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13 井戸を掘ったら温泉が出てきた

 学院や警邏隊の訓練施設を建てたこと。

 村の生産量が上がって、評判を聞いた移住者が増えたこと。


 そんなことから村の人口は、俺が帰ってきた当初の倍程度に膨れ上がっていた。


「井戸が足りなくて不便だな。新しく掘るか」


 村にある井戸は常に渋滞満員御礼。

 学院や警邏隊の若者たちは水の入手を待ちきれないからと、村はずれの川まで行って水浴びや洗濯をしている始末だ。


 俺は学院や警邏隊の若者たちを、無料で使える労働力として動員しつつ、村の井戸を増設することにした。


「えんやこら、えんやこら」

「よいとまけ、よいとまけ」

「へいへいほー、へいへいほー」


 若者たちが一生懸命働いてくれたおかげで、いくつかのポイントで無事に地下から水が噴出したのだが。


「レン兄ちゃん! 熱いよコレ!」


 バッツの班が、温泉を掘り当ててしまったのだ。

 それを、相変わらず暇そうに村の中をプラプラしているユリィが見て、言った。


「うちの店に近いわね、温泉が出たところ」

「そうだな」


 ユリィの実家は、村でただ一軒の飯屋を営んでいる。


「ちゃんとした温泉施設を建てて、うちの飯屋とくっつけて複合型娯楽施設にするわ! 温泉に入って、飲み食いする施設もあって、ついでにお芝居を見ることができる広場を作ったらどうかしら!」


 ユリィの目が輝いていた。

 これは守銭奴の目つきだ……。


「まあ、お前の家の土地だし、好きにすればいいんじゃね……」

「善は急げね! さっそく学院の子たちを借りて建設に取り掛かるわね!」

「いや、生徒も警邏隊員もお前の奴隷じゃねえんだが……」


 井戸を掘るのは村にとって公益性の高い事業だから、彼らを動員することに問題はなかったと思うがな。

 ユリィの家が興す私的な事業のために、うちの若いもんをタダでこき使うなよ。


 ということを俺は、スポンサーである伯爵令嬢のアイラにチクったのだが。


「学院の生徒や警邏隊員が施設を使う際に優遇していただけるのであれば、よろしいのではなくて? 建築や土木に関わるのも、若者たちにとっていい訓練になりますわ」

「まあ、生徒や隊員たちも積極的に手伝ってるみたいだしな。それならいいか」


 温泉の建設工事は続く。

 俺は遠方から取り寄せた新種のイモやトウモロコシの栽培を試してみて、成功したり失敗したりの日々を送っている。

 出来上がっていく温泉施設を前に、アイラお嬢さまの表情は浮かない。


「悔しいですわ、レン! わたくしもこういう、わかりやすく盛り上がる事業を手掛けたいですわよ!」

「知らんがな。貴族のお勤めをしっかり果たしてくれ」

「わたくしが父上から任されているのは主に教育振興と治安向上に関わる仕事。地味ですわよ~。もっと大衆受けする、民草がどっかんどっかん盛り上がる起死回生の一手が欲しいですわ~」


 地団太を踏んで悔しがる伯爵令嬢であった。

 と言っても、温泉と美食と劇場はユリィたちに先を越されてしまってるからな。


「他に名物になって盛り上がりそうなことなんざ、公営のバクチを作るか、娼館みたいな色街を作るくらいしか思い浮かばんぞ」

「言語道断ですわ! そんな治安を乱す破廉恥な事業をこのわたくしが興すわけにはいかなくってよ!」


 ごもっとも。

 この平和な田舎の村にそんなものを作られても困る。


 教育にも良くて、治安維持にも良くて、なおかつ人々が盛り上がるようななにか。


「領内から優秀な学生や若手の兵士を集めて、技術や知識、魔法力を競わせる大会を年に一回開くとかはどうだ? そこで優勝する栄誉のために学生も兵士もより一層勉強や訓練に身が入るんじゃないか?」

「それですわ~~~!! レン! そうと決まればさっそくモンスターを生け捕りに行きますわよ! 武芸大会でそれらのモンスターをいかに鮮やかに狩ることができるか、若者たちに競わせるんですわ!」


 俺の軽い思い付きを本気にしてしまったアイラお嬢さま。

 彼女につき従い、俺はいつものようにバッツとリナも連れて、山の中にモンスターを狩りに行くのであった。

 



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