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14 モンスターを捕獲しに行った

「ふと思ったんですけど、アイラお嬢さまがわざわざ自分でモンスター捕獲に出向く必要はないんじゃ……」


 村から少し離れた山の中。

 モンスター捕獲に来ているメンバーの中、最年少で生真面目担当のリナという少女隊員が、そう漏らした。


「な、なんですのリナさん!? わたくしが役立たずだからといってのけ者にしたいんですの!?」

「い、いえ、決してそのような」


 リナの目が若干泳いでいる。

 アイラお嬢さまの名誉のために俺からも言わせてもらうと、彼女のスペックは決して低くはない。

 これと言って突出したスキルや才能はない半面、白兵戦も魔法もそこそここなせるし、貴族なので教養も高いからなんだかんだ知識も豊富である。

 

 ただ、あまりにも運が悪く、ちょくちょくひどい目に遭うのだ。

 安全のためにも、村の中で大人しくしてくれた方が、みんなの気苦労が無くて済むのだが。


「あ、ゾンビウルフがいましてよ! さっそく弱らせて捕獲ですわ!」


 まあ、一年前はゾンビウルフ程度にビビっていたアイラお嬢さまも、今となってはすっかりたくましくなったものだと認めてやらなければいけないな。


 俺たちはその後も、この山の中に頻繁に表れるゾンビウルフを捕まえて、適当な樹木に縄で縛りつけて、ということを繰り返す。

 モンスターの捕獲はアイラお嬢、バッツ、リナにほぼ任せて、俺は食料調達のために鹿を狩って解体した。

 今夜は山の中でキャンプ、食事は鹿焼肉だ。


「アイラ姉ちゃん、どれくらい捕まえればいいんだ?」


 食事の中でバッツがアイラに聞く。


「ゾンビウルフばかりでは面白くありませんわ。なにか目玉になるような、珍しいモンスターを一つ二つ、捕まえたいところですわね」

「それはいいのですけど、私たちにそんな魔物を狩ることができるのでしょうか……」


 能天気なお嬢様の発言に、慎重派のリナはげんなりしている。


 翌日、悪い予感というのは当たるもので、俺たちは少しばかり厄介なモンスターに遭遇してしまった。


「め、メタルゴーレムですわ~!! 私のレベルでは太刀打ちできませんのことよ~~~!!」


 調子よく魔物狩りをして森を進んでいたアイラお嬢が、泣きっ面で引き返してきた。


「て、敵の防御力を下げれば、なんとか……!」


 リナがメタルゴーレム相手に、防御低下の魔法をかける。

 しかし、こちらの魔法は敵の障壁に弾かれてしまい、効果がなかった。


「魔法が効かないのかよ!」

「あの手のゴーレムはたいてい、魔法を無効化するぞ」


 焦っているバッツに俺は冷静に教える。


「ご、ゴーレム系の敵は、確か明確な弱点があったはずですわね! 頭部の印章を狙って攻撃すれば!」

「よく知ってるなアイラお嬢さま。よし、女は度胸、ゴーレムの攻撃をかいくぐって懐に潜り込み、頭部の弱点に強烈な一撃をかましてやれ」

「無理ですわ~~~!!」


 アイラが泣き言をわめいている間にも、バッツとリナの若者二人はゴーレムに挟み撃ちでの攻撃を仕掛けて、執拗に頭部の弱点を狙う。


「よし、行ける!」

「トドメです!」


 そしてゴーレムに必殺の一撃を入れようとした、そのとき。


「キシャァァ―――!!」


 どこからともなく奇怪な大声が鳴り響き、植物の「ツタ」が猛烈な勢いで伸びてきた。


「い、いやあああっ!!」


 植物系モンスター、アラクネドラコラのツタ状の触手が、ロリっ子隊士、リナの体に巻きつく!

 敵はメタルゴーレムだけではなかったのだ!


「や、やだ! 見ないで!!」


 触手状の細いツタや太いツタが、リナの体を這い、太ももや胴体に絡みつき、衣服の下に潜り込む。


「り、リナ! ちくしょう化物め! なんてことしやがるいいぞもっとやれ」


 バッツがリナのあられもない姿を見て前かがみになっていた。

 この色ボケクソガキめ。

 ちゃんと仕事しろ。


「ああもう全く。俺はメシの準備もしなきゃならんのに余計な仕事をさせるんじゃねえよ……」


 クロックアップ。

 要するに素早さを猛烈に向上して、俺はいつも通り手持ちのナタでメタルゴーレムの頭部をぶん殴る。

 周りのすべてが止まっているのに俺だけ動けるような感じだが、あくまで加速であって時間停止ではない。

 

「ゴレムムム……」


 弱点を破壊されたメタルゴーレムは、四肢がガラガラと音を建てて崩れ、物言わぬ鉄くずと化した。

 捕獲はできなかったが、この際仕方がないな。


 残るは植物モンスターのアラクネドラコラ。

 まずはリナを拘束している触手ツタを鉈で切り刻んで解放させる。


「ぐ、ぐすっ、ひっく、あ、ありがとうございます、レンさん……」

「アイラお嬢にマントを貸してもらえよ」


 そして、高速行動を駆使して、アラクネドラコラの触手をがんじがらめのぎちぎちに俺は結んだ。


「キ、キィィィ! シャアーーー!!」


 自由に身動きが取れなくなって、アラクネドラコラはジタバタしている。


「よし、みんなでこいつを根っこから抜くぞー」


 俺が音頭を取って、モンスターを土から引っこ抜く準備をする。


「レン、このモンスターは根から抜かれたときに悲鳴を上げて相手を死に至らしめるのではなくって?」

「それ迷信だ。びっくりして腰を抜かしてその隙にモンスターの攻撃を食らって死ぬ冒険者がたまにいるってだけの話だな」

「真実というのは割とつまらないものなのですわね……」


 うんとこどっこいしょ、とみんなでモンスターの根っこを引き抜いた。

 悲鳴はとてもうるさかったが、モンスターの体はがんじがらめに拘束しているので害はなかった。


「さっさと下山するか。こいつは枯れたら死んじまうからな。せっかく生け捕りにしたのに、死なせたらもったいない」


 まだ根っこに土がいくらかついているので、すぐには死なないと思うが。

 早めに村に戻って水をやるなり、植樹し直すなりしないとな。


「これだけ収穫があれば十分ですわね! では皆さま、急いで村に帰りますわよ!」


 珍しいモンスターを捕獲できて、アイラお嬢さま、ご満悦。

 意気揚々と引き揚げる彼女を、帰りの道中で別のモンスターが襲った。


「キャ、キャーーーー! わ、わたくしの、服が! 服が溶かされますわ! なんですのこの緑のネバネバは!?」

「グリーンジェリーデビルだな。なぜか服だけを溶かす粘液を体中から分泌させる、ジェリーデビルの亜種だ」

「れ、レン兄ちゃん、こいつも連れて帰ろうぜ……!」


 バッツは相変わらず鼻の下を伸ばして前かがみになっていた。



 今回のモンスター捕獲任務の、収穫。


 ゾンビウルフ、5頭。

 アラクネドラクラ、1体。

 グリーンジェリーデビル、1匹。


 今回の冒険で失ったもの。


 リナの衣服、一揃い。

 アイラの衣服、一揃い。

 及びその二人の尊厳が、多少。


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