プロローグ③
夢咲の指が空中で紋章を描く。
その行為は木間氏にとっては空想世界、創造世界でいう魔法に見えた。
暫くすると上空よりきらきらと青い光が舞い降りてくる。
少しビビりつつもその光景に見とれて動くことができなかった。
そして光はゆっくりと木間氏の頭上から溶け込むように木間氏の体を覆った。
と、同時に突如赤い光が出現し、閃光のように木間氏の体を直撃した。衝撃は・・・・なかった。
「終わりました。スキルの行使はここでは行うことができませんので、召喚終了後、ご確認ください。」
最後の赤い光はちょっと怖かった。いや説明しといてほしいわと心の中で思う。
だが、これで相棒たちを動かせる。そして搭乗することもできる。
「ありがとーありがとー。いやー異世界楽しみになってきたなああ。最初裸でここに放りだされたときはどうなるかと思ったわ」
最初は警戒心があってか敬語で話していた木間氏だったが、相棒たちを連れていけるという部分から警戒心などスパッとなくなっていた。
「これだけのお力があれば今後木間氏様にとって不自由のない生活が送れると思います。」
まぁ勇者スキル(フ〇ーザ)だけで無双できるという話だし。不安は無いといえば嘘になるが、テンプレ的になんとかなるんだろうな。
「・・・・・とは思いますが、まだ完ぺきではありません。」
含みを持たせるように夢咲は話を続ける。
「木間氏様はこういうお話をご存知ですか?絶対無敵の肉体を持つ魔王。ギガ〇トラッシュをはじき返した体でも全神経を注いでいなければ、無敵の強度を保っていられない!女の子にだって傷つけられる。この世に本当の無敵の存在なんていないわ・・・というお話です。」
・・・知ってる。というか俺の思考の中で知ったんだろ・・おまえ・・。
夢咲はコホンと軽く口に手を当てて
「スキルはスキルです。勇者のスキルを使用していないとき、あなた様の体はとても弱い。脆弱とすら言っていい。アラ〇ちゃんどころか、ニコちゃ〇大王にも負けます。」
いや。。流石にニコ〇ゃん大王には勝たせてよ・・
「それをカバーするためのスキルがあります。今回は「無条件で」で私「夢咲」が「再生スキル」をプレゼントいたします。」
再生スキル・・・・なんとなくニュアンスで分かるが。
「再生スキルとは瞬時にダメージをなかったことというか、復元するスキルです。このスキルはオンとオフしかなく、オンにすれば如何様なダメージ・・・それが致死ダメージであっても、必ず復元できます。つまり常時オンにしておけば・・」
「絶対に死ぬことはない・・・ということか。」
そうです。と夢咲は多少自慢げに語る。
「いかがでしょうか?木間氏様」
迷うまでもないだろう。
「ありがたくもらっとくよ」
そうこなくては・・と夢咲はさっそく指で空中に紋章を描く。
先ほどのスキル付与の時と同じ所作だ。
勇者スキル、ゴーレム召喚スキル、再生スキルか。
スキルにもいろいろな種類があるらしい。こういった場合どんなのが便利なんだっけか。
木間氏は脳内の残る異世界ライトノベルの中で、必要または有益なものについて列挙していってみようと考えた。
もしかしたらおねだりしたら、まだもらえるかもしれない。
あればあるほど間違いなく便利だろう。
ぶつぶつといろいろ妄想している中、先ほどと同じように青い光がキラキラと舞い降りてきて木間氏の体を覆った。
そして・・・・
赤い光は来なかった。
ぐ・・・ちょっと覚悟を決めたっていうのに、肩透かしだ。こういうパターンもあるのか。
「これで「再生スキル」が付与されました。もう大体無敵ですよ。木間氏様。」
夢咲は満足げな表情をして頷くと、
「木間氏様の新たなる人生に幸あらんこ「ちょっとまってくれ」」
夢咲のセリフが終わる前に口を挟む。
「何でございましょうか?」
「あ・・・言いにくいんだけど・・・もしわがままが言える立場にあるなら、もう少しおねだりしていいか?」
その・・・別のスキルが欲しいんだと、木間氏はお願いしてみる。
夢咲はここにきて初めて困ったような顔をして、
「そうですね。私としては他ならぬ木間氏様のお願いならかなえたいところですが・・・よろしいのですか?」
なにがよろしいのか?よろしくないわけがないと思うのだが。
「この世界「アムネシア」ではスキルは有限で員数管理されています。スキルを付与するとマイナスとなるスキルを付与しないといけません。それでよろしければ付与いたしますが。」
・・・え?
「な・・なんだそれ・・聞いてないぞ!」
思わず声を荒げる。
「ご安心ください、勇者スキルと再生スキルはプロセスにある付与と、私が管理を任されているスキルです。こちらにデメリットはございません。」
「つまり・・・ゴーレム召喚にかんしては・・・・」
「ご明察の通りデメリットとなるスキルが付与されました。ちなみに転移とともに決定されるので現在は確認できません。」
ガチャでぐるぐる回っているようなものです。と夢咲は説明する。
「だから聞いてない!聞いたないぞ、そんな大事なこと先にいってくれよぉお」
「すみません。ゴーレム召喚との優劣を考えると説明してもそう判断すると思いましたので。デメリットスキルに関しましてもスキルを打ち消すものではございません。さほど問題となることはないと思います。ただ・・・」
ただ・・・・なんなのだ?
「新たにデメリットスキルを習得した場合、重なるなど影響しあう可能性があるため、被害が甚大となる恐れがあります。つまり「2種類目」のデメリットスキルは取得しないほうが賢明です」
ぐ・・・思考読んでるだったな。すべて先回りしたっていうことか。
「しかたないか・・・・あ、そうだ。スキルはできないにしても、外見は変更できるんかな。」
これはもう一つの懸念事項。どうせ異世界に行くなら問答無用でかっこいい方がいい。モテたほうがいいのは明白だ。だめでもともとでも言ってみるくらいは・・
「外見ですか。どのようにいたしましょうか?」
え・できるんか・・・
「デメリットはない・・・よな?」
無論ございません‥とのことだった。それならば・・・
「おまかせで」
思考を読んでるんだからこれで問題ないだろう。
「了承いたしました。では・・・」
そういうと夢咲はまたもや空中で指を軽やかに動かし、紋章・・いやちがうな。キーボードをたたくような感じで空中に指を這わす。
暫くすると・・・お・・おおぉお
何か体がムズムズと変化し・・・したようなしないような?ちょっと違和感が残るような感じだ。
「これでいかがでしょう?」
そういうと夢咲は大きな写し鏡を用意してくれた。
どれどれ・・・早速鏡をのぞいてみる。
・・・・・・ん・・・かっこいいのか・・ある意味かっこいいのだが自分の思い描いているものとかなり違う。何か方向性の違いを感じる。あれ?趣味嗜好は読めないってことか?
「いかがでしょう。私の旦那様そっくりですが。もう完璧ですね。」
お前の趣味かああああああああぁあああ
「おい、できれば俺の趣味に合ったのがいいんだが。お前の旦那もかっこいいとは思うが、同じ顔がほかで色々するのは嫌だろ?」
「・・・・そうでした。私としたことが気が付きませんでした。ではどのようにいたしましょうか?」
夢咲は頭をこつんとかわいらしくたたくと、てへっと舌を出す。
ぐ・・・かわいいから何も言えん。ヘタレな木間氏であった。
「身長は15cmほど高く・・・そして目は切れ長で、そうだな・・・ちょっと説明しずらい。俺が設定できないのか?」
「できますよ」
できるんかい!
何でも言ってみるもんだ。
「できるなら俺が直接操作したい。頼む。」
しばらくお待ちを、と夢咲は宙に指で再び紋章を描く。
なんだろ?この女神出来るのか出来ないのかよくわからなくなってきた。
主導権が全く握れない。
夢咲は描いた紋章から何やら指で操作し・・板状の物を紋章から取り出す。
「言語設定・・・デレシア系日本語に設定・・と。ではこれでどうぞ。」
夢咲はその板状の物を木間氏に渡す。
木間氏は受け取って見ると、そこには画面のようなものがあり、いろいろなものが表示されていた。
「木間氏様のステータス一覧です。手で触って変更できます。木間氏様のわかる言葉で言いますと「タブレット操作」で青い色がついているところなら変更できます。」
なるほど。こういうのはネトゲで慣れている。というか、慣れてるからこの形にしてくれたのか。
「編集終了後、私のほうで最終チェックをしないといけませんので、保存ボタンは押せないようになっておりますので安心して操作ください」
この女神は出来るほうだった。木間氏は感心しながら表示項目に目をやる。
スキルは
・勇者
・ゴーレム召喚
・再生
・※※※※
なるほどこの4つ目がデメリットスキルか。確かに表示されていない。そして操作もできないようだ。これなら間違って触っても大丈夫だな。
それではさっそく外観いじりますか。
2時間かかった。いうなかれ。大事な工程なのだよ。(2回目)
鏡に映った自分に満足だった。
外見いじれるのは素晴らしいな。それだけで勝ち組な気がする。
いやもうちょっと身長を伸ばすかとふたたびタブレットに目をやると、ん・・・性別の項もある。なんと・・青色だ。
これは触ってみたい。いやずっと女になりたいわけではないんだ。正直言って男のほうがいいと思ってる。ただちょっとだけ興味るだけなんだ
「女体化」いわゆる男の奥底の願望ってやつだ。
いろいろと心の中で言い訳しながら、こっそり夢咲のほうを見てみる・・・・全く動いていない。なるほど通信中か。
好奇心から木間氏はその部分を編集してみた。
すると・・・むくむくっと体に異変が感じ取れる。主に胸の部分だ。
体が柔らかくなっていく感じがする。そして下を見ると・・・
うぉおおおおおすげぇええええええええ。上から見るとまさにパラダイス。間違いなく巨乳だ!これは鏡で確認しなければならない。それは男として絶対だ。
そうして視線を上に上げると。。。
汚いゾウリムシを見るような夢咲と目が合った。
あ・・・
たらあーっと汗がしたたり落ちる。
「いやあああああ間違えたなああああ。あれぇええ年齢も操作できるのかあああ。」
慌てて年齢の項も操作する。
ババっと下げていくと、12歳くらいのところまで下げたところで、胸の部分は目立たなくなった。
布を体に巻き付けなおす。
ふうっと一息つくと視線を再び上に上げてみる。
夢咲の表情は笑顔に戻っていた。
あぶねぇあぶねぇ。あんな表情・・精神が耐えれん。そもそも自分にロリコンの気は全くない。夢咲もわかってるから表情を元に戻したのだろう。
だが、いじってみてふと気づく
年齢か・・やり直すと考えると若い方がいいかもしれない。
能力はある。なら人生が長くなるようにするべきなんだろうなとおもう。
あまり若すぎても何もできなくなるのでこの年齢が妥当なのかもしれない。
「名前も変更できますよ。」
夢咲が口をはさんできた。
名前?
なんとステータスに名前が入っている。「木間氏忠雄」だ。
「あちらの世界では名前もステータスの一部になります。お気に入りがあれば・・ですが。」
・・・お気に入りか。そんなの決まっている。ずっと使い続けていたHNがある。「ルミナス」だ。
木間氏は名前の部分の編集を実施する。
「ル・・ミ・・・ナ・・!!!!」
がが・・・がが・・・
それは突然だった。
空間が軋み出す。大きな音とともに・・・だ。
何事か!何が起きたんだ!!
一瞬だった。
かろうじて目にしたのは、割れた空間の先で驚愕の表情をした夢咲だった。
俺の意識は、そこで圧迫、フェイドアウトした。
以上召喚プロセスでした。
やっと冒険に出れる。