円卓の生徒会
放課後、俺とトモは宿木先生の指示通りに生徒会室にいた。
人口密度の低さから余計に感じられる、がらんと広い、生徒会室。
いつものことである。
扉に『今日は活動しません』との張り紙をしてある。
余計な来訪者は来ないはずだ。
「ユーマ、その話、本当?」
先にトモには昼休みの件を話している。
案の定、驚きの表情を浮かべた。
「明言はしなかったけどな。ただ、トモにも来るよう指示をしたってことは十中八九、そっち系の話だろう」
「はっきり言わないのが怖いね」
「そうなんだよなぁ……」
俺とトモが最も恐れていることは、二人ともがなす術無く蹂躙され、そっち系の実験なんかのモルモットにされることだ。
飛躍しているとは思うが、俺たちが普通じゃない能力持ちであるのも事実。
最悪の場合、そうなるだろう。
何にせよ、他人に俺たちの秘密を知られるわけにはいかない。
無論、これまで誰にも言っていない(言っても信じないだろう)が、もしものことも考えられる。
「先生が入ってきたら、臨戦態勢をとっておけ。向こうには警戒してることを悟られないようにな」
「わかったよ。物騒だね」
幸い、俺とトモの能力は汎用性の高さに自信がある。
情報秘匿くらいなら、二人で楽勝だろう。
これまでのように。
コツコツと、靴で廊下を歩く音が近づいてきた。
心の準備を決める。
相手は俺たちの秘密を知ってる上に、何をしてくるかわからない。
情報量で圧倒的に後手に回っているのは俺たちだ。
生徒会室の扉がついに開かれる。
「よぉー、二人とも。ちゃんといるな」
口調は完全にいつも通りだ。
だからといって、警戒は解かない。
解けるわけがない。
「先生、単刀直入に聞きます。昼休みに言っていたこと、あれはなんです?」
「何と言われても、そのまんまだよ。お前ら二人とも、超能力持ってるだろ? あ、今更シラを切る必要はないぞ。全部わかってるからな」
「知った上で、どうすると?」
「色々と教えてやろうと思ってな」
「は、え?」
予想外の言葉に思わず間抜けな声が出る。
この人は、俺たちに敵対する存在ではないのかもしれない。
「『ランスロット』、『ガウェイン』が二人まとめているなんて、なかなか凄いパーティだな」
「ランスロット?」
「ガウェイン?」
二人揃って聞き返す。
ランスロットは聞いたことがあるけど、ガウェインって何だ?
「君たちなんだその顔……。もしかして、何も知らないのか?」
「何の話ですか……。知らないですよ、何も」
何も、の部分を強調して言う。
「じゃあ、一から教えてやる。というか、何も知らないでここまでやってこれたって凄いな」
[ユーマ、この人信用していいの? 一応いつでも能力発動できるようにはしてるよ]
[待て待て、暴れるのは最終手段だ。聞けることだけ聞き出そう。俺たちの知らないことを知ってるようだしな]
改めて宿木先生を見る。いつも通りのフランクな態度を崩さず、口調もいつも通り。豊満な胸以外には、ポケットに不自然な膨らみもなく、武器らしきものを隠し持ってるようにも見えない。
「あのー、先生は俺たちの味方ですか?」
先生は肩をすくめて苦笑した。
「いや、そうだよな。確かにそっちの立場からしたら、かなり怪しい存在だよな、私は。でも安心してくれ、味方ではないかもしれないが、断じて敵ではないよ」
「そうですか……わかりました。話を聞かせてください」
[トモ、一応警戒は解いても大丈夫そうだ]
[ラジャ]
「お前らの持っているものは、それぞれ円卓の騎士の名前を冠する異能力だ」
「円卓の騎士? あの伝説の?」
「そうだ。十二人ひとまとまりとする、異能力者がこの世界には存在する。いつからか、その数とかけて円卓の騎士と呼ばれるようになった」
「その中の一人が、オレやユーマってわけかですか?」
「ああ。早蕨、君の能力名は『ランスロット』。円卓の騎士最強と言われた騎士の名を冠する能力だ。須磨、君は『ガウェイン』ランスロットと双璧をなす騎士だ。能力の内容は自分たちで把握してるだろう」
ちょっと待ってくれ!
突然のことで頭が回らない。
とりあえず、俺たちの他に、あと十人は異能力者が存在するのだ。
しかもそれぞれが違う能力だと推測できる。
全員が揃ったら、一体どうなるのか。
興味と不安が同時に押し寄せた。
「人を支配する異能と自分自身の身体能力の増強。二人ともシンプル故にかなり強力な異能だ。お互いが組むことによってより強力になる。君たちが一緒にいるとわかった時、心底驚いたよ」
「そうですか。でも別に、俺たちは能力を悪用したことも、するつもりもありませんよ」
せいぜい都合よく使うくらいのもんだ。未来のことは保証できないけど。
「でも何で、先生がそんなことわかるんです?」
トモがもっともな質問をする。
確かにそうだ。
何故、この人は俺たちの秘密を知ってるのか。
「私の能力は『ケイ』。異能力者のことを探ることができる異能だ。有効範囲はあるがな。居場所、心理状態、能力……その気になればだいたいのことはわかる」
「「先生も異能力者!?」」
「君たちと同世代ではないぞ。一つ前の世代のな。私の能力は特殊で、次の世代に、今のように円卓の存在なんかを伝えてから能力が消えるんだ」
「能力って消えるんですか?」
「ああ、そうだ。死ぬまで消えないこともあるが、どこかのタイミングで消えることが多い。ただ、だいたい子供の時から発現して、二十歳までは消えないことが過去からの経験則でわかっている」
じゃあ、先生の能力もそう遠くないうちに消えるのだろう。
「能力が消えるとどうなるんです?」
「元能力者は普通の人と変わらなくなるな。で、新しい誰かにその能力が発言する」
なるほど。
目立たないよう心がける生活も、早けりゃ三十歳までには終わるわけだ。
……俺の青春返せよ。
「で、結局何が言いたいんです? 先生」とトモが聞く。
そうだ、この人はまだ核心に迫ることを言っていない気がする。
円卓の騎士になぞらえた能力のことを少し喋った程度で帰るとは思わない。
本当は、何しに来たんだ……?
「生徒会、誰か入る予定はあるのか?」
突然、先生が話を変えた。
脈絡のない展開に、二人揃ってキョトンとするしかない。
「いえ、誰も……」
「早蕨、職員室でのことを思い出せ。私は、藤袴も能力者だと言ったろう?」
「……ああ! そんなこと言ってましたね。本当なんですか? それ」
やっとこの人の言いたいことの片鱗が見えてきた気がする。
「彼女のは『アーサー』。この能力は円卓の騎士の特異点であり、最上位でもある。
彼女自身は他の異能の影響を受けないうえに、触れた異能力を完全に打ち消すことができる。だから、早蕨の『ランスロット』はおろか、須磨の『ガウェイン』でパワーを増した拳で殴っても、彼女に触れた瞬間異能は解かれるぞ」
「最強じゃないですか!」
「俺の異能が効かないのか……」
「まぁ、対異能力者において圧倒的優位に立つことができるな。しかもON、OFFの切り替えもなく、常にON状態だ。……入ってきたまえ」
先生が扉の方を向いて声をかける。
「どうもー。お邪魔しまーす」
ペコペコと軽い会釈を繰り返しながら、入ってきたのはやはり藤袴。
ずっと扉の前にいたのか? 全然気づかなかった……。
それほど先生の話に夢中になっていたのかもしれない。
「藤袴、聞こえていたろう? 君は特別の中でも、さらに特別なんだ」
「え、あ、いやでも先生、話が急な上に突飛すぎて、混乱のさなかですよー」
藤袴が俺たち三人を代わる代わる見て、いちいち顔に反応を示す。
コロコロ変わるその表情は面白いし、かわいい。
「無理もないな……。急に言われて『はいそうですか』って信じられることじゃない。……じゃあ、早蕨、須磨。何かやってみせてやれ。異能力の存在を教えてやるんだ」
「いや何故そうなる……。知られない方が良かったんじゃないですか? そもそも、先生がやればいいじゃないですか」
先生の話が本当なら、ランスロットで【なにも聞かなかったことに】もできない。
「私の『ケイ』は自分自身にしか反映されないし、わかりにくいことこの上ない。君たちのはわかりやすいからな」
「早蕨……くん。私、見てみたいです!」
ご丁寧にくん付けですか。
ありがとうございます。
……いや、そんな上目遣いで言われると、やるしかないじゃないですか!
「じゃあ俺からな」
「うん!」
【右手を上げろ】
俺と藤袴以外の二人が即座にに右手を上げ、藤袴は何事もないように二人を見る。なかなかに異様な光景だ。
そしてそれを見ている俺!
「おおー! これが絶対遵守の『ランスロット』? 目が赤くなってる!」
「そうだよ。つーか、本当に藤袴には効かんのな……」
無差別発動で、三人ともに繋いだつもりが、藤袴には繋げなかった。
いや、厳密に言うと一瞬はリンクできたのだ。
それが直ぐにキャンセルされた。
繋ぐ段階からキャンセルされるなら、その後の本命である命令を下すなんて到底できない。
「俺の能力と藤袴がキャンセル能力を持つことは証明されたな。次はトモが能力を見せる番だ」
「はいよ。皆、ちょっと離れててね」
そう言ってトモは、一番近い窓を開けた。
そして開いた窓から右手を肘までだし、足を前後に少し開いて軽く腰を落とす。
トモの黒目が青くなる。『ガウェイン』発動状態だ。
そして、右手でデコピンの構えを作った。
「"ブースト"三十%!」
その声と共に、トモの右手全体の周りに青いプラズマのようなものがバチッバチッと断続的に発生する。
『ガウェイン』使用時に、身体に留めておけずに溢れる余剰エネルギーだ。
かなり指に力を込めているのが外野の俺たちからも見える。
ーーそして、その押さえられていた指を解放した。
ボウッ! と激しい風が起きる。
耐えられないものではないが、明らかに、どう考えても人がデコピンで出せる風圧ではない。
もっと近くにいれば、数メートルは後方に飛んでいただろう。
トモの周りの窓ガラスが割れなかったのは奇跡と言っていい。
「これがオレの『ガウェイン』。身体能力を強化できる。強化には段階があって、さっきのは三十%くらいだ」
「おおー! すごいすごい!」
藤袴は拍手喝采。
そりゃそうか、『ランスロット』よりもわかりやすい上に派手だもんな。
……ちょっとだけ羨ましい。
隣の芝生は青いもんだな。
「さて、円卓の異能を信じる気になったかね、藤袴?」
「うーん、まだ実感ないですけど……。これをみてると信じるしかないですよねー」
「じゃ、本題に入る。藤袴、君は生徒会に入りたまえ」
お? いいねぇ。
予想外の援護射撃に驚く。
まさか先生が生徒会役員の勧誘に手を貸してくれるとは。
ただ、これまでの話との繋がりがなさすぎて、俺も意味がわからん。
「いや、その話の流れはおかしくないですか? ……てか、生徒会って言ってもほら、他にやることあるし……」
[元はと言えば俺らの問題だ。先生に頼るのもアレだし、多少ゴリ押しでもここで言質をとるぞ!]
[了解!]
「ほら、藤袴。勉強なら俺が
教えるしさ。買いたいものがあるならトモに行ってきてもらえば良い。見たろ? 『ガウェイン』。走るのも速えぞ」
「オレたち、マジで人足りないんだよ! お願い!」
そう言ってトモは頭を下げた。
ここで俺が下げないのもどうかと思い、即座に俺もトモに倣う。
「うーん……そうは言ってもなぁ……」
まだ決めあぐねている。
これが普通の人ならランスロットで一撃だが、藤袴にはそれができない。
もうひと頑張りだな。
「頼む! 藤袴様!」
「え、ちょっと! 早蕨くん! 土下座やめてよ!」
必殺、土下座だ。
日本古来から伝わる由緒正しき誠心誠意の象徴。
これを前にして頼みごとを断れるヤツはこれまでに見たことがない。
中学での英語の小テストの延期交渉の際は絶大な効果を発揮した。
「ああもう、わかった! 生徒会入るから! 顔あげてよ!」
よし!
俺は密かにほくそ笑んだ。
この場には俺とトモ以外にも宿木先生がいる。
三人分(一人は教師)が言質を取ったのだ。これで後から無かったことにはできない。
「よろしく、藤袴さん。生徒会へようこそ。仲良くやっていこう」
「オレもよろしくぅ!」
「……ハァ。卑怯な気もするけどなー。……まぁ、うん! よろしくね!」
藤袴は覚悟を決めたようだ。
強引だったが、これでやっと一人入った。
また、今度は三人で新しい人を探さないと。
あと最低でも一人は欲しい。
……だがその前に、先生に聞かなきゃいけないことがある。