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18 辺境伯ご令嬢主催の文化祭が開催された

「学問の秋、芸術の秋ですわ!」

「もう秋だったのか。ここのところ忙しいから季節感覚が無くなってたわ」


 そんな秋のある日、ご令嬢のアイラは上機嫌だった。

 かねてから計画していた、辺境民の辺境民による辺境民のための学術、魔法大会を無事に開催できたからだ。

 正式名称は「辺境領・秋の文化学術祭」である。


「俺は特にすることないから、いつも通り畑仕事だがな」

「なにをおっしゃっているのかしら!? レンには特別審査員の任務がありましてよ!」

「聞いてねえよ」

「だから今言っているのですわ」


 一事が万事、このお嬢さまはこんな調子だからもう驚かない。


 競技大会の内容は、学術分野、魔法分野での研究成果を発表するという、真面目で地味なものだ。

 それだけでは村人や一般の来訪者にとって退屈なので、音楽、舞踊、演劇、絵画、彫刻などの制作物発表の機会も設けている。

 おまけに村のいたるところに出店、屋台が立ち並んで、かなり大規模な祭りの様相を呈していた。


「もぐもぐ。実に華やかな祭りでござるな。この揚げイモも美味でござる」


 冒険者稼業を小休止して、田舎見物をしている東方剣士のイスカも楽しんでいるようだ。


「イネの作付けを教えてくれてありがとうな。おかげでもうじき収穫できそうだ」

「なんのなんの、お安い御用でござるよ。いいコメが採れれば拙者も美味い飯が食えてうぃんうぃんでござるゆえ」


 イスカはこの村に来るなり、温泉施設の宿泊個室を長期間借り切って、ひたすら食っちゃ寝していた。

 さすがSランク冒険者、金が有り余っていると見える。

 それでも太らないんだからコイツの基礎代謝量はどうなっているんだか。


「しかし、審査員なあ。魔法なら多少はわかるが、他の学問や芸術に関しては俺はさっぱりわからんぞ」

「レンどのはご自身の魔法研究の成果発表はしておらんのでござるか?」

「してないな。どうせ他の奴に使える魔法じゃないし、発表してもあまり意味がない」


 研究発表ってのは、それをして更なる発展が期待できるからこそするものだ。

 俺以外には使えない、再現性のない魔法に関する研究を発表したところで、それ以上の発展の余地はないからな。


「拙者は魔法については全く門外漢でござるが、少々もったいない気もするでござるな。貴重な力でござろうに」

「イスカさん、ドラゴンスレイヤ―なんだろ。そのときはどうやって倒したんだよ」


 この女サムライは確か、以前に邪竜神だかを切り刻んだことがあるはずだ。

 そのときは魔法の力を借りたりはしなかったのだろうか。


「仲間に身体強化の魔法と武器強化の魔法をかけてもらっただけにござる」

「それだけでドラゴンをナマス切りにできちゃうんだなあ……」

「もっとも、拙者は『すてえたす』が『かんすと』しているらしく、強化魔法の効果は無かったようでなのでござるが」


 真面目に修行している他の冒険者や兵士が可哀想になる話だった。


 さて、魔法学研究発表の最優秀賞は、わが村の少年警邏隊士期待の若手、リナが受賞した。


「パーティーの斥候に敵感知能力強化魔法を施した場合の索敵能力の向上度合いとパーティーの安全性向上における相関性」という、とても地味で堅実なテーマに取り組んだようだ。

 研究に協力した斥候役は、もちろんリナの同期で相棒の、バッツである。


「みなさま、とても質の高い発表をしていただき、わたくしも鼻が高いですわ~」


 アイラお嬢さまもご満悦。

 魔法や学問の研究発表イベントを主催した、ということで貴族仲間や偉い学者先生から、ずいぶんといい評判をもらったらしい。

 村人や一般来訪者が盛り上がっているのは、出店の食べ物や踊りや歌なんかの芸能発表がメインだと思うがな。

 

「半年後の春は武芸大会を開くんだったか」

「そうですわよ! 秋の文化学術祭と春の武芸体育祭、文武両道を重視する我が一族の誇りにかけて、必ずこの地に根付かせてみせますわ~!」


 右手に焼いた鳥モモ肉、左手に魚の串焼きを持って交互に頬張っているイスカが、それを聞いて発奮していた。


「むぐむぐ。武芸大会でござるか! 拙者も出られるのでござろうかな? ごっくん」


 話すか喋るか、どっちかにしろ。


「も、申し訳ありませんが、辺境領内の出身者に参加資格はしぼらせていたいだいておりますわ。旅の冒険者のかたの参加は、ちょっと……」


 当然のようにアイラに断られた。

 イスカさんが出たらなんの面白味もない大会になっちまうからな。

 田舎の地方大会に救国レベルの英雄が出場されたら興ざめでかなわん。

 審査員席に座ってもらうくらいなら、いいかもしれないが。


 ともあれ、秋の文化学術祭はめでたく盛況のうちに幕を閉じた。


「ふふん、やるじゃないのお嬢さま。でもあたしだって負けてないわよ」


 その様子を見ながら、俺の幼馴染であり複合型温泉施設の総支配人であるユリィは、不敵に笑うのであった。

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