12 幼馴染と猫女とご令嬢が誘拐された
本日は、珍しく出張である。
俺は元冒険者ということもあって長旅にも慣れっこなので、遠くの街に村としての公的な用事があるとき、メッセンジャーとして飛ばされることが多いのだ。
今回もうちの村で作っている酒や、乾燥した豆と言った保存食の売買について、ちょっと離れた街に行って交渉してきた。
一仕事終えて村に戻ると、騒ぎが起こっていた。
「お、おいレン、大変じゃ!」
「どうした爺ちゃん。誰かモチでも喉に詰まらせて死んだか」
「辺境伯のご令嬢アイラお嬢さまと、猫娘で飯屋の店員マヤと、お前の幼馴染のユリィが、ならず者たちにさらわれてしまったんじゃ!」
説明紹介台詞的に爺ちゃんがまくし立てた。
よりによって三人いっぺんにさらわれるとは……。
「三人で一緒にいたところを、野盗に襲われたみたいなんだ」
「申し訳ありませんレンさん、私たち警邏班の警戒を縫うように野盗は活動していたようです……」
場数を踏んですっかり頼もしくなった期待の若手、バッツとリナがそう教えてくれた。
とりあえず俺は時間遡行の時魔法を使って、三人がさらわれる前の時間まで戻ろうとした。
しかしいくら念じて願っても、なにも起こらなかった。
「いまいち、うまく使えるときとうまく使えないときとがあるなあ、この魔法……」
時魔法による解決手段を放棄して、俺は正攻法で事件を解決することを考えた。
「相手の要求は身代金か?」
とりあえず情報収集のために、リナに聞く。
「はい、村に手紙が届いてます。この村の収穫がいいので、野盗に狙われたようです」
「手紙を届けたのは誰だよ……」
「村の入り口に、誰も気づかないうちに置かれていたそうです」
それなら追跡もできんな。
村がバカな盗賊に狙われているのは今に始まったことではないが、さてそうなると。
「相手の盗賊は、攫った三人のうちの一人が伯爵令嬢だって知らないんじゃねえのか」
「はい、そのようです。手紙ではそのことが全く触れられていませんので」
バカというか運が悪いというか間の悪い盗賊たちだな……。
これでアイラお嬢さまになにかあったら、盗賊たちはどこに逃げても伯爵直属の兵士に追い回されて、縛り首に遭うか、体中をナマス切りにされるかだろう。
そうは言っても、三人の娘っ子をキズモノにするわけにもいかない。
俺はバッツとリナ、及び数人を救出隊として組織して、身代金受け渡しの現場に向かうのであった。
村からずいぶんと離れた、街道沿い。
誘拐犯たちから指定された、身代金の受け渡し場所に俺は着いた。
バッツやリナたちは近くの茂みに姿を隠して忍ばせている。
「金を持って来たぞー。人質を解放しろー」
俺は自分が武器を持っていないことを手足をぶらぶらさせて相手に示す。
「その革袋の中身を見せろ! 本物の金貨かどうかわからねえからな!」
相手も別の茂みに姿を隠しているが、声のする方向はなんとなくわかった。
俺は革袋の口を広げて、声のする方向に中身を見せる。
ついでにその中から一枚の金貨を取り出し、相手の方に弾いて投げてやった。
「これでいいだろ! 人質を離せ!」
「金貨は本物みてえだな……お前はそのまま両手を上げて、金の入った袋から離れろ! おかしな真似をしたら、可愛いお嬢ちゃんたちがどうなるか、わかってんだろうな?」
「へいへい」
俺はじりじりと袋から距離を取る。
盗賊のうち一人が茂みから姿を現し、袋と中の金貨を確認して、ニヤッと笑う。
男が出てきた茂みからは、まだガサゴソと音がして、人の気配がある。
他の仲間と、攫われた三人もどうやらあそこにいるんだな?
「俺たちの姿が見えるまで、そこを動くんじゃねーぞ? 嬢ちゃんたちはこの先の分かれ道のところに置いていくからよ」
突っ立っている俺から十分に距離を取って、誘拐犯たちが逃げ出そうとする。
俺は全神経、全魔力を集中して、心の中で念じた。
「時よ、止まれッ!!」
止まった。
俺以外のありとあらゆるものが、止まった。
俺は茂みに隠れている盗賊たちの手もとから、まず攫われていた三人娘、ユリィと、マヤと、アイラお嬢さまを一人ずつ運び出す。
とりあえずはバッツとリナが隠れている場所まで三人を連れて行く。
その後、盗賊に持って行かれそうになっている、金貨の詰まった皮袋を回収。
これも若者たちが隠れている場所まで移動運搬。
疲れた……。
人間三人と、人間並みに重い革袋を、一気に持ち運んだせいで、すごく、疲れた……。
時間が停止している中、俺だけがゼーハーゼーハー言って、ものすごく疲労困憊していた。
これ、時間を止めてるせいで魔力の減りも尋常じゃないからだな……。
もう限界だった。
「時間よ、再び動け!」
動き出した時間の中、三人の救出がいつの間にか終わっているのを見て、バッツとリナたち、若者隊が目ん玉をひん剥いて驚いた。
「あとで説明してやるから、お前ら、盗賊どもをとっちめてふんじばってこい……俺は疲れたから、少し、休む……」
「わ、わかったぜレン兄ちゃん!」
「悪党は、許しません!」
血気盛んな若者集団が俺の指示を受けて、やはり混乱している盗賊集団に襲いかかる。
俺はユリィ、マヤ、アイラお嬢さまの口と動きを封じている猿ぐつわや縄をほどき、彼女らを自由にしてやった。
「れ、レン! あ、あたし、もうダメかと思った……!!」
「ありがとうニャァ! 今夜は私を好きにしていいニャ!!」
「び、びえ~~~~~ん、びぇ~~~~~~~ん!!」
とりあえず三人とも元気だな。
無事で何よりだよ。
「オラァ! 死ねェ!」
ズガッ! ザシュッ!
「正義の鉄槌です!」
ドゴォ。グチャァ。
遠巻きには、若者たちが盗賊を殴りまくり斬りまくる打撃音斬撃音が、心地よく響いていた。
「どうせそいつら死罪だから、やりすぎて殺しちまってもかまわんぞー」
若者たちの、いい経験値になってもらうとしよう。
人間のゴミのような盗賊どもでも、使い道や価値という物はあるのだと俺はしみじみ思った。
ところで、助けた三人がずっと俺の体に抱き着いてまとわりついて、一歩も動けんのだが……。
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