俺、蛇に転生する。
せまい・・・何処だここ・・・?
俺は弾力のある何かに閉じ込められているようだった。例えるならそう、バランスボールの中、といったところか。
俺はブラックマンバに噛まれて死んだはずでは・・・?
奇跡的に助かったとか・・・?だがここは病院ではなさそうだし・・・。
とりあえず脱出を試みようじゃないか。
手足の感覚は無いが頭で押すことくらいはできそうだしな。
べりべりっ
お?結構簡単に脱出できそうじゃないか?
べりべりべり・・・
よし、頭が出たぞ!!
外の景色を見た瞬間俺は絶句した。
何故ならそこには見覚えのない森が広がっていたのだから。
いや、ホントここ何処・・・?
俺はなんとか謎の物体からはい出した。
よく見たらこれ卵の殻・・・か?
そして気づいた 気づいてしまった。自分に手足が無いことに。全身が鱗に被われていることに。
な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁ!!!!?
完ッ全に蛇じゃねぇかぁぁぁぁぁ!!!!
OK落ち着け俺、まだ慌てるような時間じゃない。
状況を確認しよう。フッ・・・どうやら蛇に噛まれて死んでしまった俺は蛇に転生してしまったようだな。
ってアホかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!
はぁはぁ・・・叫び疲れたぞ・・・実際に叫んでいるわけではないのだが。
これは最近よくある異世界転生的なやつだろう・・・多分。恐らく。きっと。
しかし蛇に転生なんて聞いたことないぞ・・・転生ものっていったら主人公はご都合主義のチート能力で無双するのが定番なのでは・・・?蛇はダメじゃない・・・?
勘違いされがちなのだが蛇という生き物は食物連鎖の中ではかなり低い位置にいる。いくら強力な毒を有していようとマングース等の毒に耐性のある生物には勝てないのだ。天敵がいないのはアナコンダ等、一部の大型だけなのである。
そんなことを考えていると背後からべりべりという音がした。
おおぅ・・・他にも卵あったんだな・・・孵化しそうだが・・・孵化した瞬間に殺し合いになったりしないよな・・・?
俺の転生前の記憶が確かなら蛇が共食いをすることは滅多にないはずだ。更に言うならば蛇は孵化してから1週間は何も食べずとも活動できるはず・・・。
それはそうと俺の知っている蛇よりも身体が大きいような・・・?比較対象が無いからなんとも言えないが体長1m以上はありそうだ。身体の模様も見たことないし。
あれこれ考えているうちに1匹、また1匹と孵化していき合計8匹の蛇が孵化した。
さてどうしたものか。そう思っていた瞬間に状況は一変する。
何かが近づく気配を感じ、俺は咄嗟に姿勢を低くし様子を窺った。
直後、空気を裂くような音と共に飛んできた矢が1匹の蛇の頭を撃ち抜いたのだ。
敵か!?つーか矢ってことは人間か!?
『ちっ!!1匹は仕留めたが既に何匹も孵化してやがる!!』
矢を放ったであろう男が叫ぶ。
『状況は芳しくないわね。殲滅するわよ!!』
リーダーらしき女騎士が指示を出す。
俺は瞬時に逃亡を決意した。
ちくしょう!!全く何言ってるかわからねぇじゃねぇか!!こういうのはご都合主義で言語がわかるもんじゃないのかよッ!!!
兄弟達が本能に従い迎撃を開始する。
くそっ兄弟達には悪いが敵の数的にも勝ち目はないッ・・・すまないが時間を稼いでくれている間に逃げさせてもらうぞッ
俺は敵とは反対の方向に全力で逃亡を開始した。
『4人の犠牲を出しましたが殲滅を完了しました。』
騎士らしき男が報告を行っていた。
『くっ・・・忌々しい魔物共め・・・』
リーダーらしき女騎士の顔は怒りで染まっていた。
『姉さん・・・今回は被害が少なかった方だ。あの魔物、黒蛇は危険度Bのバケモノだ。孵化したてだったからよかったものの生後1週間もすれば戦闘経験を積み国に甚大な被害をもたらしただろう。あいつらの死は決して無駄じゃない。』
そう女騎士に話しかけたのは初撃で1匹の黒蛇を仕留めた弓兵の男だ。
『そんなことはわかっている!!!』
『アルフィネア、アンタは今この部隊をまとめるリーダーなんだ。少し頭を冷やせ。』
『・・・すまない。怒りで我を忘れていたようだ。』
リーダーらしき女騎士 ――アルフィネアは自分の感情を押し殺し謝罪した。
そのとき1人の女騎士が慌てた様子で走って来た。
『アルフィネア様!!レギオス様!!ほ、報告致しますっ!!!』
『何事だ!!』
『討伐した黒蛇が7匹なのに対し、孵化が確認されている卵が8個なのです!!!』
『なんだと!?1匹逃亡していたというのか!? まさか7匹が囮になり1匹を逃がしたというのか!?』
『奴らは知恵のある魔物だ・・・その可能性は高いだろう。』
弓兵の男 ――レギオスは冷静に告げた。
『くそッ!!至急討伐部隊を編成する!!』
騎士達は行動を開始する―― 討ち漏らした黒蛇を殲滅するために。
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