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副会長の仰せのままに。  作者: ザト伊織
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変態先輩と飾らない系美少女妹

[と言っても、霧島先輩の相談内容ってユーマの能力で簡単に解決するよね]


[ああ。あの様子だと本気で襲いかねないし、明日あたりにおとなしくなってもらおう]


[わかった。じゃあまた明日]


[おやすみ]



夜空には、雲で隠れた言葉にし難い中途半端な形の月が淡く光り、片手で数えられるほどの数の星たちと共にその光を俺の部屋へ届けている。


時計の針は一時半を指していた。


遅くまで本を読み、さて寝ようと俺が布団に入ったのが二十四時。

睡眠開始直後から突入する最初のノンレム睡眠を破壊し、脳内を蹂躙するかのようなトモの声が響き渡った。


その時で一時だ。


非常識に加えて無駄な前置きが長すぎた。

いくら春が近いとはいえ、まだ夜は少し冷える。


いっそのこと能力を使ってあいつを眠らせてやろうかと思った。


で、その非常識なALのおかげで依頼人第一号への方針が決まったのだが、どうにも釈然としない。


俺の能力で強制的にあの変態を無害なやつに変えてもいいんだろうか。


そりゃ、トモは遠慮なくやれって思ってるのかもしれないけど。


本来の目的と完全にズレている。


そもそも俺の能力はそうおいそれと人に使っていいものじゃない。

トモもそれはわかっているだろうが、背に腹なのかもしれない。


でも、俺たちはそんなことがしたかったんじゃないだろう。


モヤモヤとした気持ちを抱きながら、俺は今度こそ寝た。







先輩が来ない。


昨日、「明日も来て」とは言ってないが、来るもんだと思っていた。

いや、別にあの人は来なくてもいいんだけど


がしかし。

だがしかし。

うん、あのネーミングセンスには震えたね。

駄菓子のことも知れて良い作品だ、だがしかし。


もう授業が終わってから一時間は経っている。

それでも未だに来る気配がない。


その時、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。

二回のノックはトイレ用だから普段は三回ノックするのがマナーらしいぜ。


「どうぞ」


俺がそう言うと、おずおずと言った様子で女子とおぼしき髪の長さがモザイク窓から見える生徒が扉を開け……ようとするけどなかなか開かないのよね、あの扉。


やっぱり建てつけ悪い。


「トモ、悪いが行ってくれ」


「了解!」


相手が女子ということで調子に乗ったトモが大喜びで扉へと走っていく。

まるでご主人様を見つけた時の犬のようだ。


「オッフォ!」


なにやら変な声が聞こえたので、その声の方を向いてみると、トモが開けた扉の前でK.O.寸前のボクサーのようにガタガタブルブルと膝を爆笑させて悶えていた。


何があったんだよ。


……その答えはすぐに出た。


トモの前で困ったような表情を浮かべているのは、かなりの美少女だった。


黒くツヤのある、見ただけでサラサラとわかるロングの髪をそのままストレートでおろしている。

太っていないが出るところはそこそこ出て、地味に良いスタイルを持っている


「白くきめ細やかな肌に高く整った鼻先、優しそうだが芯の通っている印象を受ける双眸。さらにアクセントになる小さな泣きぼくろがセクシーで男の劣情をこれでもかと掻き立てる」


「ユーマ、声に出てるぞ……」


「変態……!?」


どうやら、その女子生徒に変態だと思われてしまったようだ。


不名誉きわまりない。


誤解は早急に解く必要がある。


「待って! 俺は別に変態じゃない。アンタのことは名前も知らないし、だからこそ内面より外見に着眼点を置いて、『うわぁ……綺麗と可愛いの融合体だぜ……。エロっ!』とか思っただけだ。それがいつからか知らないけど声に出てしまっていたことは些細な問題にすぎない。要は、もともと俺は頭の中だけでアンタを分析するつもりだったんだよ」


「それはもう十分に変態と呼べるねー」と、呆れた様子でその女子は言った。


そんなバカな。

俺ほどの紳士は少なくともこの学校にいない。

アイムベストジェントゥルマン。


「生徒会で悩み相談できるって来たんですけど」


「そういうことでしたら、ぜひそこの椅子におかけ下さい」


「ご丁寧にどうもー」


トモはどこかで覚えたと思われるうやうやしい態度でお嬢様のように彼女に接している。

気分はさながら執事といったところだろう。


言っちゃ悪いが、トモのイメージと全く合っていない。


[で、今さらだけど、この可愛い人誰?]


[奇遇だね、ユーマ。オレも知らない。てかオレら、知らない人多すぎない?]


[俺、名前も知らない奴に変態呼ばわりされたのか……]


[いや、さっきのユーマは見間違える心配もないぐらいの完全な変態だった]


[あっそ]


「二人とも、さっきから視線を交わし合って何しているの?」


「お気になさらず。で、どちら様でしょうか」


「一年五組、藤袴和紗です!」


和沙って名前、昨日霧島先輩が言ってたのと同じだ。


もしかしたら……。


けど、その線は薄いか。

苗字が違うし。


だが、一応記憶の片隅に留めておく。


「そうか。よろしく、藤袴さん」


トモが驚いた顔で俺を見てくる。


「ユーマ、お前……」


「何だよ。俺の顔に何が付いてるか?」


「顔? いつも通り普通にブサイクだけど? それよりもユーマ、女子と話せたのか……!」


「いや、普通に話せるから」


コイツいつかシバいてやる。


いつから俺は女子耐性のないやつになったんだ。


「で、藤袴さんの相談ってのは?」


「お兄ちゃんの私を見る目つきが気持ち悪いんです!」


「そのお兄さんのお名前は?」


「霧島勝也」


どうやら俺の読みは当たり。

ビンゴだ。

苗字が違うってことは血は繋がっていない可能性が高いな……。


そこには触れない方が良さそうだ。


[ユーマ、霧島だって。昨日の変態だよね?]


[うん。彼女の依頼内容から見ても間違いないな]


[でも苗字が違うよ]


[面倒な事情でもあるんだろそこには触れない方向で話そう]


[了解]


俺はゆっくり深呼吸をしてから切り出した。


「自分で何か対処はやってみた?」


「はい。やんわりと口で言ってみたりはしたんですけど……。ま、それで解決するならここには来てませんよね」


「あ、タメなんだし敬語は使わなくていいよ」


「あ、うん。わかった!」


順応早ぇ!


なかなかに快活な人だ。

学年有数の美少女だろうに、俺たちみたいなスクールカーストの底辺に位置するやつらにまで人当たりも良いと、嫉妬の気すら抱かれないんじゃないか?


さて、どうしたもんか……と考えていると、またもドアをノックする音がした。


さて、考えてみましょう。


誰が来たのでしょうか!?


そこで考えられる可能性は三つ。


霧島先輩、村田先生、新規依頼者の誰かだろう。


後の二つはいい。


だが霧島先輩だった場合、藤袴がいるこの状況で鉢合わせするのはまずそうだ。


[トモ、霧島先輩の匂いってわかる?]


[まだ覚えてないよ]


それはそれで、他の人の匂いは覚えてるっていう問題発言なわけだが、スルーすることにした。


「どちら様ですか?」


「おーう。俺だ、霧島だ」


呑気な声が扉の向こうから聞こえてきた。


ヤバいヤバい。

戸の建てつけが悪いとはいえ、男子の力ならすぐに開いてしまう!


「藤袴さん、緊急事態だ。今すぐどこかに隠れて!」


「何で?」


「話聞けよ話を!霧島勝也が来てる!」


外に声が漏れないよう、小声で藤袴に言うも、取り合ってくれない。


「何で私のお兄ちゃんの名前、知ってるの? 苗字も違うのに」


急に藤袴は、これまでとは打って変わって鋭い雰囲気を纏う。


俺の中で短時間でだが構成されたイメージが揺らいだ。


が、今問題なのはそこじゃない。


「あー、もう! 合掌……」


妹への異常なまでの感情を抱いている兄と、その兄がドア一枚隔てた場所にいて、もうすぐ部屋に入ってくる状況を理解できてない妹。


これから始まる地獄絵図(霧島先輩の暴走)を思うと、もう神と仏に祈るしかない。


「お邪魔ー」


扉が、開いていく。


その動きが、スローモーションのように見える。


その時、急に何かの音が響いた。


同時に、開いていくはずの生徒会室の扉の動きも止まる。


どうやら扉の向こうにいる霧島先輩の携帯電話の着信音らしい。

話し声も聞こえてきた。


一応言いますけど、校内でのスマホの使用は厳禁ですよ。


「悪い、用事入ったからまた今度来るわ。そんときゃよろしく頼む」


通話を終えた先輩が顔だけ覗かせてそれだけ言うと、先輩はどこかへ行った。


とっさに藤袴の前にトモが立ってその大きな影に隠したから、さっきの一瞬では先輩からは見えなかっただろう。


「危なかったー!」


「かなりヤバかったね、ユーマ」


「二人とも、お兄ちゃんのこと知ってるの?」


藤袴が再び聞いてくる。

その顔に浮かんでいるのは驚き半分、警戒半分だ。


「いや、最初の依頼人が霧島先輩なんだよ。相談を受けることで生徒会に興味を持ってもらうってのが目的なんだけど、新三年は生徒会には入れないからな。どうしようか考えてたところだ」


「相談内容は?」


「かいつまんで言うと『妹が可愛いすぎてヤバい』」


「いや、その相談は真面目に受けなくていいでしょー。結構私、恥ずかしいし」


そう言うと、藤袴は椅子に座った。


全然恥ずかしそうな素振りは見せずに。


倣って、俺たちも席に着く。


「まぁ最初が肝心だからな。マイナスイメージを校内に付与されたらたまったもんじゃないし。今、生徒会メンバーが俺とトモだけでかなりまずいんだ。このまま二年になって本格的に表立って活動するようになると、二人じゃどうも立ち行かん」


「そうだ藤袴さん、生徒会入んない? 何か部活やってる?」


トモが本命を切り出した。ナイス!


俺もちょうど誘ってみようと思っていたところだ。

下手な鉄砲じゃないが、数打ちゃ誰かは引き受けてくれるだろう、くらいの感覚で。


でも誰か早く生徒会入ってくんねーかなー、みたいな最大公約数みたいなことも考えてた。


この萩月高校では、比較的自由な校風からくる部活の多さに定評がある。


中には部員数の問題で形骸化しているところもあるだろうが。


そして、生徒会も一つの部活という扱いになっている。

他部との兼部も可だが、ハードなことは考えるまでもない。


「部活はやってないけど……。うーん、生徒会かぁー。ごめんだけど、考えさせて」


そう言って申し訳なさそうに軽く頭を下げる藤袴。


はいこれ、きましたね。


確定演出。

『考えさせて』このセリフを使う人はまーあだいたい後でちゃんと拒否するよね。『一応考えたから!』感を出しつつ自分にも相手にもマイナスの感情を抱かせにくい、便利な言い回しだ。


面倒ごとの気配を察知したら俺もよく使う。


……と、藤袴には期待値低めの設定にしとかないとな。




結局、それから藤袴は生徒会室に来なかった。

彼女の以来自体も漠然としたもので具体的に何をしてほしいか言われてないから、こっちから関わりを持つ必要もない、ということで俺とトモの意見は統一している。


多少のしこりは残るが、藤袴は俺たちのことなんて、すぐに忘れて楽しい青春を謳歌するのだろう。


そこに関しては羨ましくないと言えば嘘になるが、俺は自分の高校生活に高望みはしない。

生徒会に入ってしまった時点で描いていたものとは違ってるが、その点を除いて、やはり平凡に青春時代を浪費するのだろう。いや、むしろ平凡でいい。


それがいい。


「ーーおい、聞いてるか、早蕨?」


急に声をかけられ、慌てて思考の海から現実へ戻る。


俺は時間的制限に圧迫され、他の生徒会メンバーを集める方法を宿木先生に聞きにきたんだった。


「すみません、なんでしたっけ?」


「いや、誰か誘ってみたのか?」


「藤袴和紗……さん。を誘ってみたんですけど、上手くはぐらかされて結論を聞けてないです。Noでしょうけど」


「大丈夫だと思うがな。お前らは惹かれ合うんだから」


何を言ってるだ、この先生は。


惹かれ合う?


それは違うだろ。


この前とか一方的に逆にドン引きされたんだが。

俺にも落ち度はあったけど。


「能力者同士、惹かれ合うんだよ。スタンド使いみたいにな」


「あ。へぇ、そっスか。それなら楽でいいんですけーーって今なんて? 能力者?」


適当に流していたが、聞き捨てならない単語に思わず反応する。


この学校では俺とトモしか俺の異能は知らないはずだ。

誰にも言ってないし、トモも言いふらすようなやつじゃない。


そもそも言いふらす相手が俺たちにはいない。


待て、落ち着くんだユーマ・サワラビ。


きっとアレだ、普通一般的な能力の話だ。勉強、スポーツ、カリスマとかの。


第一、その話が本当なら藤袴も俺やトモみたいなそれこそ『普通』じゃない力を持ってることになる。

それはないだろう。この近場にそんなに能力者がいてたまるか。


とりあえず、平静を装う。


「まぁ、アレだな。昼休みに職員室でする話でもないし、詳しいことは放課後、生徒会室でしよう。須磨も呼んどけよ」


それだけ言って、先生はカツカレーを食べはじめた。


異能の話は、その時、それ以上俺の方から言い出すことはできなかった。



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