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命日

 ある日突然、僕はぽっくり死んだ――。


 生前、僕は若さと身体の丈夫さだけが取り柄の、現役高校生だった。


 平々凡々とした毎日だったけど、密かに片想いしてる人だっていて、僕なりに青春を謳歌していた。


 だからその彼女に、

「好きです。付き合って下さい」

 って言われたとき、確かに思ったよ?


 “明日死んでもいいくらい幸せだ!”


 ってね。


 まさか、本当に死ぬと思ってないもの。


気が付くと、僕は奥行きもわからないほど辺り一面真っ白な世界にいた。


【ぬしが今回の犠牲者か】


 突然、何もない空間から声がした。僕は声の主を探したけど、やっぱり何もない。


【ようこそ、不運な人の子よ】


 僕は混乱していた。


 だって、ついさっき使い慣れたベッドに横になり、明日から始まるリア充生活を夢見ていたところだったんだから。


 夢だといいなと思ったけど、指先の感覚までしっかりあるし。


「あなたは誰ですか?」


【この世界には天界、冥界、現世界がある】


「あの……あなたは……」


【三世界の調和を保つのが我々の仕事】


 うん。

 僕の話を聞くつもりはないみたいだ。もしかして自動音声かな?


【昨今の()()()()()により、天界、冥界は働き盛りが激減している】


 何だろう……急に聞いたことあるような話になってきた。


【そのため定期的に健康な若者を現世界から死に導いている――今回の犠牲者がぬしだ】


「えぇ!」


 そんなしょうもない理由で、僕は人生を奪われたのか!?

 ていうか僕、死んだんだ!


「そんなの納得出来るわけ無いだろ!」


 僕は見えない声の主に激昂する。


【理不尽は承知の上だ】


 声の主が初めて僕の言葉に反応した。どうやら自動音声ではないらしい。


【代償として、ぬしには死後の勤め先を自由に選ぶ権利が与えられている】


 死後の……勤め先?

 死んだ後って天国でのんびり過ごすか、地獄で拷問されるかの二択だと思ってたけど。


【選択肢は三つ――】


 姿無き声の主は言う。


【一つ、天界で老人天使の世話をする】


 老人天使……。

 一瞬、老いたキューピッドの姿を想像してしまい、ウエッと吐きそうになる。


【二つ、冥界で死者に責苦を与える】


 うーん……。

 それは、心優しい僕にはちょっと荷が重すぎるかな。


【三つ、現世界に生き返り我らの手引きをする】


「三つ目でお願いします」


 僕は即答した。


【まあ最後まで聞きなさい】


「いいです。生き返れるなら、それ以外の選択肢には興味ありませんから」


 だって僕にはやり残したことが山ほどある。

 せっかく彼女と付き合うことが出来たのに、まだ手も繋いでないんだから。


【……良かろう】


 ちょっと不服そうだったけど、声の主はそう言って了承した。


 すると――強力な掃除機に吸い込まれるみたいに、たちまち真っ白な世界は煙になって消えていく。

 僕は目を回しそうになった。


「あ……れ……?」


 そして気がつけば、自分のベッドで朝を迎えていた。


 チュンチュンと小鳥がさえずっている。

 やっぱり夢だったんだ、と胸を撫で下ろしたその時。


【ぬしには今日から神の使い、神使となってもらった】


「夢じゃない!?」


 新手のドッキリじゃないかと隠しカメラを探したけど、声は自分の頭の中に直接響いてくる。どうやら、そういうオチでは無さそうだ。


 ていうか神使ってことは、この声の主は神さまなんだ。


 うすうすそんな気がしてたけど。


【神使の仕事は一つ。ぬしのように健康な若人を死に導くこと】


「え……?」


 僕は言葉を失った。


【期限は1年間】


 神さまは慈悲もなく言い放つ。


【それまでに新たな若人を死に導けなかった場合、ぬしには天界あるいは冥界で勤めてもらう】


「は? そんなの聞いてないよ!」


【聞く耳を持たなかったのはぬしであろう】


「うっ……」


 それを言われると、ぐうの音もでない。


「でも、死に導くってどうやって?」


 自殺に見せかけた殺人を行うということだろうか?

 そんなの、科学が進歩した現代では無理な話だ。


【犠牲者に()()()()()()()を与えて欲しい】


「……は?」


 いきなり何言ってるんだろう。全然答えになってない。

 やっぱりこれは自動音声で、急にバグっちゃったとかなのかな?


【我々は人の子に死を与えることができる。しかし、その力はこの世に未練がないほど幸福を感じている者にしか及ぼせない】


【ぬしとて、身に覚えがあるであろう】


 突如として、僕はサァーっと青ざめる。


 確かに片想いしていた彼女に告白されたとき、僕は天にも昇る気持ちだった。大袈裟じゃなく、明日死んでもいいって思った。


 そのとき、ここぞとばかりにこの神さまは僕に死を与えて、本当に天に送ってしまったということか!


 だとすると……。


 いや、本当に、こんなこと考えたくもないけど。


「彼女が僕に告白してきたのは、僕を死に導くためだったの?」


【そうだ】


「……!」


 沸々と怒りが込み上げてくる。


 思い返せば、僕が彼女を好きになったのは、彼女が頻繁に思わせ振りな態度をしてきたからだ。


 僕のピュアな恋心を散々もてあそんだ挙げ句、異世界にポイしたのか……!



 ――許せない。



【言い忘れたが】


 怒りに震える僕が見えているのか知らないけど、神さまは相変わらず淡々と言う。


【神使の使命を全うしたら、神にまつわる一切の記憶を消させてもらう】


「つまり……彼女はまんまと僕を昇天させたけど、今はそのことも全部忘れてのうのうと暮らしてるってこと?」


【そうだ】


 そんなの聞いちゃったら……もう本当に腹が立ってきた。


「ねえ神さま。犠牲者って僕が選んでいいの?」


【健康な若人であれば誰でも構わない】


「そっか。じゃあ僕、次の犠牲者もう決めたよ」



 絶対に彼女を世界で一番幸せにして、必ず復讐してやる――。



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