑顔で酒を注いでくれたんだよ。それに随分救われたからな」

「確かに良い子よね。仕事は真面目だし、愛嬌もあるし。ほっとけない気持ちはわかるかも」

「だろ? お前もいじめたりすんなよ」

「しないわよっ」


 ユリィも面倒見はイイやつなので、マヤとも仲良くなってくれるだろう。

 

 小麦も順調に、やはり他の畑より早く生育した。


 村中の農家が俺を訪れて、自分の家の畑にも時魔法をかけてくれないかと頼んで来るようになった。


「俺が見れる範囲にも限界があるんだけど」

「そこはまあ、余裕があるときだけでもいいから、頼むよ」


 村長にもそう言われてしまったので、俺は自分の畑以外にも定期的に時魔法を施すことになった。


 村全体の畑が生育が早くなり、村の収穫と備蓄が増えたことで、問題も発生した。

 盗賊団が村を襲ってくるようになったのだ。


「首になったとはいえ元Sクラス冒険者パーティーの一員をナメんなぁ!」


 時魔法云々はまったく使わず、俺は地力で盗賊団を撃退して村を守った。

 辺境の村を襲うようなちんけな盗賊に負けるほど、衰えてはいないのだ。


「あ、アンタ、ホントに強かったのね……」


 なんかユリィが顔を赤くしている。

 熱でもあるのか。さっさと寝ろ。


「この歳まで最前線で冒険者稼業やってたわけだからな」


 そんなことよりも俺は、次に畑に植える作物は何にしようかということで頭がいっぱいだった。

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