01 追放されて覚醒した
こういうのも面白いかなと思って始めてみました。
ご意見ご感想などあればよろしくお願いします。
俺の名はレン。
今年で二十七歳になる冒険者だ。
今日もパーティーの仲間と一緒に、冒険の旅へ出るため、とりあえず冒険者ギルドのロビーに来たのだが。
「レン、お前、クビな。もう来なくていいわ」
パーティーのリーダーであるシュウザに、そう言われてしまった。
「ど、どうしてだよシュウザ、俺たち、上手くやってたじゃないか!」
突然の解雇通告が信じられず、俺は驚きの声をあげた。
苦楽を共にした、固い絆で結ばれたパーティーのはずなんだ。
メンバーの奮闘もあり、先日やっとSランク認定を受けるくらい、素晴らしいパーティーなんだ。
「いや、それは、俺たちがレンを上手くフォローしてただけなんだけどな……」
呆れ顔でシュウザが呟く。
シュウザ以外のメンバーは俺と目を合わせようともしない。
「それに、レンの『時魔法』は、いったいいつになったら覚醒するんだよ。いつまで経っても役立たずのままじゃないか」
「た、確かに俺の魔法は『洗濯物が、気持ち早く乾燥する』くらいの効果しかない、その程度しか時の流れを操作することができないハズレスキルだけど……」
俺のパーソナルスキルは「時魔法」というもの。
使いこなせば時間を意のままに操ることができる、ほぼ禁忌じゃねえのそれというような代物だ。
しかしそんなに美味しい話はそうそう転がっていない。
俺が使って得られる効果はとても限定されたものでしかなかった。
洗濯物を乾かす以外にも、アサガオの芽が少し早く出る、と言った効果もあるんだがな。
「なんにしてもさ、俺たちももう、Sランクのパーティーだから、仲良しこよしだけじゃやっていけないんだよ。レンの代わりにカタナの達人を加入させることにしたんだ」
そう言ってぽん、とシュウザは俺の肩に手を置く。
さらに、金貨の詰まった皮袋を、俺に渡してきた。
「レンの爺さんも、もういい歳だったろ? 帰って畑仕事を手伝って暮らせよ」
手切れ金ということらしい。
呆然と肩を落とす俺を置き去りにして、シュウザたちは冒険の旅に出て行った。
見知らぬ黒髪の剣士もいたが、あれが新加入したカタナの達人とやらなんだろう。
こうして華々しく奇想天外だった俺の冒険者としての日々は、いったん終わった。
新しく仲間を集め直して再出発というのも面倒だ。
シュウザに言われたとおり、田舎に帰って色々考えなおそう。
最後に一杯だけ。
すっかり第二の我が家とも言える場所になった、ギルドのラウンジロビーで、飲み慣れた麦酒を注文する。
「今日は冒険に出ないのかニャ?」
エプロンドレスを着た猫耳少女の給仕さんに聞かれる。
「もう、いいんだ。今日で辞めたんだ。パーティをクビになっちゃったからね」
「ありゃりゃ、長く続けてたのに、勿体ないニャァ」
「仲間以外にはあまり見せたことないんだけど、俺の時魔法を見せてあげるよ。ほら、麦酒のシュワシュワがあっと言う間に無くなっただろ?」
泡が消え失せ、気の抜けた麦酒を俺はぐびりと一息で飲みほした。
「それ、なんの役にたつニャ!?」
うん、誰でもそう思うよな。
通い慣れた冒険者ギルドに心の中で別れを告げて、俺は故郷へ帰ることにした。
せっかくだから帰りの道のりは旅行気分で、色々な街に寄って美味い物を飲み食いし、楽しみながら。
故郷、辺境の村に帰ると、俺の実家の周りに人だかりができていた。
「あ、レン!」
幼馴染のユリィという、俺より四つ年下の……もう少女ではないな、女性もいた。
小さい頃から俺を呼び捨てにする程度に勝気で生意気な女の子だったが、悪いやつではない。
「やあ久し振り、ところでこれはなんの集まり? うちの爺ちゃんがなにか事件でも起こした?」
「え、アンタ、知ってて帰ってきたんじゃないの……? あんたのお爺さん、昨夜、亡くなったのよ……」
「なん……だと……」
「多分、おモチを喉に詰まらせたんだろうって、お医者さんは……」
冒険者も辞めたことだし、これからは孝行してやろうと思っていた矢先に、爺ちゃんが死んだ。
ここに帰って来るまで、のんびり寄り道してたせいで、死に目にも会えなかったなんて。
「……ちくしょう、俺がふらふら遊び歩いてたから、爺ちゃんの最後に間に合わなかった。ごめんよ、爺ちゃん」
俺がそう悔やんで涙を落とした、その瞬間。
世界が、ぐるんと回った。
いや、そう感じた、そういう感じがしたというだけなのだが。
俺の意識が、感じる世界がぐるんぐるんと回って、そして収まった。
気が付くと、俺は故郷の辺境の村ではなく。
冒険者ギルドのラウンジで、気の抜けた麦酒を呷っていた。
「……どういうことだ?」
「ん、どうかしたのかニャ? 飲み物に髪の毛が入ってたくらいでいちいち怒らないでほしいニャン」
見慣れた猫耳の給仕がそこにいる。
「ねえ、給仕さん。今日は何月何日だ?」
「もう酔っ払ったのかニャ!?」
呆れながら彼女が教えてくれた日にち。
俺が冒険者ギルドを去って、故郷に帰ろうとした、その日だった。
俺は帰路についていた数日間を、巻き戻っていた。
「急いで帰れば、爺ちゃんはまだ……!」
俺は全速力で故郷の村に帰った。
わき目もふらず、寄り道もせず、休憩もそこそこにひたすら走った。
実家のある村には「あのときよりも」一日早く、到着することができた。
「あ? レン? アンタ、帰ってきたの? それなら前もって手紙くらい……」
「すまん、急いでるんだ、あとでな!」
幼馴染のユリィに声を掛けられるが、やり過ごして俺は一目散に自分の家に走る。
「爺ちゃんっ!」
「ふごっ!? な、なんじゃあ!?」
ダイニングで、爺ちゃんはモチを食っている途中だった。
良かった、今回は喉を詰まらせては、いないようだ……。
「ゆっくり噛んで、気を付けて食べろよ。トシなんだから」
「余計な世話じゃいっ! お前、わざわざそんなことを言うために帰ってきたんか!?」
ふう、やれやれ。
とりあえずは、一安心。
俺が日にちを巻き戻ったのは、果たして「時魔法」の力が覚醒したからなのか、どうなのか。
まだそれはわからない。
なにはともあれ、俺は冒険者パーティーを追放されて、辺境の村に帰って来た。
これからのんびりと過ごすことができるかどうかは、まだわからなかった。
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