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二七日(ふたなのか)

 ジリリリリリ……!

 ポッポー、ポッポー。

 クルッポー、クルッポー。


「あーもぅ……うるさい!」


 僕は寝ぼけ眼で起き上がり、目覚まし時計を片っ端からバンバンバンッと消していく。


 僕の部屋には目覚まし時計が3つある。


 一つは元から持っていたレトロなベル型のやつ。


 あとの二つは鳩時計。

 そのうち一つは、昨年彼女に誕生日プレゼントとして貰ったものだ。


 去年の “バレンタイン過ぎてるよ” 事件後、数ヶ月してからのこと――。


 彼女はこれまた突然に声をかけてきた。


「欲しいものは何」


 聞かれた僕は戸惑った。


 しかも次の日は5月23日、僕の誕生日。


 既に色眼鏡を装備してしまっていた僕は、阿呆にも浮かれて答えた。


「えぇ? 急に言われても困るけど……強いて言えば目覚まし時計かな。既に2個使ってるけど全然起きられなくって。アハハ……」


 ――そうして明くる日に貰ったのが、このからくり仕掛けの鳩時計なのだ。


「誕生日プレゼントか……。いいかも」


 僕は新たな作戦を思いつき、ニヤリとほくそ笑む。まずは彼女の誕生日をリサーチだ。


 そういえば、何で似たような鳩時計がもう一個うちにあるんだ?


 こんなの、自分じゃ絶対に買わないと思うんだけど。


 うーん……。


 ま、いっか。


 それより、一つ文句を言っておきたいことがある。


「おはよう神さまー。おーい。…………」


 僕が一度死んだあの日以降、神さまは決して僕の呼び掛けに応じないのだ。


 もしかして全部何かの間違いなんじゃないかとも思った。


 ……でも、確かに彼女の記憶は消されてた。

 

 やっぱり神使の責務を果たさねば、僕は再びぽっくり死んでしまうのだろう。


「人に仕事押し付けといてシカトするなんて……どこまで自分勝手なんだよ」


 まあ……元来、神さまというのはそういうものなんだろうけど。


 でもさぁ……。

 

 これじゃあ、彼女の記憶がどんな風に改変されたのか確かめる手立てがないじゃないか。


 僕が新たな作戦を練りつつ登校すると、


「久藤くん」


 教室に入るや否や、早速彼女に声をかけられた。


 意味不明な贈り物、効果てきめんだ!


 僕は心の中で、してやったり、とガッツポーズする。


「聞きたいことがあるの」

「何?」

「放課後、中庭に来て」


 彼女は最低限の文字数で会話を終え、僕の返事を待つことなく席についた。


 やけにつっけんどんだなぁ。僕のことが気になってるくせに。


 まあ、誕生日を聞き出さないといけないし、ちょうどいいや。


 放課後。


 中庭に行くと、木々がさざめき合う中で一人時が止まったように、彼女は微動だにせずベンチに腰かけていた。


 僕はさりげなく近めの距離感で隣に腰を下ろす。


「で、聞きたいことって何?」


 尋ねると、彼女は一瞬口を開きかけて躊躇うように言葉を呑み込む。


 冷酷無比な彼女らしくないじゃないか。


「気にせず何でも言ってみてよ」


 僕は颯爽と脚を組み、大人の余裕を醸し出しながら言う。


 今さら何を言われたところで、傷つく僕ではないさ。なにせ一度死んでるんだからね。


「……おかしなことを言うけど」


 彼女は静かに口を開いた。


「私、久藤くんにチョコをあげた覚えはない」

「?」


 ……それは昨日聞いたけど?

 

 彼女は淡々と続ける。


「でもバレンタイン前日、ハート型の赤い箱を買ったのは覚えてる。100円ショップの」


 えー……。


 あれ100均なんだ。

 大事にとっておいた僕が馬鹿だった。


 今日帰ったら捨てよう。


「母親に聞いたら……その日、私はチョコを手作りしてその箱に入れてたんだって。でも、全然覚えてない。おかしいでしょ」


 彼女は僕の顔を見て言う。


「久藤くんは何か知ってるの」


 鉄仮面のような彼女の顔に、ほんのわずかな不安がよぎった瞬間を見た。


 思わずドキッと心臓が跳ねる。


 命を奪われたとはいえ――。


 つい先日まで恋しくて堪らなかった人を簡単に憎めるほど、僕は歯切れのいい人間ではないのかもしれない。


「知ってるよ。でも教えられない」


 僕は咄嗟に目線を反らし、意地悪を言う。


「どうしたら教えてくれるの」


 彼女は、尋ねると言うより凄むように言う。


 恐ろしくも美しい彼女の顔が、僕の鼻先に近づいてくる。

 蒼白な肌に似つかわしくない赤々と艶のある唇に、思わず目を奪われた。


 僕は沸き上がる衝動をぐっと堪え、飽くまで飄々と言う。


「そうだなー。誕生日と今欲しいものを教えてくれたら、考えてあげてもいいよ」


 彼女は一瞬首を傾げたが、すぐに答えた。


「誕生日は3月3日。欲しいものは、知ってるんでしょ」

「?」

「くまのブーさんのお菓子くれたじゃない」


 もしかして……。


「ブーさんが好きなの?」

「悪い?」


 表情一つ変えずに彼女は言う。


「しかもあのブーさんは数量限定のホワイトデーデザイン缶。激レア品よ」


 そうだったの!


 僕は無意識のうちに、どストライクな贈り物を渡していたらしい。


「オーケー。そしたら3月3日に知ってることを話すから、また放課後ここで会おう」


 彼女は何か言いたげに口を開いたが、僕はそそくさとその場を後にした。


 女の子には期待を持たせるのが大事。


 ……って何かの本に書いてあったからね。


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