17 大規模討伐ミッションに参加した・後編
寄せ集められた冒険者は、およそ40名。
その誰もがSクラス、もしくはAクラスのパーティーに所属しているつわものたちだ。
一時的にSクラスに所属していたことが有るだけの俺とは、体つきも面構えも雰囲気も、まるで違った。
要するに俺は後ろの方に引っこんでいても楽ができるということだ。
シュウザは討伐隊の先頭に立ち、大所帯を率いて指揮している。
俺は東方出身のカタナ使い、イスカと一緒に隊の後ろの方に位置どって進んでいた。
「人数が多いせいで、みな浮き足立っているでござる……」
討伐隊が明らかに油断している様子を見て、イスカが危惧していた。
「つうても、魔法も白兵戦もかなりの達人が揃ってるし、楽勝じゃねえのか?」
「それだけで勝てる相手なら、拙者たちもおめおめ逃げ帰ってはいないのでござる」
敵の城に近付くにつれて、足場が悪くなってきた。
平原が湿地帯に変わり、さらには毒の沼地になっているというゾーンだなこれは。
もちろん、前もって毒無効の補助魔法をかけてもらっているので、ダメージはないのだが。
「霧が出て来たでござるな……」
「視界が悪くなってきたな。前の奴らはどうなってる?」
耳を澄ますと、人間の悲鳴、雄叫びが聞こえてきた。
「やられてんじゃねーか! 敵襲か?」
「シュウザどのが危ないでござる!」
俺とイスカは必死で駆けて、前を進んでいた隊員に合流する。
彼らは泥のような不定形の姿の、毒々しい巨大モンスターに襲われていた。
「毒の沼地を発生させてたのはこいつか? 毒気のある泥がそのままモンスター化したような存在だなこりゃ」
「あ、ああ、シュウザどの……こんなバカな……」
見ると、泥で窒息か何かして、息絶えていたシュウザが横たわっていた。
そうだね、いくら毒を無効化したからって、窒息を防ぐ手段はないよね。
「はいはいやり直しやり直しっと」
俺は時魔法で時間を戻し、討伐隊が毒の沼地エリアに入る前の状態から仕切り直すことにした。
「おーいみんな、この沼自体がたちの悪いモンスターになってるぞ。ホイホい進んでたら、引きずられて窒息して死ぬぞ」
俺が隊のみんなに向かってそう教える。
「ま、マジか」
「蒸発させちゃう?」
「そだな。火炎系魔法が得意な奴、頼むわ」
「炎の壁で隊列を守るのもいいんじゃないかしら」
「いっそ凍らせてその上を普通に歩いて行けばいいんじゃね?」
上位クラスの冒険者たちが勢ぞろいしているので、攻略法を勝手に考えて対処してくれるのが楽でありがたいな。
その後も、先導するシュウザたちが予期せぬ罠や初見殺しのモンスターに殺されて。
俺が時間を巻き戻して。
モンスターの情報を一同に伝えて。
だれかしらがその攻略法をサクッと編み出してくれて。
いつぞやの狐神さまのダンジョンは、確か256回の挑戦で攻略したはずだが、今回は16回の挑戦で事が済んだ。
今、俺たち討伐隊は、誰ひとり欠けることもなく、敵のボスがいる廃城の、玉座の間に侵入している。
「こしゃくな人間どもめ! 一人残らずわが兵たちのエサにしてくれるわ!」
玉座に座るのは、情報通りに上位悪魔、アークデーモン。
そいつを守る騎士のように、重装備で身を固めたオークや、骸骨戦士が並んでいる。
ここに来るまでに雑魚も相当な数を退治した。
玉座の間にいる敵の総数はせいぜい50体というところだ。
一流冒険者の集団であるこちらが不覚を取ることは、まあないだろう。
と思っていた時期が、俺にもありました……。
「今こそ封印を解くとき! いでよ、いにしえの時代に世界を滅ぼした巨人、その末裔よ!」
アークデーモンが魔方陣を前にして、なにやら叫んだ。
「ギガァァァン……」
一つ目の巨人が現れた。
少なくとも俺はお目にかかったことのない、かなりレアなモンスターだな。
「レンどの、ヤツは危ない! お下がりくだされ!」
「時よ止まれ……あれ?」
俺の身を下がらせようと、俺の肩に手をかけたイスカ。
そして、そのタイミングで時間停止魔法を使ってしまった、俺。
「ど、どうなっているでござる……?」
「さあ……?」
停止した、なにも動く物のない時間と空間の中で。
俺の他に、イスカも、動けていた。
時魔法の発動時に、俺の体に触れていた奴は、俺と同じく時間停止中も動けるようだな。
「あ、とにかく、あれだ。今なら敵を凹り放題なんで、イスカさんはあの、一つ目玉の巨人を切り刻んでくれ」
「う、うむ、よくわからぬが、心得た!」
そう言ってイスカは弾丸のように飛び出し、敵に向かって行った。
閃光のような眼にもとまらぬ速さの斬撃を無数に繰り出し、あっという間に巨人をミンチに加工した。
その勢いでイスカは敵の首魁、アークデーモンの体もバラバラに切り刻む。
「魔力の限界だな。時間よ、再び動き出せ!」
俺が時間停止を解く。
いつの間にか巨人とアークデーモンが原形をとどめない肉片と血液に変化していたので、冒険者たちも、敵のザコ兵も、わけがわからず混乱している。
「はーっはっはぁ! 今宵のムラマサは血に飢えてござるぞ!!」
そんな空間で、イスカは嬌声を放ちながら、残った敵兵を惨殺して行った。
討伐ミッションは、めでたく無事に完了した。
15回ほどシュウザは死んだり戻ったりしたんだが、それを知るのは俺だけだ。
「た、助かったよ、レン」
いまいちなにが起こったのか理解していない感じのシュウザ。
「報酬が出たら村に送ってくれ。俺はもう帰るからよ」
「あ、待つでござるよ、レンどの!」
村に帰ろうとした俺を、イスカが呼び止める。
「なんだい」
「レンどの、イネを育ててると申されたな? 拙者が作り方を伝授するでござる! これでも実家は百姓でござるからな!」
「それはありがたいけど、冒険の方はいいのか?」
「なあに、構わんでござる! シュウザどの、悪いが拙者はしばらくレンどのの村に物見に行くでござる! 拙者がいない間、体に気を付けて無理をせぬように!」
貴重な最大戦力をパーティーから失って、シュウザはぽかんと大口を開けていた。
なんだかシュウザに悪いなと思いながらも、俺は村に戻った。
イネが無事に実ったら、どんな味のする実が収穫できるのだろうかと、楽しみに想像しながら。
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