異世界1日目③
息子を亡くした衝撃は、ルミナの心を激しく動揺させる。
股間を抑えながら青くなっているルミナをみて、エムは今更気が付いたように、
「ご・・ごめん。そういえばそんなっこう恥ずかしいよね。気が付かなくてごめん。」
そういうと、一枚のきれいな布をルミナにかぶせた。
「これ、君がいたところ付近に落ちてたけど、取り急ぎはこれで我慢してね。」
どうやらルミナが裸であることを恥ずかしがってるようにみえたらしい。
多大な誤解である。まぁむしろそれが自然の反応なのだが。
「さてと、いろいろと話を聞きたいところだけど、さすがに夜になる前に作業は終わらせたい。ルミ・・ナちゃんだっけ?君もそんな状態じゃつらいだろう。体をふいたりしないといけないだろうし、ご飯とかも必要だろう。」
というわけで、さっさと作業しますか。とエムは立ち上がり、カラになにやら命じる。
激しく頷き首を縦にぶんぶんと動かすカラ。
ちょっと被ってる頭骨がずれては来るものの必至で直し、またぶんぶんと首を縦に振る。
そうして一通りの指示を受けた後、カラは倒れている被害者らしき女性を担ぎ、いそいそと移動を始める。ちなみに倒れている女性の数はかなり多い。一人ずつとなるとかなりの時間を要するだろう。
「じゃあ、行こうかルミナちゃん。まずはここから出よう。」
エムはそういうとルミナの右手を軽く握り、ゆっくりと立たたせた。
ルミナはショック状態のため、なすがままにされる。左手で股間を抑えながら。
暫くエムに連れられていくと、淡い明りが前方からさしてくる。
そして・・・
「ま・・・まぶしいぃ!」
突然の光がショック状態のルミナを現実に戻した。
目にしたのは、明るい太陽光。少し離れたところに生い茂る木々。
自然豊かな光景だった。
振り返ると洞窟らしきものがある。その洞窟から出てきたのだ。やはりゴブリンの巣穴が洞窟なのは定番なんだな。
と、ルミナは思った。
ショックから抜け出たルミナは改めて自分の体を見てみる。
胸を軽く触ってみるもののそんな出ている感じではない。だが、確実に息子がない。やはり女の子になっている。髪は肩まで届く程度のショート。色は金といったところか。
少し前の記憶とはいえ自分好みの青年に仕上げたはずが、何の因果か女体化。
しかも子供ときたもんだ。
そして現状は最悪。
布に包まれたその小さな体には、臭気漂う液体、恐らくゴブリンの唾液によって体中汚染されている。かなりひどい状況だ。
ぶっちゃけだいぶ気持ち悪い。
「とりあえずは・・・体を拭こうか。さすがに臭気とかきついしね。」
一応準備してたんだと、エムは再びルミナを連れて木々の中に入っていく。
暫く進むと、生い茂った木々が少し開け、ちょっとした空き地のような場所に出る。
そこには2,3人が入れそうな大きい釜?のようなものがおいてあり、上部には湯気がかすかに見える。
釜の中には透明な液体が入っており、おそらくお湯を沸かしたと思われるが、釜の下部には炭等の可燃物はなく、そのまま地面に釜が直置きされていた。
そして何より一番不可解なのは、近くに水場らしきものがないことだった。
どこで水を汲んで沸かしたのだろうか。
怪訝な表情を浮かべるルミナには気付かず、エムは次のように説明した。
「お湯を用意しておいたので、これで体を拭いてね。拭くものはこの布でね。布は直接釜に入れないようにして・・・・この容器を使って汲んでね・・・できるかな?」
失礼な。できるにきまってるでしょうが。何歳だと思ってるんだ。
ルミナはとりあえずお湯に手を触れてみる。
ん。。いい温度だ。ちょっと熱めだけど入れないことはない。
「入っちゃっていいのかな?この中に」
拭く程度で気分がすっきりするとは思えない。ぜひ湯船の中でさっぱりしたい。
「・・・・はいる?お湯の中に入る習慣・・・あるんだ。貴族っぽいね。」
エムはちょっと驚いたように答える。
「そうなの?」
「そうだよ。お湯に入るっていう習慣は普通の村ではあまり見ないかな。」
それなりに燃料や雑務が必要なので体を拭いておしまいなのが普通だという。
「まぁお湯に入るのはいいけど、他の人の体拭いたり、僕も使いたいから・・・・そうだなあ。入る前に体を拭いて汚れを落としてからならいいよ。」
お湯を汚さないんでねと暗に言われている。
ま、当然か。
でも一つ分かったことがある。
お湯を用意するのはそれなりにめんどくさいということだ。
つまり水場が近くにあって、すぐに沸かせるとかではないということなのか。
はたまた容器となるものがこれしかないのか。
・・・後で聞いてみることにしよう。
「わかりました。体を拭いてからお湯を汚さないようにします。・・・いいですか?」
だけどお風呂に入るのは譲れない。さっぱりしたい。
「わかった。じゃあ僕はちょっと作業があるから、そっちに行くけど・・・着るものは適当な時間を空けて持ってくるね。」
。。。。なぜ着る物持ってるんだ?
自分のサイズは明らかにエムとは違う。
「べ・・別に趣味とかじゃないからね。この依頼では女性の服が大量に必要になるだろうと思って村からもらってきただけだから。」
そういう理由で女の子の服持ってたんだよ。
と、説明してくれる。
確かに、ゴブリンに攫われている女性は半裸、全裸だった気がする。
それにしても・・自分そんなに顔に出てたかな・・・。エムが慌てふためいてたようにも見えた。
「じゃ・・じゃあ僕はちょっと作業に戻るから、」
なにか逃げるように去っていくエム。何か隠し事があるんかな?
あまり考えても詮無きことだけど。
まぁいっか。とりあえず体を拭こう。臭いのは嫌だ。
ルミナは自分の体を覆っていた布を脱ぎ、全裸となる。
ふと、改めてこの布を見てみる。汚れた体を覆ってたはずなのに、とても清廉なままだ。
これは、夢咲にもらった布?
試しに容器にお湯を汲み布を湿らせてみる。
・・・濡れない・・だと!
お湯に浸けているのに、乾いているように見える。
おかしな表現だが、この布はお湯の中で水をはじいている。
この世界の布は全部こんなのかな?
試しに体を拭くように置いてある布をお湯に浸けてみる。
先ほどの夢咲からもらった布と違い、想像通りに水分をすっていった。
ルミナが知っている普通の布でおきる現象だ。
「まぁ女神からもらった布だからな。」
きっと特別なんだろうと思う。
若干使いづらいような気がしないでもないが、大事にすることにしよう。
体を拭くには使えない女神の布(命名)をとりあえず地面にひき(大事とは)、お湯を汲み、布を浸し、体を拭いていくことにした。
幸い体に付着した臭気のあるものは、拭くときれいに取れていった。
手早く全身を拭き、とりあえず自分から臭気がしなくなるのを確認すると、ルミナはお湯の温度を確かめつつゆっくりと足から浸かっていった。
お湯の温度は一定で、釜の底も特別熱くはなかった。
「やはりここでお湯を沸かしたわけじゃないんだな」
こういった釜でお湯を沸かすと、下部から火をたいたと予想できるが、釜の下部も熱くないし、そもそも釜自体がそれほど熱を持っていない。お湯と同程度というところか。
何より火種がなかった。
どちらかというと釜にお湯を入れたというところだろうか。
なかなか謎仕様である。魔法か何かなのかな?
さすが異世界。
ん・・・・魔法!
そうだ。ここはもう異世界。
悲惨な目にあったけど、希望をもって入ってきた世界。
何より楽しみにしていたことがあったのを忘れていた。
この世界に来たほとんどの理由。
やらねばならぬ。絶対に!
ルミナは拳を握り締め力強く腕を頭上に振り上げる。
「おいでませ!ニューガン!!!」
登録した3機のうちの一つ、ニューガンダム MGを呼び出す。
マスターグレードのシリーズの中で最高峰と呼ばれるほどの出来。
1/100スケールの中で、合わせ目がほとんど出ない。
コクピットの開閉もでき、指が一本一本可動する。
広がるファンネルがかっこいい、まさしくナンバーワンでお気に入りの機体。
期待を寄せて召喚!
したのだが・・・
・・・・・何やら宙に物体が現れ、そのままボテンと地面に落ちる。
そして消える。
え・・・・
もう一度召喚!!
・・・・・何やら宙に物体が現れ、そのままボテンと地面に落ちる。
そして消える。
同じ現象が繰り返される。
なんですとぉおお!
もう一度、気合を入れて念じてみる。
愛が足りないわけがない。俺以上に相棒のことを愛してるやつはいない!
ぐぉおおおおおおおおおおお
「高まれ!俺の小宇宙!目覚めよ!第7感!いでよ召喚!ニューガンMG!!!!!!」
気合十分で念じた召喚は、今度こそあの輝かしい造形のまま出現した。
ぉお!やったあああ!
と思った瞬間、地面にぽてっと落ちて消滅した。
・・・・・・ぐ・・ぐぬううぅうううううう
思わず歯ぎしりをしてしまう。
しかも、最初の2度の召喚の時は感じなかったが、疲労感がある。
これは・・・実力不足・・なのか。
「そんなことありえない!何のために来たのかわからんじゃないかあああ」
意地になって召喚を繰り返す。気合を込めまくる。
絶対に完全体で召喚してやるからなあ!!
10分後、湯船にぷかぷかと浮かぶルミナを救助したのは、着替えを持参し様子を見に来たエムだった。